自信をつけたり、新たな居場所を見つけたりと、自分を愛する気持ちを高めるためにおすすめなのが、”習いごと”。
習いごとは、今まで触れたことのない世界に触れ、新しいことを知り、「できた!」の成功体験を積み重ねる、とても前向きな行いです。
ソラミドmadoの編集部員も、なんだか毎日が停滞気味でモヤモヤと感じていたときに、その状況を打破したくて習いごとを始めた経験があります。その結果、新しく世界が開け、前向きになることができました。
同じように日々モヤモヤを抱えて過ごす人や、前向きになりたい人に、習いごとの良さを知ってほしい。そんな思いで生まれたのが、ソラミドmadoの連載企画『大人の習いごと図鑑』です。実際に習いごとを楽しむ人にお話を聞き、それぞれの習いごとの魅力を紹介するとともに、その人の内面やライフスタイル、お仕事などにどんな影響があったかについて探ります。
第5回のテーマは「陶芸」。2024年から工房に通い、1年ほど陶芸を習う井上乃美(いのうえ・のぞみ)さんにお話を伺いました。

作りたいものを作れる、陶芸の自由さに惹かれて
──さっそくですが、井上さんが陶芸教室に通い始めたのはいつごろだったんですか?
2024年の6月から7月にかけて2つの工房で体験をしてみて、9月から本格的に通い始めました。それまでは陶芸を習ったことは全くなくて。ただ、もともとものづくりが好きだったんですよね。子どもの頃はずっと絵を描いているような子でした。少女漫画が好きで、イラストを描くことが多かったです。きれいなものを見て「いいな」と感じる感覚は小さい頃からあったんだと思います。洋服もそうですが、自分が違和感なく身につけられるものを選びたいという気持ちが強かったですね。
──器にも、以前から興味があったんでしょうか?
学生時代から、陶器も好きでしたね。社会人になってからは自分で買ったり、プレゼントでいただいたり。その後、子どもが生まれてからはプラスチックの食器も使うようになりましたが、まぜこぜの食卓を見ながら「いつか全部手作りの器にしたいな」とも考えていて。
暮らしの空間でも気に入ったものや美しいものに囲まれていたい……そういうこだわりが強いんでしょうね。だから、器も自分で作ってみたくなったんです。

──初めて陶芸を体験してみたとき、どんな印象を持ちましたか?
最初はやっぱり「難しいな」と思いました。とにかく集中力が必要で、思った通りの形をつくってキープするのにも、繊細な力のコントロールが要るんですよね。一方で、「やっぱり作ることが好きだな」と改めて実感できて、すごく楽しかったです。頭の中のイメージが形になっていくプロセスが、自分にはすごく合っているなと。だから「これは続けたい」と自然に思えました。
──それですぐに、陶芸を習うことを決断されたんですね。
はい。私は「やりたい!」と思ったらすぐに行動するタイプで、あまり後先を考えないところがあるんです。だけど、飽きっぽい性格でもあって……。習いごとに限らず、新しいものに触れたい気持ちが強すぎて、思いついては次のことに移ってしまう。そんな傾向がありました。
でも陶芸は、新しいものをどんどん生み出せるので飽きないし、アイデアが尽きない。自分の作りたいものを作れる自由さもあります。それに、乾燥や焼きの工程など「待つ」ことを除けば、一つの作品にかける時間はそこまで長くないんです。そんなペース感が自分にぴったりで、「大丈夫、これは続けられる」と思えました。
先生との相性が良かったのも大きいですね。工房によってスタイルはさまざまですが、私が通っている『千葉陶芸工房』は自由度が高くて、最初から「作りたいものを作っていい」という雰囲気なんです。先生方も私の作りたいイメージに沿って的確にフィードバックしてくださるので、「ここなら通ってみたい」と、すぐに思えました。今は、週に1回ほどのペースで工房に通っています。

──実際に通い始めてみてどうでしたか?
体験のときは形を作る工程がメインでしたが、通い始めると、一連のプロセスすべてに関われるのが大きな違いでした。
陶芸の流れとしては、まずろくろで形を作り、乾かしてから削って形を整えます。その後、素焼きをして、釉薬で色付けをして、本焼きへ。窯のスケジュールにもよりますが、作品が完成するまで数ヶ月かかることもあります。焼きの工程は先生にお任せしますが、自分の作品が少しずつ仕上がっていく過程はとても面白いです。
「完璧じゃなくてもいい」と思えるのも、陶芸の魅力
──井上さんは、どんな器を作っているんですか?
子どものための器を中心に作っています。小さめのお皿やお碗などですね。あとは湯のみ、おちょこなど、日常で家族が使うものも時々作っています。

