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努力するからこそ築ける、二人が素直でいられる関係|セキララカード・藤原紗耶さん

言いたいことがあるけど、本当のことを言うのが怖い。
もっと真面目な話をしたいけど、気恥ずかしくて話せない。

パートナー、家族、友達。その存在が身近で、大切になるほど本音をさらけ出せなかったりする。そして、我慢し続けて心が穏やかでいられなかったり、感情を爆発させてしまったりもする。

こんな状況から抜け出したい。そう思っていたときに出会ったのが、セキララカードだった。

セキララカードは、大切な人と素直に話し合える関係づくりをサポートするお題カード。過去や未来のこと、お互いの価値観など、身近な人だからこそ話せていないお題にゲーム感覚で答えていくことで、自然と深い対話へと導いてくれるアイテムだ。パートナーとの仲を深める「カップル・夫婦用」のほか、友人や同僚との会話の糸口となる「フレンズ・職場用」、祖父母や親など、家族の人生について深く知る「家族用」がある。

カップル・夫婦用のお題は「最近、愛されていると感じた瞬間は?」「意見が違ったとき、どう対処したらいい?」「相手に話したことがない夢は?」など。二人の関係性やお互いの過去や未来、性の話まで相手のことをより深く知る55個の質問が揃う。

株式会社セキララカード代表取締役の藤原紗耶さんは、自身が過去に恋愛で苦しんできた経験をきっかけにカードを制作。現在は「ヘルシーな関係を、自分のために」という理念のもと、カードゲームの制作のほか、家族・パートナーシップに関する社会課題を解決するための啓発活動やスマートフォン向けアプリケーションの開発・運営を行っている。

恋愛で苦しんできた藤原さんですが、カードゲームをきっかけにパートナーと対話ができるようになり、今ではお互いがありのままでいられる関係が築けているのだそう。

そんな藤原さんに、身近な人と自然体な関係を築くヒントをいただけたらと思い、話を伺った。

偽りの自分しか出せなかった過去

── セキララカードは藤原さんが過去に恋愛で苦しんでいた経験から作られたんですよね。どんな経験をされたのでしょうか。

小さいころから、勉強も運動も習い事のダンスも努力して成果を出してきたのに、恋愛だけはなぜかうまくいかなかったんです。好きな人に嫌われたくないから相手の理想像を無理に演じていたり、重いと思われたくなくて二人の関係性や将来の話などの真面目な話を避けたり。相手に好かれるために自分に嘘をつき続けていて、心の中ではいつも泣いていました。

それに、女性は受け身でいた方がいい、男性の意見を聞くべきみたいな考えが恋愛や結婚においての常識だと思い込んでいたんですよね。そういうふうに恋愛本に書いてあったし、実際に私の両親も、大黒柱である父親の意見が絶対みたいなところがあったんです。

だから、デート中に違和感を覚えることがあっても我慢してきたし、ご飯を奢ってもらったら、その見返りに体の関係を持つのは仕方ないことだと思っていました。それで結局、うまくいかなくなったときは、言いたいことをちゃんと言わなかった自分を責めるみたいな。18歳から23歳くらいまではそんなことの繰り返しで、恋愛でとても悩んでいましたね。

── 女性は受け身であるべきという考えが、藤原さんを苦しめていたのですね。

でも大学生のころ、留学先のアメリカの大学でジェンダーの授業を受けたときに、その考えは偏見だと初めて気づいたんです。デートの見返りに体の関係を持つことは、相手に対する一方的なサービスであり、自分を傷つける行為だと。今でこそ基礎的な情報ですが、当時の私には衝撃的で。もっと早く知っておけば、自分を傷つけることを防げたのにってすごく悲しくなったんです。同時に、相手と対等な関係を築いてもいいのだと気づかされました。

教授は、対等な関係を築くにはパートナーと話し合うことが一番大切とも言っていて。私もその考えに納得して、当時のパートナーと話し合おうと意気込んでいました。でも、いざ相手を前にすると言えなくて。本当のことを言って嫌われる怖さが勝ってしまったんですよね。結局、また以前のように、相手が理想とする女の子を演じる日々に戻ってしまいました。

