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心をほったらかしにしないで。言葉にして、気づき、認め、癒していく

メンタルヘルス。

最近は身体の健康だけではなく、心の健康にも注意を向ける人が増えている。自分もその一人。身体も心も健康でありたい。そう強く思っている。

けれど、心の健康はなんだか揺らぎやすい。とらえづらい。

心が軽い状態、穏やかな状態、やる気に満ちている状態。いい感じだなと思っていても、ひょんなことで心は乱れる。気持ちが沈んだり、落ち込んだりする。なんかモヤモヤするし、なんか苦しい。

風邪のように咳が出るわけでも、熱があるわけでもない。心の調子が悪い気がするけれど、休んだり、病院に行ったりするほどでもない。だから、見て見ぬ振りをする。時間が解決してくれるだろうと、ほったらかしにしてしまう。

もっと心に目を向けられたらいいのに。そもそも心に目を向けるってどういうことだろう。

そんな問いを一緒に考えてくれる人を探していたときに、思いついたのが友人の松浦桃子さん(以下、まもさん)だった。

まもさんと初めて出会ったのは2019年。彼女が会社員を辞めて、フリーランスのデザイナーとして活動し始めたころだった。何度か会う中で、メンタルヘルスに関するブランドを立ち上げようと思っているという話を聞いていた。

2021年にはCAREN(カレン)というブランドを立ち上げ、「言葉を通して心を満たす」をコンセプトに、マインドフルネスを軸としたカウンセリングやジャーナリングブックの販売、スクール事業などを行っている。海外にも足を運び、メンタルヘルスに関する知見を深めている。

まもさんは、メンタルヘルスについてどう考えているだろう。カウンセリングを受けた人やジャーナリングブックを購入した人たちに何を、どう伝えているのだろう。

活動を始めた経緯から現在の活動、メンタルヘルスについてなど、改めて色々と聞いてみようと思い、取材を依頼した。

自分を見失った会社員時代

ーーお久しぶりです! 1年ぶりぐらいですかね。こうやって取材をさせていただけること、なんだか感慨深いです。出会った当時は、違うことをしていましたよね。

そうそう、当時は銀行員を辞めて、デザインスクールに通っていて。個人でデザインのお仕事も徐々に受け始めていたころだったかな。

ーーなんでデザイナーになろうと思われたんですか?

昔から絵を描いたり、何かを作ったりするのが好きで。学生時代にプリクラが流行っていて、人よりも時間をかけてデコったり、HTMLでブログを作ったりもしていました。

それに大学は建築系の学部でデザインを学んでいたこともあって、デザイナーという仕事にはもともと興味があったんですよ。ただ就職活動をしているときは自分のやりたいことがわからず、とりあえず内定をもらえた会社に入社しました。

ーー学生のときは、まだ自分の進む道が見えていなかった。

まさにそうで、自分がどういう人生を歩きたいかみたいなことが全然わかんなくて。就職活動もうまくいかなかったし、内定をもらっている周りの人と自分を比べて苦しくなることもありました。

なんとか内定が決まって入社した銀行でも、学べることが多々あっていい時間を過ごせたなと思う反面、自分らしく働けている感覚がなかった。それで、落ち込んだ時期もあったんです。

ーーそんな状況だったんですね。

仕事を辞めてデザインスクールに通い始めてからも、2年制だったんですが、途中で辞めてしまったんです。親が精神疾患を患って、なかなか通えなくなってしまって。

転職活動する余裕もなかったので、フリーランスとして活動せざるを得ない状況だったと言えるかもしれないです。

ただ、そういった出来事がひとつのきっかけになって、メンタルヘルスやセルフケアに興味を持ち始めました。親も精神疾患を患っていたし、自分もメンタルダウンしていた時期もあったので、メンタルヘルスやセルフケアに関連する書籍でインプットしたことを実践し始めたんです。

最初は雑誌に載ってるマッサージとか、アロマを焚くとか、簡単にできるものをやっていたぐらいですけど。

心について気軽に話せる雰囲気を

ーー最初は親御さんや自分のためだったと思うのですが、事業化しようと思われたのはどうしてだったんですか?

