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「自然に触れれば、ニュートラルな感覚になれる」小松崎拓郎さんが目指す、グリーンな暮らし

これからの暮らしを考えるウェブメディア『灯台もと暮らし』の編集長で、フォトグラファーやビデオグラファーとしても活躍する小松崎拓郎(こまつざき・たくろう)さん。これまで、日本各地で自分らしく生きる人や、地域や未来のために持続可能性を探求する組織など、暮らしにまつわるさまざまな取材をされてきました。

2018年からは、ドイツでの生活も経験。そのころからは「グリーンな暮らし」をキーワードに、ナチュラルで持続可能な生き方のヒントをnoteYouTubeなどで発信されています。

2021年に帰国してからは、日本での自然派生活を目指し奮闘中とのこと。2022年からは、島根県の自然豊かな場所での生活を始めるところなのだそうです。

今回は、小松崎さんが大切にされている「グリーンな暮らし」とは、いったいどんな暮らしなのか、そして彼自身がその価値観にたどり着いた経緯について伺いました。

編集者としてさまざまな「暮らし」のあり方に触れてきた小松崎さんが考える“自然体”について、探りたいと思います。

自然に触れたことで、人間本来の感覚を取り戻せた

──小松崎さんは、さまざまな手段で「グリーンな暮らし」について発信をされていますね。「グリーンな暮らし」とは、どんな暮らしのことなのでしょうか?

「自然に近い暮らし」と表現するのがいいかもしれませんね。

もともと日本人は、銀杏の実を拾って天ぷらにして食卓に出したりだとか、木の皮や葉っぱをちょっとしたお皿として使ったりだとか。そういう、身のまわりにある自然を最大限に生かして生活していました。ぼくも、そういうことをしたいなあと考えるようになったんです。

──どうして、そう思うようになったのですか?

まず、下地になる経験がいくつかあって……

ひとつは、母がターシャ・テューダーというアメリカの絵本作家さんが好きだったこと。彼女は小さな町でスローライフを送り、広大なお庭でガーデニングを楽しみながら暮らしていた人なんです。母は、彼女の作品だけでなく、暮らしぶりにも憧れたみたいで。その影響で、「こうやって自然のそばで暮らす生き方もあるんだ」と、昔からなんとなく刷り込まれていた気がします。

もうひとつは、ぼく自身が茨城の自然のなかで育ったことですね。だからいまでも、広い空や、田園風景を見ると落ち着きます。道にはトノサマバッタがわんさかいて、トカゲもいて。カブトムシをとったり、キジが飛ぶのを観察したり。子どものころは、いつも生きものが身近にいました。でも、街の開発が進むにつれて、どんどん生きものが減っていく様子も目の当たりにしたんですよね。それで、「人間の都合でほかの生きものの生活が脅かされてしまっていいのかな」と、漠然とした疑問みたいなものは抱いていました。

ただ、これらはあくまで原体験であって。当時は「なんとなく」の興味や疑問を抱いていただけ。大人になって、ここまで「自然のそばで暮らしたい」と思うようになるとは想像していませんでした。

──そうだったんですね。では、大人になってから、さらにきっかけとなるようなできごとがあったんでしょうか。

『灯台もと暮らし』に携わるようになって、暮らしについて考える機会が増えていったのもありますが……それに加えて、ドイツでの生活を経験したことが大きかったですね。

2018年から2年半ほど、妻と二人でドイツのベルリンに住んでいたんです。もともと、妻は20代のうちに海外での暮らしを経験してみたいという夢を持っていて、「外国に住めたらいいね」とはずっと話していました。それでどの国に行こうか考えていたとき、お仕事で関わるいろいろな方から「ベルリン、面白いよ」と言われて。よし、行ってみよう、と。

撮影:小松崎拓郎

──ベルリンの生活のなかで、どんな発見があったんですか?

時間の過ごし方が、ぜんぜん違うんです。

たとえば、日本の大人は「遊ぼう」となったとき、お店に行って食事をしたりすることが多いですよね。でも、ドイツでは公園に集まって緑のそばでのんびりと過ごしたり、身体を動かしたり、みんなでビールを飲んだりします。

ドイツの住宅建築も面白くて。ブルーノ・タウトが建てた共同住宅や、ルートヴィヒ・ミース・ファン・デル・ローエが暮らした家も見に行ったことがあったのですが、建築の巨匠と呼ばれてきたような人たちが建てた家にも、やはり自然がすぐそばにありました。

とにかく、日常的に楽しく過ごす場所が「自然」なんですよね。これが結構衝撃でした。

撮影:小松崎拓郎

──たしかに、いまの日本では、「自然のなかで過ごす=非日常」と捉えられることが多い気がします。

そうですよね。

ドイツでは、自然のなかで過ごすことが本当に当たり前で。日常生活となめらかにつながっているような感じなんです。

ドイツの家庭には、エアコンがない場合が多くて。暑い日には木陰で涼んだり、湖水浴を楽しんだりもします。湖水浴、いいですよ。家からパンなどの軽食を持っていって、湖で4、5時間過ごすんです。ほとりの木陰でくつろいだり、ときどき水に入ったりしながら。自然のそばでリラックスできる時間って、最高だなぁ、と。

撮影:小松崎拓郎

あとは、自宅で過ごす場合も、お庭やテラスにいる時間が長いですね。かならずと言っていいほどテーブルと椅子が置いてあって、コーヒーを飲みながら日光浴をしたりする。これも本当によくて。ぼく自身も、ドイツにいる間はよくバルコニーでのんびり過ごしたり、仕事をしたりしました。

撮影:小松崎拓郎

──自然のそばで過ごす時間の、どんなところがよかったんでしょうか?

