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地元が好き、でも生きづらい。複雑な気持ちは両立するから。地方女子プロジェクト・山本蓮さん|連載「ジェンダーのmado」

「女として、男としてこうすべき」「家族とはこうあるべき」「母としてこうすべき」。

そんな固定観念にしばられずに、自分らしい選択がしたい。そう願う全ての人たちにお届けする、連載『ジェンダーのmado』。

この連載では、日々の”モヤモヤ”を出発点に、ジェンダーの専門家や実践者の”生き方”に耳を傾けながら、自然体な生き方を探究していきます。

***

“女性として働くには選択肢が少ない。結婚や出産を急かされる。家族も友人も大切に想っているけれど、誰にも言えない”モヤモヤ”がある。都会に出れば楽になるのかもしれない。だけど、生まれ育った地元を離れたくない気持ちもある。”

そうした気持ちを抱く女性たちに対して、嫌なら上京すればいい、と言う人もいますが、『地元は好き』でも『生きづらい』という複雑な気持ちは両立するものです。

それに誰もがすぐに生活をガラリと変えられる状況にいるわけでもありません。

地元や地方を否定しているわけではない。むしろ魅力を知っているからこそ、“女性が生きづらい”という課題を解決していく必要があると思うんです。

まっすぐな眼差しで語るのは、『地方女子プロジェクト』代表の山本蓮さんです。

山梨で生まれ育ち、就職活動を機に「地方で女性が働くこと」の難しさを目の当たりにした山本さんは、地方に暮らす女性たちの声を集め、地方特有のジェンダー課題や生きづらさの本音を発信する団体『地方女子プロジェクト』を立ち上げました。

地方に暮らしながら、小さな違和感を抱えている。都市で暮らしていて、地方の現実に触れる機会が少ない。そんなあなたへ。

今日は山本さんの歩みを通して、地方女性たちの揺れ動く本音を一緒に見つめてみませんか。

地元を出たい!と、願っていたあの頃

現在、山梨に拠点を置きながら『地方女子プロジェクト』を通して女性の声をすくい上げている山本さん。そんな彼女も、かつては「地元を出たい」という思いを強く抱いていたと言います。

小さい頃から音楽や漫画、ファッションが大好きだったんです。でも、ライブは山梨にはなかなか来てくれないし、大きな本屋さんも近くになくて、自分がやりたいファッションも地元じゃ浮いちゃう。

好きなものに思いきり浸れないことが、ずっともどかしかったんですよね。地元を出れば、もっと自由になれるんじゃないかって、だんだん思うようになりました。

そこには、将来への切実な想いも重なっていきました。

なんとなく“自分で稼いで生きていきたい”という気持ちはありました。

でも、周りにそういった女性の姿が見えなかったんです。母は専業主婦で、友達のお母さんもパートの方が多くて。ドラマの中のバリバリ働く女性は、どこか遠い世界の話のように感じていました。

東京に行かないと、こういう生き方はできないんじゃないかって思っていたんです。

“自分らしく生きたい”という願いがありながらも、“その道筋が見えない”という行き場のない思いを胸に過ごしていた中高生時代。気がつけば、「ここではないどこか」への憧れが、静かに膨らんでいきました。

なぜ、私たちは怒られているんだろう?

