「母親、やめたい」
ある日、何気なくネットニュースを眺めていたときのこと。衝撃的な言葉に、スクロールしていた指が止まりました。
私のことだ――。
口に出したことはないけれど、何度も心に浮かんだことのある感情。他人事とは思えず、もしかしたらこの記事に何か解決の糸口が見つかるかもしれないという期待を抱きながら、気づけば食い入るように記事を読み進めていました。
その記事は、SNSで話題になったある母親の投稿が発端になったもの。「母親、やめたい」という一言に、多くの共感の声が寄せられたことを受け、子育て世代が抱える重圧や苦しさ、そしてその背景にある社会のあり方について書かれていました。
8割の親が、「母親をやめたい」と思ったことがある。
その一文を読んだとき、不思議と肩の力が抜けていきました。私だけじゃなかったんだ、と思えたのです。

多くの人が親をやめたいと感じてしまう背景には、さまざまな要因があります。そのひとつが、「孤育て」の深刻化です。
近年、核家族化や地域社会とのつながりの希薄化により、気軽に相談できる相手がいないまま、親だけで子育てを担う状況が当たり前になってきました。共働き世帯が増える一方で、「家のことは女性がする」という価値観も根強く残ったまま。家事や育児の負担が母親に偏っている家庭は依然として多く、ワンオペ育児に疲弊している人も少なくありません。
さらに、SNSで簡単に情報が手に入るからこそ、「親はこうあるべき」という無意識の思い込みに縛られてしまうこともあります。
本当は誰かに頼りたいのに、「助けて」と言えない。そんな状況が、子育て中の親の心を少しずつ追い詰めているのです。
親の孤独や孤立を深める「孤育て」を、どうすれば和らげることができるのでしょうか。苦しさより、楽しさを感じられる子育てをするために、何かできることはないのでしょうか。
ソラミドmadoで新たに始める連載『ひとりじゃない子育て』は、そのヒントを探っていく企画です。「孤育て」の解消に向けて試行錯誤する人たちの声を一つひとつ取材しながら、読んだあとに「誰かに頼ってもいいんだ」とほんの少し肩の力が抜ける記事をお届けできたらと願っています。
第一回目は、私自身がこの連載を始めようと思った理由について、お話しさせてください。
子どもや家族がいるのに、孤独が広がっていく

今回の連載を立ち上げた私(編集部・上野)は、3歳の子どもと夫の3人で暮らしています。
夫と2人だけの暮らしも心地よかったけれど、家族が増えたらまた違う幸せがあるのではないか。そんな思いから子どもを望むようになり、小さな命を授かりました。
子どものいる暮らしはたしかに幸せです。でもそれと同時に、子どもが生まれてから孤独を感じるようになったのも事実でした。
連載『ひとりじゃない子育て』を始めた一番の理由は、私自身が孤独を感じていたからなのです。
両親や友人は遠方に住んでいて、気軽に悩みを相談したり、助けを求めたりできる人が近くにいない。
毎日必死に赤ちゃんのお世話をしているのに、どれだけ頑張っても誰からも感謝されない。
育児と仕事に追われて夫との会話が減り、小さなわだかまりやモヤモヤが積み重なっていく。
自分のやりたいことを後回しにしたり、諦めたりすることが、当たり前になっていく。
そうしたさまざまなことが重なり、子どもや家族がいるのに、どんどんひとりぼっちになっていく感覚が広がっていたのです。
それでも私は、「自分さえ我慢していればいい」と言い聞かせながら、なんとか日々をやり過ごしていました。
「孤育て」は自分ひとりが我慢しても、解決しない
テレビをつければ、後を絶たない虐待や育児放棄のニュース。子どもが生まれる前は、どこか遠い出来事のように感じていたものが、親になった今は自分にも起こりうることだと感じるようになりました。
もし、自分も同じ状況だったら――
もし、追い詰められたその親が、誰かに助けを求められていたら。
「女性は家事、男性は仕事」という固定観念に違和感や憤りを覚えながらも、日々ワンオペで子育てをしている人は、私の周りだけでも少なくありません。
悲しいニュースを目にするたびに、「孤育て」は決して他人事ではないのだと、実感するようになったのです。