── 頭では対話が良いことだと分かっていても、怖さや気恥ずかしさから、なかなか真面目な話は切り出しにくいですよね。

そうなんです。でもそんなとき、友人からカップル用のカードゲームをすすめられて。ちょうど今のパートナーと出会ったばかりで、いろいろなカードを買って試してみるとすごくよかったんですよね。ゲーム感覚で気軽に話し始めていたのに、気づいたら自然とお互いの価値観や真剣な話まで語り合っていたんです。ありのままの自分を出しても、私を好きでいてくれる人がいるということにも驚きました。

パートナーとの関係を良くするには、話し合いが最善策。それを知識として理解していても、日常に落とし込めないことに課題を感じていたので、これこそ私が欲しかったものだと感じました。日本で同じような商品を探しても見つからず、それなら自分が作ろうと思ったのがセキララカードを作ったきっかけです。誰かのためにというより、自分を救いたい一心でした。

── セキララカードには例えばどんなお題があるのでしょうか?

私が好きなのは「最近、愛されていると感じた瞬間は?」というカードです。ポイントは「最近」というワード。長年一緒にいてマンネリ化すると、こういうことを言わなくなるじゃないですか。そうじゃなくても、愛や感謝を伝えるのは気恥ずかしいと思いますし。でも、この問いについて定期的に話し合うことで、相手からの愛や感謝を常に感じられると思うんです。他のカードを使い尽くしたとしても、このカードなら毎回違う答えが出てきますしね。

他におすすめなのは「ストレスが溜まったとき、どうしてほしい?」「浮気の基準は?」のカード。実際にその状況になる前に使うことをおすすめしています。ストレスが貯まっているときにこの話題を出すと、冷静に話せないし、相手を責めている感じにもなるじゃないですか。浮気の基準についても、付き合ってしばらくしてから聞くと疑っているように思われがちですが、まだ何も起きていないときに「このカードが出たから」と言ってしまえば、話しやすいと思います。

カードのいいところは、そうやって特別な理由がなくても話しづらいことを自然と話せるところです。結婚や出産といった真面目な話でも、変に勘ぐられることなく「カードに書いてあるから」と話せるんですよね。

素直になるための努力

── 藤原さんは、セキララカードの事業理念として「ヘルシーな関係を、自分のために」と掲げています。ヘルシーな関係とはどのような関係だとお考えですか。

相手も自分も素直に話し合える関係。さらに、二人の関係をより良くするための話し合いもできていて、それが結果的に自分のためになっていることも重要だと思います。

ただ、何もしないままでヘルシーな関係が築けるわけではありません。多くの人が健康になるために運動したり、食生活を見直したりするじゃないですか。パートナーシップもそれと同じ。ヘルシーな関係を築きたいのであれば、話し合う、気持ちを伝えるといった、素直になるための努力はし続けなければいけないと思います。

── 素直になるための努力。

たとえば、言いづらいことを勇気を出して伝える。それを一回で終わらせるのではなく、お互いが納得するまで話し合いを続けるとか。

本当は相手にこうしてほしいとか、将来の真面目な話って、なかなか切り出しにくいじゃないですか。だから、言いたいことを我慢してしまう人も多いと思うんですよね。私も以前はそうだったし、最近でもパートナーに結婚の話をするときは、何度も話してしつこいと思われないかなと不安でした。でも、今回だけ我慢したら大丈夫、ということはないんですよね。我慢していると気づいた時点でアクションを起こさなければ、状況は何も変わりません。結局、未来の自分が泣くことになるんです。

だから私は勇気が出ないとき、未来の自分を想像するようにしています。未来の自分が笑顔でいるために、今、勇気を出して自分の気持ちを伝えようって。自分の幸せのためだと考えると、努力も努力だと思わなくなってきた気がします。

── 藤原さんでも勇気をふり絞るときがあるんですね。安心しました(笑)。

もちろん、勇気はいりますよ。あと、伝える内容がネガティブな場合は「私たちの幸せな未来のために言うね」と前置きしたり、「こうしてほしい」ではなく、「私はこうされると悲しい」「私はこうしてもらえると嬉しい」と、主語を”私”にして伝えたりもします。そうすることで、相手が責められていると感じることが少なくなるんですよね。

パートナーを前にするとうまく話せないときは、言いたいことを全部紙に書いて「今からこれを話すね」と事前に伝えたりもしていました。紙に書くと伝え漏れがなくなるし、どのくらい言うことがあるのか相手に伝わるので、言わざるを得ない状況に追い込まれるんです(笑)。