太陽の光を浴びることや、風を感じることだったり……そういうのって、自分の五感をすごく甦らせてくれるんですよね。頭も心もクリアになって、思考が回転する感覚も得られます。

ベルリンで自然に触れる生活をしたことで、人間としての本能的な感覚を取り戻せたというか。自然のなかで過ごす時間は、ぼくをニュートラルな状態にしてくれることに気付いたんです。

人間も、動物ですし。もっと、動物らしく生きていくのもいいんじゃないかな、と。それで、もっと自然とつながった、「グリーンな暮らし」をしたいと思うようになりました。

撮影:小松崎拓郎

人のために生きられるように。ニュートラルな感覚でいたい

──「グリーンな暮らし」のあり方を発信することで、小松崎さんは世の中にどんな発見や変化を届けたいと考えていらっしゃるんですか?

「何かを変えてやろう」といった意識は、いまのところそこまでないんです。

まずは自分たちが、心地よい「グリーンな暮らし」を実践していくことが大事かなと思っていて。ちょうど2022年の3月から、新しい場所での生活を始めるところなんです。島根県の豊かな自然に囲まれた家に、妻と二人で引っ越します。

新しい生活がスタートしたら、やっぱりお庭を過ごしやすい場所にしたいですね。畑もやりたいなと思っています。毎日の食卓に、とれたてのお野菜を使ったり。近くの野原で野花を摘んできて、部屋に生けたりだとか。

──素敵です。心が豊かになりそうですね。

空気がおいしくて、風が心地よくて、水もきれい。

おいしい食べ物が身近で気軽に手に入って、それを誰かと一緒に食べる。そんな暮らしが、すごく幸せだと思いますね。

そうやって、自分が満たされる暮らしを整えていけたら、いずれはぼくたちの発信を通して、都市部で暮らす人たちに何かインスピレーションを届けられたらいいな、とも考えています。

──小松崎さんが「グリーンな暮らし」を実現していくことによって、ご自身の生き方にはどんな良い影響がありそうでしょうか?

やっぱり、いつでもニュートラルな状態に立ち戻れる、というのがいちばんですかね。

自分の心や身体をゼロの状態に整えたいときに、いろいろなノイズを取り除ける場所って、すごく必要だと思うんです。それが、ぼくにとっては自然のなか。

ニュートラルな状態でいると、気持ちに余裕が生まれます。すると、人に対してちょっとやさしくできたり、相手を受け入れる余裕もできる。

ぼくは、人のために生きられる人間でありたい、と思っているんです。

これまで『灯台もと暮らし』のお仕事で、次世代のために行動し続けている人や、地域の幸せを考えている人など、自分以外の誰かをものすごく大切にしてくれる人たちとの出会いが、たくさんありました。そういう人たちの姿を見て、自分の欲求よりも、「人のため」を考えられる大人って、すごく素敵だなぁ、と。

きっと、その人たちにとっては、誰かのために行動して、喜んでもらうことが、もやは「自分のため」にもなっているのかもしれませんね。ぼくも、そういう人でありたいと思います。

だから、ぼく自身が「グリーンな暮らし」を実現できれば、もっと誰かのために生きる心の余裕も生まれていくんじゃないか、と期待しています。

──これまでのお話にも散りばめてくださっていたと思いますが、最後に、小松崎さんにとっての“自然体”とはどんな状態か、教えていただけますか?

まず、自分の気持ちがニュートラルというか。プラスでもマイナスでもない状態が、心地いいと感じます。そのうえで、「人のために何ができるか」を考えられる存在でいようとすることで、心が良い状態に保たれるんです。

だから、自然のなかでニュートラルな自分を保ち、誰かのために生きられる人間に近づくことが、ぼくにとっての自然体なんじゃないかと思います。

こうやってこの社会に生きていると、どうしても他人のことがよく見えて、ああなりたい、こうなりたいと欲が出てきます。ぼく自身も、油断するとそういう思いが出ることもあるんですよ。

でも、人と比べずに、自分の大切にしたいものを、それぞれの人が大切にすればいいんじゃないかと思うんです。だからぼくは、これからも自分たちが大切にする「グリーンな暮らし」を実現していきたい。そして、結果的にぼくたちの発信や、未来での取り組みが、少しでも誰かのためになってくれたらうれしいです。

小松崎拓郎

1991年茨城県龍ヶ崎市出身。フリーランスの編集者・フォトグラファー・ビデオグラファー。大学在学中にこれからの暮らしを考えるウェブメディア『灯台もと暮らし』創刊に参画、2018年より編集長。フリーランスの編集者として企業や自治体のブランディング、写真や映像を活用したPR業務に携わる。2018年に渡独し、ナチュラルで持続可能な暮らし方のヒントを発信。2021年に帰国し、日本で循環型の自然派生活を夫婦でめざし奮闘中。

noteYouTube


ソラミドについて

ソラミドmado

ソラミドmadoは、自然体な生き方を考えるメディア。「自然体で、生きよう。」をコンセプトに、さまざまな人の暮らし・考え方を発信しています。Twitterでも最新情報をお届け。みなさんと一緒に、自然体を考えられたら嬉しいです。https://twitter.com/soramido_media

取材・執筆・撮影

笹沼杏佳
ライター

大学在学中より雑誌制作やメディア運営、ブランドPRなどを手がける企業で勤務したのち、2017年からフリーランスとして活動。ウェブや雑誌、書籍、企業オウンドメディアなどでジャンルを問わず執筆。2020年からは株式会社スカイベイビーズにも所属。
https://www.sasanuma-kyoka.com/

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