海外への憧れも抱いていた山本さん。県内に外国語を学べる大学があったこともあり、進学後も地元に残る選択をしました。

そこで、思いがけず大きな転機を迎えることになります。

大学の授業で、ジェンダーを学びました。

男性優位の社会構造や、女性がこれまで声を上げてきた歴史を知って、視点がガラリと変わったんです。

自分がなんとなく感じていた生きづらさや違和感の理由が、あきらかになっていく面白さがありました。

目を見開いて、ワクワクした表情で話す山本さん。ですが、その”視点の転換”は、具体的な痛みを伴って山本さん自身にも突きつけられることになります。

大学のフリーペーパー編集サークルで、毎年『美男美女図鑑』を制作していたんです。

ところが学内のジェンダーサークルから『これはルッキズムだ!』とビラをまかれてしまって。

自分が一生懸命やってきたことを否定されるような気持ちになり、すごくショックを受けました。

ちょうどその頃、東大をはじめ各大学でもミスコンに反対する動きが広まり、「これっておかしいよね」という空気が社会全体にあることも知ったといいます。

最初は受け入れられなかったですよ。でもショックだったからこそ、

『ルッキズムって何なんだろう?自分たちはなぜ怒られているんだろう』

と調べ始めました。

「思考を重ねる中で、ある気づきにたどり着きます。

もともとファッションが好きだったのも、“普通から外れても自分らしさを貫く人”に惹かれていたからなんです。

でも美男美女を選ぶ企画は、いわゆる“男らしさ・女らしさ”といった“普通”をなぞるものだった。自分の好きと、逆の方向にあったのかもしれない、と気づきました。

授業やサークルの中で対話を重ねながら、模索は続きます。その過程そのものを記事にし、発信することもあったそう。およそ1年にわたる試行錯誤の末、山本さんは納得感を持って相手の意見を受け入れられるようになっていったと言います。

“自分は気にしないから大丈夫”ではなくて、相手の立場で考えること。相手の感じていることを、なかったことにしないこと。

そうやって、これまで考えてこなかったことを考え直すきっかけが、ジェンダーやルッキズムだったのだと思います。

そこから自身の身に起きた変化を自己完結せず、自分の考えや感じたことを周りにも伝えてみることに。

最初は『あなたは悪くないよ』って言ってくれていた友達も、だんだん一緒に考えてくれるようになって。それがすごく嬉しかったんです。

発信するのは怖さもありましたが、言葉にすることで周りの人の変化も促せることに気づきました。

自分から動けば何かが変わるかもしれない、と思えるようになった。まさに原体験ですね。

その“視点の変化”は、進路選択にも影響を与えていきます。

高校生までは、いつか地元を出て、東京や海外へ行きたいと思っていました。“刺激の多い都市”へ行かないと、自分を変える経験はできないと思っていたからです。 

でも自分が視点を変える努力をするだけで、世界はこんなにも違って見えるんだって。ここにいても、自分を変えられるのかもしれない。

そう感じられたことが、自分にとってのターニングポイントだったのだと思います。

就活で突きつけられた現実「うちに来ない方がいいよ」

地元に残ることに希望を見出し始めた頃、山本さんを待っていたのは、就職活動という現実でした。

地元の中小企業を受け始めたら、働いている女性が本当に少なくて。

『うち女性いないけど大丈夫?』って聞かれたり、男女ではっきり営業職・事務職が分かれていたり。

新卒の時点で、女性が働くってこんなに難しいのか……と思いました。

特に忘れられないのが、同じ大学の先輩が就職していた地元企業を訪問したときのことだったといいます。

先輩から『うちの会社に来ない方がいいよ』って言われたんです。

『留学もして海外営業ができるからという理由でこの会社に入ったのに、女性だからって事務に回されちゃって。営業は全部男性がやっていて、全然やりたいことができていない』

と率直に話してくれました。その先輩のことが、忘れられなくて。

悔しさを滲ませながら語る山本さん。このとき、「地方の生きづらさは、“上京するか、地元に残るか”というシンプルな二択で解決できるものではない」と確信したといいます。