そうやって、素直になるための努力を積み重ねてきたからこそ、今ではパートナーと何でも話せる関係になり、心が休まる存在になっています。

違う理由を話し合う

── 素直になるために努力をするというのは新たな視点でした。でも、パートナーが寡黙で、そもそも話し合いを諦めてしまう場合はどうしたらいいでしょうか。

「この人は話さない人」という決めつけを捨てることがまず大事だと思います。それでも思うように話し合いができなかった場合は、主語を”私”にして「私は話せなくて悲しい」と言ってみる。もしたくさん話せたら「私は今日話せてとっても嬉しかった」と言ってみる。そうすることで「話すだけで喜んでくれるんだ」と気づき、また話し合いをしようという気持ちになってくれるかもしれません。

嬉しい、悲しいという感情って言葉で伝えないと分からないものだと思うんですよね。だから、パートナーだから分かるでしょって思わない方がいい。相手がどんな人であろうとヘルシーな関係を築きたいなら、何回も気持ちを伝えるしかないと思います。

── なるほど。ただ、もし話し合いができたとしても、意見が衝突したり、価値観の違いを見つけたりしないか怖くなるときがあります。

違いを知ることを恐れて話し合いを避けるのは、すごくもったいないと思うんですよね。価値観が合わないのは当然のこと。価値観が同じだからいいというわけでもありません。それを理解したうえで、違いを認め、なぜ違うのかまで話し合うのが大切だと思います。

例えば私はよく誰に対してもハグをするのですが、パートナーはそれを嫌がっていたんですね。そこで「私はハグをする人だから」と押し付けるのではなく、その理由を生い立ちや育ってきた環境を振り返って話したんです。私は、学生時代に海外で過ごしていたからハグが習慣づいていて、挨拶や感謝の気持ちを表すコミュニケーションの一つでもあるのだと。するとパートナーは「紗耶にとってハグはそういう意味なんだね」と理解してくれました。

── 違う理由を話し合うことが大切だと。

相手が外国人だと、文化が違うからと諦めがつくのに、日本人同士だと分かってくれるはずみたいな風潮ってあるじゃないですか。でも、日本人同士でも、育ってきた環境や文化は違うから、価値観なんて合うはずがないんですよね。だから私は、パートナーのことを外国人だと思って接していて。意見や価値観が違えば「カルチャーショックだね」と前向きに捉えて、話し合いをするようにしています。そうすることで、よりお互いのことを知れるし、これからどうしていくか一緒に考えていけますしね。

ただ、十分話し合って、それでも合わないなら、別れを選択するのも一つの選択肢だと思っていて。セキララカードのユーザーの中にも、交際6年のカップルがカードを使ったことでこの人とは合わないと気づき、別れたケースがあるんです。でも、それは自分の人生を良くするためにはすごくいいこと。真剣に話し合ったうえでの別れなら、後悔なく離れられると思いますし、きっとその先は自分にとって納得のいく人生を歩めると思います。

対話をして、自分の人生に集中する

── 藤原さんは、カードを機に現在のパートナーと話し合いをするようになったとおっしゃっていました。話し合いによってどのような変化がありましたか?

男だからこう、女だからこうであるべきという、ジェンダーバイアスが自分の中にまだたくさんあるということに気づかされました。例えば、パートナーに奢ってほしいと思っていたり、プロポーズをされるのをただ待っていたり。あれだけ「女は受け身であるべき」という考えに苦しめられ、それをなくすためにもセキララカードでヘルシーな関係を広めているのに、無意識の思い込みは残っていたんですよね。

ただ、それを悪いことと捉えるのではなく、そういう自分もいると受け入れるようになったというか。自分は完璧じゃないと心に留めておくことで、人に意見を言うときも「絶対こうするべき」ではなく、「私はこう思う」という言い方に変わりました。以前のように自分の考えを人に押し付けることがなくなったと感じますね。

ただ、プロポーズを待っていることについては、どうしても違和感を拭えなくて。最終的にはパートナーとプロポーズ合戦をすることにしたんです。

── プロポーズ合戦!?