事業化しようと思ったというよりかは、自然と仕事になっていったような感じですかね。

メンタルヘルスやセルフケアのさまざまな手法に取り組む中で、心が軽くなる、癒される瞬間が多々あって。みんながもっと知っていくべきことなんじゃないかと思ったんです。

あと当時はまだまだメンタルヘルスやセルフケアの情報はそれほど広く浸透してなくて。自分を労るというのは気恥ずかしい感じがするとか、メンタルの不調を口にしづらい雰囲気があるとか。弱さを見せることに抵抗感を抱く人が多かった。

そういう雰囲気を変えるために、私から発信していって、もっとみんなが自分の心について気軽に話せるようになれたらなと思いました。それで2020年10月に、メンタルヘルスやセルフケアに関する情報発信をInstagramで始めたんです。

ーーそこから仕事にもつながっていった。

そうですね。睡眠についてとか、栄養についてとか、さまざまな角度からメンタルヘルスについて発信していたら、フォロワーさんからDMが届くようになったんです。そこには、さまざまな心の悩みが書かれていて。

それに対して私は、専門的な知識があるわけではなかったので「こうするといいと思いますよ」みたいなアドバイスはできるだけせずに、ただただフォロワーさんの話を深掘りするような感じで返信していました。

次第に「もっと悩みを抱えた人たちの話を聞いてみたいな」「もっとフォロワーさんの役に立てないかな」と思って。それで本格的にカウンセリングについて勉強し始めたんです。勉強したことを実践しているうちに、お仕事になっていきました。

ーーカウンセリングの勉強はどのようにされていたんですか?

カウンセリングと一口に言っても、さまざまな流派のようなものがあるんですね。だからまずは関連書籍をたくさん読んで、自分の好みに合う先生を見つけるようにしていて。

最終的には国内外問わず計7、8人の先生のカウンセリングや講座を受けに行き、心理療法やセラピー、カウンセリングの学びを深めていきました。

ーー2021年にはCARENを立ち上げられて、現在はカウンセリングだけではなく、ジャーナリングブックの販売やスクール事業など活動の幅を広げていらっしゃいますよね。

そうですね。カウンセリングをお仕事としてやっていく中で、想像以上に日本ではカウンセリングを受けることに高いハードルがあるんだなと感じていたんです。「もっと気軽にできるものはないかな」と考えていたときに、思いついたのがジャーナリングでした。

ジャーナリングというのは、自分の思考や感情を書き出すこと。書く瞑想と言われていて一人でできますし、カウセリングと近い要素のあるものだなと思ったので、これを広めていけたらいいなと。

それでジャーナリングブックを製作して販売し始めました。最近はジャーナリングブックを使ったワークショップも行っています。

スクールでは6ヶ月かけて、私がこれまでに学んできた心理療法やセラピー、カウセリングについて、みなさんの日常に活かせるような形にデザインし直して伝えています。

感情の奥にあるニーズ

ーーCARENのコンセプトは「言葉を通して心を満たす」ですよね。書く、話すために言葉が必要だとは思うのですが、なぜコンセプトにも“言葉”を入れられたんですか?

私自身が言葉に癒された経験をしてきていたからですかね。主に本に書かれている言葉に救われた感覚があって。

例えば、精神科医の泉谷閑示先生の『「普通がいい」という病』だったり、随筆家の若松英輔さんの『悲しみの秘義』だったり。特定のこの言葉に救われたというわけではないけど、本を読んでいると、自然と癒されることが何度もありました。

ーーたしかに読書をしていると、「自分のために書かれた言葉なんじゃないか」と思う瞬間があって、癒されることもあるかもしれません。

カウセリングを受けてくださった方やジャーナリングブックを購入してくださった方からの話を聞いていると、言葉にできない悲しさ、苦しさに悩んでいる人が多いなと感じています。