私も『じゃあ東京で働けばいいや』と思う気持ちもありました。

でも再会した先輩が暗い気持ちで働いている姿を見て、すごく悔しかったんですよね。

新卒では、地方創生に関わる地元のベンチャー企業に就職した山本さん。

代表から「今までで何が一番悔しかった?どんな課題を解決したいの?」と問われたとき、パッと浮かんだのは、やはり就活の日々だったと言います。

───自分から動くことで状況を変えられるかもしれない。

大学時代に経験した“変化の手応え”が、再び背中を押していきます。

声を聞くことから始まった「地方女子プロジェクト」

どうしたら課題解決に近づくのか。暗中模索していると、たまたま申し込んだ地方女性起業家向けのアクセラレータープログラムで、こう言い放たれたと言います。

「まずユーザーのニーズを知らないとダメでしょ!とにかく地方の女性の声を聞いてきなさい。あなた、それだけでいいから!」

山本さんはハッとした表情を浮かべ、当時を振り返ります。

「そうか、とにかく声を聞こう」と。

地方出身や在住の方にインタビューをして、動画としてSNSにアップしていきました。実はこの活動がそのまま、『地方女子プロジェクト』になっていったんです。

地方女子プロジェクトのInstagramやYouTubeには、20代〜30代の若い女性たちが本音で語る姿がありました。

女の人がご飯をよそったり、ビールを注いだり。男の人はしゃべってるみたいな。私も将来、こんなことしなきゃいけないのかな……。嫌だなぁって。

お母さんからは、ことあるごとに女の人は気が利かないとダメだよって言われて。え?女性って生きづら……って高校生のときから思ってました。

漠然と帰りたいなという思いはあるけど、仕事が……。帰りたくても帰れない。なんで地元に帰ってこないの?と言うのなら、帰った先での働き先を用意してくださいって思います。

帰った瞬間に、親から『結婚はどうするのか?』とか聞かれるから、それはちょっと……しんどいなぁって。

日本では約8割の地域から若年女性が首都圏に流出し、人口減少・地方衰退の一因になっていると言われています。そうした現実を前に、インタビューを続ける山本さんはこう思ったそうです。

───それって私たちのせいですか?

私たちだけで共感して終わらせちゃいけない。

苦しんでいる当事者以外の人たち、つまり周りが変わるべき、という意識がずっとありました。

そこにあるのは、大学時代にビラをまかれる側だった自分。変わるべきは苦しんでいる当事者ではなく「無自覚な周り」だという実感でした。

だからこそ、性別や世代を超えて、親や親戚、会社の上司など、地域にいる人にこそ聞いてほしいって。

動画に広告を出せばその地域で流せるから、“強制的に聞いてもらえる機会を作れるんじゃないか”と思って始めました。

そして動画で伝えたかったのは、もうひとつ。綺麗な言葉ではまとまらない地方女性たちが抱える気持ちの”複雑さ”でした。

地方創生や移住のPRでも、自然が豊かでいいところとか、都心に近い!みたいなものが多いじゃないですか。でもその魅力は、地元に住む私たちはわかっていて。地元の良さを否定しているわけじゃないんです。

ただ、“課題がある”ことを無視しないでほしい。別問題であることを伝えたい。

地元は好きだけど、生きづらいという気持ちは両立するものだし、帰りたいけど、帰れない人もいます。その複雑さを持ち合わせているのが私たちであり、そのままを発信したいと思いました。

活動を始めるまでは、「自分だけがモヤモヤしているのかな」という孤独感もあったという山本さん。ですがたくさんの声を聞き始めると「私もそう思ってた!」「こんなことがあった」と語る同じ想いの仲間に出会えたそうです。

ある方からの感想で、

『地元で住んでいて、嫌だと思うことはあれど、それを“嫌だ”って言っていいとすら思えなかった。でも、言っていいんだと思えて、自分の気持ちを認めてもらえて気持ちが楽になりました』

というメッセージが届いたんです。

『地方女子プロジェクト』は、こういう人たちに『大丈夫だよ!』って言い続ける団体でありたいと、心から思いますね。

一方で、ときには異なる立場からの意見が寄せられることもあると語ってくれました。

「考えすぎじゃない?」「別に私は生きづらくありません」という感想もいただきます。

もちろんそういう側面もあるかもしれないけど、“あなたが感じていなかったとしても、感じている人がいる”という事実を丁寧に伝えていきたい。

中には、本当の気持ちや違和感に蓋をしているだけ、という人もいます。そうした人たちが「おかしいことは、おかしい」と声を発したら、すごく大きなパワーになるんじゃないかと思っていて。