言葉通り、パートナーとプロポーズをし合いました(笑)。相手が喜んでくれる方法は何か考え、私はプロポーズの前に手書きのカスタムセキララカードを作って贈ることにしました。「私との結婚はあなたにとってどういうことを意味する?」「お金の使い方はどうしていく?」など、結婚を機に話しておきたいテーマを20枚ほど用意して話し合ったんです。そして最後に「結婚しよう」のカードを入れてプロポーズしました。

そうやって自分からプロポーズをすると、自分の人生に責任を持つ感覚が生まれて心地よさを感じたんですよね。相手に言われたから、タイミングだから結婚するんじゃなくて、“私”がこの人と一緒に生きると決めたと実感できたんです。自分で決断し、結婚前に話しておきたいことを納得いくまで話せたからこそ、この先何があっても誰かのせいにせず、責任を持って生きていけると自信がつきました。

── 話し合うことで、結婚もその先の生活も自分ごとになるんですね。

まさにそうなんです。さらに、話し合いを重ねてきたおかげで、自分のやりたいことに集中できるようになりました。セキララカード以外にもさまざまな対話カードをパートナーと試す中で、大切なのは「愛を伝えること」と「言いづらいことを我慢せず伝えること」だと気づいたんですよね。それからは週に一度二人の時間を作るようになって、嬉しかったことや感謝していること、本当はこうしてほしかったことなどを定期的に話し合うようになったんです。

すると、どんな些細なことでも我慢せずに言うようになったので心が浄化されるようになりました。さらに愛や感謝を伝えてもらうことで、自分はこのままでも愛されていると実感でき、自信を持てるようにもなりました。以前のように本音を伝えられずに悩んだり、相手の理想像になろうと無理したりすることがなくなり、その分のエネルギーを全部自分にあてられるようになったんです。

私の場合は相手がパートナーでしたが、それが家族や友人でもいいと思うんです。心が素直でいられる関係は、自分のやりたいことに突き進むための原動力になります。身近な人との関係を良くすることは、自分の人生を良くすることに密接に繋がっているんですよね。ただ、その繋がりを認知している人は今はまだ少なくて。だからこそ、私はこれからもセキララカードを通して、ヘルシーな関係の大切さを広め、誰もが手軽に実践できるようなモノやサービスを作っていきたいです。

藤原さんのお話を聞き、素直に話し合うことの怖さが少し和らいだ気がします。価値観は違って当たり前なのだから、思っていることは堂々と伝えていい。むしろ違いがあるほど、お互いをよく知ることができるのだと気づかされました。パートナーと長年一緒にいても、相手について知らないことの方がきっと多いはず。まだ知らないパートナーの一面を発見できると思うと、これからの対話が楽しみになりました。

そして、「対話のおかげで自分の人生に責任を持てるようになった」という藤原さん。その姿がかっこよく、私もそういうふうに生きたいと素直に思いました。対話は自分の考えや気持ちに改めて気づかせてくれるもの。対話を日常的なものにすることで、お互いの価値観や考えをもっと共有し、世間一般の基準ではなく、二人にとって本当に納得できる選択をしていきたいと思いました。

藤原紗耶 さん

株式会社セキララカード代表取締役。「ヘルシーな関係を自分のために」というミッションのもと、素直に話し合える関係づくりをサポートするお題カード「セキララカード」を企画・販売している。パートナーとの仲を深める「カップル・夫婦用」のほか、友人や同僚との会話の糸口となる「フレンズ・職場用」、祖父母や親など、家族の人生について深く知る「家族用」も販売している。プライベートでは2024年に結婚。

セキララカード:https://sekiraracard.com/

藤原紗耶さんInstagram:https://www.instagram.com/saya_fujihara/

ソラミドmadoについて

ソラミドmado

ソラミドmadoは、自然体な生き方を考えるメディア。「自然体で、生きよう。」をコンセプトに、さまざまな人の暮らし・考え方を発信しています。Twitterでも最新情報をお届け。みなさんと一緒に、自然体を考えられたら嬉しいです。https://twitter.com/soramido_media

企画・取材・執筆

上野彩希

岡山出身。大学卒業後、SE、ホテルマンを経て、2021年からフリーランスのライターに。ジャンルは、パートナーシップ、生き方、働き方、子育てなど。趣味は、カフェ巡りと散歩。一児の母でもあり、現在働き方を模索中。

X:https://x.com/sakiueno1225

撮影

大舘 由斗

東京都在住。ある一枚の写真に魅せられてフォトグラファーの道へ。
スタジオ、アシスタントを経て東京を拠点にフリーランスで活動している。

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