それはたぶん、言葉にする機会があまりないということもあると思うんですけど、そもそも自分が抱えている感情を理解できていないこともあるのかなって。本を読むことで、その感情に気づくきっかけが得られるのかもしれません。

ーー自分の感情を理解できていない……。

例えば、周りと比べてしまって苦しいみたいな感情を抱えているときに、苦しさの奥にあるものはなんだろうと考えてみると、羨ましさがあるかもしれない。さらに言えば羨ましさの奥には、自分に対する無力感があるかもしれない。

じゃあ、本当はどうしたいのだろうと考えてみると、そこには「本当はこうなりたい」というニーズがおそらくある。

ーーある感情を深掘っていくと、隠れたニーズに気づける可能性があるわけですね。

そうですね。よくあるニーズとしては、寂しさのようなものかな。誰かにわかってほしい、もしくは自分のことを自分でわかりたいみたいな。だから、気づくだけで満たされるし、癒される人もいると思うんです。

ーーまもさんも、自分の感情を深掘って、ニーズを満たしてきたご経験があるんですか?

CARENをやりながら徐々にニーズを満たしてきた感覚はありますね。上手く言語化できないモヤモヤ、悩みみたいなものに苦しんでいた時期があったのですが、時間をかけて深掘っていった結果、「私は私自身の価値を認めたいんだ」って気づいて。

CARENで色々な人の悩みを聞いたり、メンタルヘルスやセルフケアについて話すようになったりして、次第に自分には価値があるんじゃないかと認められるようになった。心が満たされるようになりました。

誰かのために何かをやらないと自分の心が満たされないってどうなんだろうと思うこともありますけどね。いまでは、人の心に寄り添うことが自分の使命なんじゃないかと思っています。

感情にあらがわず、向き合う

ーーさまざまな心理療法について学んで、使命とも思えるCARENを運営されて、ご自身にどのような変化があったと思われますか?

自分の感情や気持ちにあらがわなくなった。

私が学んできたものの軸はマインドフルネスなんです。マインドフルネスというのは捉え方はさまざまありますが、私は「いまここに意識を向ける過程のこと」だと思っていて。

例えば、自分の中にある感情が湧いてきたときに、その感情にただ意識を向ける。瞑想やジャーナリングみたいな手法を使いつつですけど、いまここの自分はこういう感情を抱いているな、こういう気持ちなんだなと観察するようになったというか。

ーー感情や気持ちを受け止めている感じ。

うん、そうかな。自分のこういうところ嫌だなとか、あの人はいいなとか、そんなふうに思うことはたくさんあるし、もちろん受け止めるまでには時間はかかるんだけど「人間だしこんな気持ちを抱くこともあるよね」と捉えられるようになってきた。こんな気持ちを抱いたらダメだとは抵抗しなくなった。

ーー気持ちや感情をフラットに捉えられていますよね。良いも悪いもないみたいな。

その通りで、感情には良いも悪いもないじゃないですか。自然と湧いてくるものであって、それに意味づけしているのは自分なんです。

だから、何かモヤモヤを感じるときは感情を観察してみてほしい。どうしてこんな気持ちになっているんだろう、本当はどうしたいと思っているんだろうってじっくりと向き合ってみてほしい。

頭の中だけで考えているとこんがらがってくるから、やっぱり言葉にしてみるのがいいと思います。メモ帳やスマホにでもいいので、モヤモヤを感じたら、感情や気持ちをありのまま書いてみる。深掘ってみる。

ひとりだと言葉にするのが難しいと思うなら、誰かの手を借りることも考えてみるといいかもしれません。カウセリングに限らず、信頼できる人に話すだけでもいいと思います。

ーーまず言葉にすることが大事だと。でも、言葉にすることで余計苦しくなることもありませんか?嫌なことを思い出してしまうというか。

一時的にはあると思います。苦しくなるのは、感情を認められていないからかもしれません。おそらく「こんな感情を抱いてしまってはダメだ」とあらがっている状態。

これまで目を向けてこなかったものに向き合うからこそ、言葉にするのは大変です。だから無理はしないでほしいんですけど、長い目で見ると、やっぱり向き合った方が楽になることが多いのかなと思います。