そこを掘り起こしたい気持ちもありますね。

最初の一歩は、自分の心の声を無視しないこと

なかなか変わらない社会に向けて声を上げ続けること——ジェンダーやフェミニズムの活動は、ときに大きな力を必要とし、疲れとも隣り合わせです。フロントランナーである山本さんは、その中で揺れ動く心のあり方を、飾らない言葉で話してくれました。

疲れることも多いですよね(笑)。特に3月8日の国際女性デーは、アクションすることが多くなるので盛り上がりがあって楽しい反面、その後にどっと疲れがきます。そう感じている方も多いんじゃないかな。

でも、この日だけやればいいというものでもないですから。ほかの日にも少しずつ関わる人が増えていったらうれしい。『毎日が女性デー』くらいの気持ちで、みんなで続けられたらいいですよね!

自身の揺らぎについても隠さずに、寄り添うように言葉を紡ぐ山本さん。

私も落ち込むときは、また“やるか”って思えるまで待つ。そんなふうに乗り越えています。それでも歩みを止めないのは、まだ“やりきった”という感覚がないから、ですかね。

もっと大きな輪にしたいし、もっといろんな人の話を聞きたい。私一人では広がりもゆっくりだから、同じように動ける人を増やしていきたいんです。やりたいことがいくつもあるから、また前を向けるのかもしれません。

 取材の最後に、声をあげることへの怖さについて尋ねると、山本さんは少し間を置き、言葉を選ぶように丁寧に話してくれました。

自分が感じていること、考えていることに蓋をしない。無視をしない、ことかなと思います。

声をあげるって、本当にハードルが高い。特に地域の中では、周りの目が気になることも多いですよね。

でも、その一歩は突然生まれるものではなくて、日々の中で自分の気持ちにどれだけ丁寧に向き合えているか、なのかもしれません。

小さな違和感や、ふとした引っかかりを見過ごさないこと。好きなものを大切にすること。その積み重ねが、やがて声になるんだと思います。

***

私が山本さんにインタビューを申し込んだのは、私自身(編集部・貝津)の移住経験がきっかけでした。

地方には豊かな自然があり、ご飯も美味しく、文化や風景から人間らしい暮らしの営みを感じられる。その魅力は、私自身も身をもって実感しています。

けれど、それとは別の問題として、地方で暮らす女性たちの生きづらさや声があまりにも拾われていない現状がある。その事実になかなか目が向けられないことへの憤りや悔しさを感じました。

ただ、人とのつながりが濃い地域の中では、「声を上げる」ことが一歩間違えると隣人や職場の人間関係にも影響を及ぼしかねない——生活のしづらさに直結するのです。だからこそ彼女たちは、声を上げることなく、静かに都心へ流出していくのかもしれません。

その声なき声に「あなたの声を聞かせてほしい」とマイクを差し出し、自分とは関係ないと思っている人にも届くように発信しようと決めた山本さんに、全国の地方女性はどれだけ救われていることでしょう。

当たり前を疑うことは、ときに自分の足元を揺さぶられるような痛みを伴います。自分を否定されたような、やってきたことを批判されているような気持ちになり、相手の意見や自分とは違う考え方を突っぱねたくなることも。

でもそんなときこそ、自分の正しさだけを主張するのではなく、相手の立場になって根気強く考え続ける胆力が必要なのかもしれません。

山本さんが教えてくれたのは、自身の中に起こった痛みや揺らぎをなかったことにせず、自分の頭で考え、他者と対話を重ねる時間こそが、誰かと深く出会い直す入り口になるということでした。

視点が変わると、見える世界が変わる。自分が変われば、人との関係性が変わる。その先で地域もまた、少しずつ変わっていくはず。

小さな違和感を声にすることから、自分の日常に明かりを灯していく。その一歩を後押してくれるような山本さんのインタビューでした。

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