──器を作るうえでのこだわりはありますか?
好きな形で、なおかつ人が使って役に立つ形を目指すことにこだわりを持っています。友人に使ってもらいフィードバックを得ながら、自分の思い描いたデザインと使い心地の良さが両立する形になるよう模索しているんです。
色については黒、白、茶色、緑などを使うことが多いですね。陶器は土から作られるものだからこそ、自然に近いベーシックな色に仕上げたくなります。
器は作っているうちにイメージと少しずれてしまうこともありますが、それも面白さとして捉えています。「完璧じゃなくてもいい」と思えるのも、陶芸の魅力ですね。
私は自分で言うのもなんですが真面目な性格で、考え方が固くなりやすいところがあります。「こうでなければならない」と思い込んでしまうことも多い。でも陶芸は、柔らかい土に触れることで自然と肩の力が抜ける感覚があります。土は、触れる力が強すぎても弱すぎても形にならないので、「リラックスしながらも軸を保つ」ことが求められるんです。だからこそ、私のように考えすぎて固くなりやすい人にこそ、自分をほぐす手段として陶芸をおすすめしたいです。
──「完璧じゃなくてもいい」と思える……。素敵な考え方ですね。初心者でも気負わずに続けられそうです。
できあがった器を家族で使うことで会話が生まれるのも楽しいですね。子どもたちが「これは僕の器!」と、自分のものだと認識してくれるのが嬉しいです。「お母さんが作ってくれた」という記憶が残ってくれたらいいな、と思います。
これからも陶芸の技術を高めながら、自分が作るものを通じて身近な人と心地よいコミュニケーションができればと思っています。

自己表現をし、自分の軸をつくる
──手作りの器を通じて家族のコミュニケーションが生まれる。素敵ですね。では、難しいと感じるのはどんなところでしょうか?
正直なところ、いつも「難しいな」と思っています(笑)。ろくろは想像以上に速く回るし、土は柔らかいので、集中して力加減をコントロールしないとすぐに形が崩れてしまうんです。少し気を抜いたり、違うことを考えたりすると一気にぐしゃっとなる。
私はせっかちなので、先生からよく「井上さんは待てないねぇ」と言われます(笑)。土の質感の違いに気を取られてしまったりもして。でも、そういう難しさも含めて面白いところだし、陶芸を通して、自分の性格やクセにも改めて気づかされています。

──手を動かし、作品づくりに没頭することでご自身を見つめ直すことにもつながっているんですね。
そうですね。あとは、「人の話を素直に聞けるようになった」という変化もありました。私は昔からこだわりが強くて、人からの意見だったり、フィードバックを素直に受け止められないところがあったんです。でも陶芸に関して言われることは「作品へのアドバイス」として素直に受け入れられる。その積み重ねによって、陶芸以外の場面での意見やフィードバックも、前より自然に受け止められるようになりました。
それと、陶芸を通じて「軸を持つ」ことも意識できるようになったと思います。陶芸は、軸を持ち、動きすぎないことで形作られるものです。その感覚を日常生活に持ち込むことで、行動する前に一度立ち止まって考えたり、感情に流されすぎないようにしたりと、少しずつですが行動が変わってきました。

──陶芸での気付きが、日常生活にもプラスの影響をもたらしてくれているのですね。
陶芸で気づいたことを生活に生かすと、逆に生活での学びが陶芸にも返ってくる。そんな相乗効果を感じています。
実は陶芸を始める前、仕事で無理をして体調を崩したことがありました。そこから自分を立て直すプロセスの中で、「仕事以外で、自分の好きなことを継続していける場所が必要だ」と強く感じたんです。社会人になりたての頃は我慢して経験を積むことに重きを置いていましたが、それだけではうまく自己表現ができず、窮屈になってしまった。「仕事」「家庭」「プライベート」と全部バラバラに存在していたような感覚がありました。
でも陶芸を習い始めた今では、それらが地続きでつながっている感覚があって、疲れにくくなった気がします。陶芸は今の私にとって、まさに「好きなことで自己表現をし、自分の軸をつくる」ための手段にもなってくれていますね。

井上さんのお話を通して、「完璧じゃなくてもいい」「待つことも楽しめる」──そんな陶芸の魅力を感じました。
忙しい毎日のなかで、つい自分を追い込みすぎてしまうとき。
柔らかい土に触れるように、少しだけ力を抜いてみると、新しい自分に出会えるのかもしれません。
『大人の習いごと図鑑』では、今後もさまざまなジャンルの習いごとにフォーカスし、ライフスタイルやキャリアにどんな良い影響があるかお話を聞いていきたいと思います。次回もお楽しみに。
ソラミドmadoについて

ソラミドmadoは、自然体な生き方を考えるメディア。「自然体で、生きよう。」をコンセプトに、さまざまな人の暮らし・考え方を発信しています。Twitterでも最新情報をお届け。みなさんと一緒に、自然体を考えられたら嬉しいです。https://twitter.com/soramido_media
取材

1990年生まれ。大阪在住のライター。毎日noteを書き続けること1000日以上。日々の小さな出来事や考え事を記録し、自然体な自分とは何か? と向き合い続けている。
執筆

大学在学中より雑誌制作やメディア運営、ブランドPRなどを手がける企業で勤務したのち、2017年からフリーランスとして活動。ウェブや雑誌、書籍、企業オウンドメディアなどでジャンルを問わず執筆。2020年から株式会社スカイベイビーズ(ソラミドmadoの運営元)に所属。2023年には出産し一児の母に。お酒が好き。
撮影

フォトグラファー / ディレクター。東京と岩手を拠点にフリーランスで活動。1996年生まれ、神奈川県出身。旅・暮らし・人物撮影を得意分野とする。2022年よりスカイベイビーズに参加。
https://asamiiizuka.com/