言葉にすることで、「こんな感情を抱いたっていいよね」と認めることにつながるはずなので。人それぞれタイミングがきっとあるので、その時はじっくりと考えて、言葉にしてもらえたらと。

言葉にして、気づき、認めて、心を癒す

ーーメンタルヘルスやセルフケアというと、「自分を大切にしてあげる」「自分を愛してあげる」という言葉もよく目にするような気がします。そのために自分を褒めようとか、他者よりも自分を優先しようとか。でも、それって本当に自分を大切にすること、愛することなのかなと疑問を抱いてしまって。

それも言葉にしてみるといいのかなと思います。例えば、自分を褒めてみたけど、何か違和感を抱くなら、その違和感は何なのか、なぜ違和感を抱くのかを考えてみる。

本当は褒めてほしいわけじゃないのかもしれないし、むしろ自分を褒めることに苦痛を感じる場合もあるじゃないですか。

それと同じで「自分を大切にしてあげる」「自分を愛してあげる」というのは、時には自分を傷つけることにつながる場合もある。

ーー確かに傷つくこともありますね。

だから、まずは自己理解や自己受容が必要かなと思います。自分は何を感じているのかに気づき、認めてあげること。それから、心を癒すために必要なことを考える。その順番が大事なのかなと思います。

苦しいときに考えることは楽じゃない。だから答えのようなものを自分の外に求めてしまうんだけど、少しずつでも自分の中にあるものに目を向けてもらえたらと思います。

2022年からぼくは毎日日記をつけている。その日にあった出来事を書くこともあれば、思い起こされた過去のこと、いまの気持ち、想像した未来のことなどさまざまである。中には、読むのも嫌になるぐらい、自分の気持ちをさらけ出したものもある。

まもさんがおっしゃるように、言葉にすることで心の癒しにつながることはある。それは自分の中にふわふわと漂っていた曖昧なものに言葉を与えることで、これまで気づかなかった自分の感情やニーズに気づけ、認められるからなんだと思う。

心とは一体どんなものなのか。確認することはできない。だからこそ、ついほったらかしにしがちだけれど、時にはじっくりと時間をとって向き合うようにしたい。

松浦 桃子(まつうら ももこ)
life&work designer

大学卒業後銀行に入行、ライフプランナーとして数百人のお客様の人生と関わる。退行後、専門学校にてデザインやブランディングに関する知識を習得。フリーランスとして通販業界のWEBや紙媒体、SNSなどのデザイン制作を担当する中、身内が精神疾患を発症したことをきっかけに、2022年CARENをローンチ。心理カウンセリングの資格を取得し、マインドフルネスを軸とした心理教育、ジャーナリングBOOKなどの販売、すべてのディレクションを担当する。現在は、対話やデザイン業をを中心に、人の生きると働くをデザインし、心地良い人生を送るためのサポートを行う。

https://www.carenmindfullife.com/

https://www.mamodesignstudio.com/tomori

https://www.instagram.com/caren_mindfullife/

ソラミドmadoについて

ソラミドmado

ソラミドmadoは、自然体な生き方を考えるメディア。「自然体で、生きよう。」をコンセプトに、さまざまな人の暮らし・考え方を発信しています。Twitterでも最新情報をお届け。みなさんと一緒に、自然体を考えられたら嬉しいです。https://twitter.com/soramido_media

執筆

佐藤純平
ソラミド編集部

ああでもない、こうでもないと悩みがちなライター。ライフコーチとしても活動中。猫背を直したい。
Twitter: https://twitter.com/junpeissu

撮影

橋野貴洋
フォトグラファー

大阪在住。フリーランスで、コーチングやカメラマンなど関わる裾野を広げています。自分がご機嫌でいられる生き方を模索中。多様な在り方を受け止め、一緒に考えられる人でいたい。

Twitter:https://twitter.com/hashinon12

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