そして、固定観念に苦しめられているのは、男性も同じ。そのことに気づいたのは、夫の言葉がきっかけでした。
「育児から離れていく父親の気持ちがわかる」
ある日、夫は涙ながらにそう言ったのです。
「家庭を支えなければいけない」というプレッシャーを抱えながら、育児にも一生懸命向き合っているのに、子どもがなかなか懐いてくれない。保育園や小児科に行っても、先生はいつも母親の目だけを見て話す。
そんな小さな積み重ねが、夫にとって大きな痛みになっていたようでした。
世の中のニュース、周囲の苦しみ、そして夫の言葉――。
さまざまな孤独や痛みに何度も触れるなかで、気づいたことがあります。それは、「孤育て」は、誰かひとりが我慢すれば解決する問題ではなく、社会の問題だということ。
子育てにまつわる固定観念がほどけ、「みんなで子どもを育てる」という意識が広がった先には、どんな社会や暮らしがあるのだろう。きっと、「ひとりで抱え込まなくていい」と思える人が増え、親も子どもも自然と笑顔になれる場面が、今よりも少しずつ増えていくのではないだろうか。
「孤育て」という言葉がなくなる日が、一日でも早く来てほしい。
そうした思いが、じわじわと私のなかで育ち始めたのです。
愛する子どもを、そのまま愛せるように。言葉を紡ぎ、孤独を和らげていく

「みんなで子どもを育てる」社会を実現するために、私にできることはなんだろう。そんな問いが、この連載の出発点です。
「孤育て」をなくすことは、決して簡単ではありません。子育て支援の制度があっても、十分に機能していない現実があったり、職場や地域のなかで、子どもを持つ人・持たない人とのあいだに分断が生まれていたり。解決すべき課題は、いくつもあります。
それでも世の中には、子どもも親も幸せでいられる社会を目指して、泥臭く向き合い続けている人たちがいます。ソラミドmadoができることは、そうした人たちの思いを丁寧にすくい上げ、読者の皆さんに届けていくこと。 そして書き手として、言葉を届けること。
そのなかで、一人でも多くの人の孤独な気持ちが、和らぐことを願っています。
もう一つ、親である私自身ができること。それは、取材を通して受け取った気づきや、そこから生まれた小さな変化をお伝えすることです。
現状を嘆くのではなく、自分や身近なところから少しずつでも変えていきたい。そんな思いが、私のなかに強くあるからです。
自分も、子どもも、その周りの人も。それぞれが心地よくいられる子育てのかたちを、読者の皆さんと同じ目線で一緒に模索できたら嬉しいです。
子どもを愛していない親なんて、きっといない。だからこそ、愛する我が子を、そのまま愛せるようになりたい。
そのためには、まず自分のなかにある孤独を少しずつ和らげていくこと。そして、親である自分自身の心を満たしていくことが必要なのだと思います。
本連載が、その小さなきっかけになることを心から願っています。
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感想や印象に残った言葉、取材してほしい人やテーマなど、ぜひみなさんの声をお聞かせください。
ソラミドmadoについて
執筆

岡山出身。大学卒業後、SE、ホテルマンを経て、2021年からフリーランスのライターに。ジャンルは、パートナーシップ、生き方、働き方、子育てなど。趣味は、カフェ巡りと散歩。一児の母でもあり、現在働き方を模索中。
編集

生き方を伝えるライター・編集者
1996年生まれ。“人の生き方の選択肢を広げたい”という想いでライターになる。女性の生き方・働き方・ジェンダー・フェミニズムを中心に、企業のコンテンツ制作やメディア寄稿、本の執筆を手掛けています。埼玉県と新潟県糸魚川市の二拠点生活をしながら、海外にもよく行きます。柴犬好き。
プロフィール:https://lit.link/misatonoikikata














