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モヤモヤをもっと大切にしていい。ジェンダーは生き方を考える“扉”だから|櫻井彩乃さん「ジェンダーのmado」連載

「女として、男としてこうすべき」「家族とはこうあるべき」「母としてこうすべき」

そんな固定観念にしばられずに、自分らしい選択がしたい、大切な人と共に生きたい。

そう願う全ての人たちにお届けする、連載『ジェンダーのmado——わからないけど、話してみたい。ジェンダーのこと、私たちのこと』。 

この連載では、日々の“モヤモヤ”を出発点に、ジェンダーの専門家や実践者の“生き方”に耳を傾けながら自然体な生き方を探究していきます。


私(編集部・貝津)もまさに、「わからないけど話してみたい」と思っているひとり。それならばまず、いろんな方と対話することから始めてみようと連載を立ち上げました。読み終えたあと、少し気持ちが軽くなったり、「私もこんなふうに生きていいんだ」と思えたり。あなたと社会をつなぐ“mado(窓)”のような記事をお届けします。

***

ジェンダーを学ぶことで、生きやすくなる──。そう聞くと、「本当に?」と思う人もいるかもしれません。SNSでは強い言葉が飛び交ったり、討論番組では意見がぶつかり合ったり……。友人や家族にも話しづらいと感じること、ありますよね。

でも本来、ジェンダー平等とは誰かを責めたり、敵味方に分かれたりするためのものではありません。“男らしさ”“女らしさ”といった窮屈さから自由になり、より自然に、自分らしく生きるための考え方です。

そこで今回は、若い世代がジェンダーを学び、語り、行動にうつす場『ジェンカレ』を設立・運営する一般社団法人GENCOURAGE代表理事の櫻井彩乃さんにお話を伺ってみることに。“変わらない”ではなく、“変えていく”ことを選んできた彼女の歩みから、ジェンダーの世界をそっと覗いてみます。

「女は黙っとけ……なぜ?」この疑問が、活動の原点に

ベンチャー企業や国際NGOでの経験を経て、現在は国の委員として、若者がジェンダーを学ぶ場をつくり、その声を政策に届ける活動をしている櫻井さん。彼女の原点は、高校2年生のときに経験した、ある出来事にありました。

合唱コンクールの日のことです。クラスがまとまらず、『せめて一度だけでも練習しよう』と声をかけたんです。すると、『お前、女なんだから黙ってかわいくしていればいいんだよ』と言われてしまって。

『え、なんで……?』という大きな疑問が頭に浮かびました。同じクラスメイトで、同じ人間なのに、どうして“女だから”なんて言われなきゃいけないのか。ムカつくというより、とにかく衝撃だったのを覚えています

学校から泣きながら帰宅し、母に話を聞いてもらったという櫻井さん。すると母は、「日本は少しずつ良くなってきているけれど、世界には“女の子に生まれただけで”、子どものうちから結婚を強いられたり、学校に通えなかったりする子たちがいるんだよ」と教えてくれたといいます。

調べてみて、『ああ、母の言っていたことは本当なんだ……』と分かったときは、さらに大きな衝撃を受けました。自分は特に不自由なく育ってきたけれど、世界には知らないだけで苦しい状況に置かれている女の子がたくさんいる。そのことを、初めて身近に感じた瞬間でした

その後、母に教えてもらった『国際ガールズ・デー』のイベントに足を運んだ櫻井さん。そこで初めて、「ジェンダー」という言葉にも出会ったそうです。

世界には世界の、日本には日本の問題がある。それを知ったとき、『若い世代の間にも、見えにくい課題が確かにある。そのことを伝えたい。

私に何ができるかはまだ分からないけれど、性別にとらわれずに生きられる社会に少しでも近づけたい』という気持ちが芽生えました。その想いが、今の道を進む力になっているんだと思います

小さな一歩が、“その先の世界”を大きく広げてくれる

それから地域の男女平等推進センターや自治体のイベントに参加し、大学生になると東京都葛飾区で男女平等や防災の委員を務めるようになった櫻井さん。その歩みは2020年『#男女共同参画ってなんですか』プロジェクトの代表として若者の声を大臣に届けるまでに広がっていきました。

「でも最初から社会課題の解決に高い志があったわけではなくて、毎週のように友だちと遊んでいた普通の学生でした。みんなが思うような“スーパーウーマン”とはちょっと違うんですよ」と、ふっとやわらかな表情を浮かべる櫻井さん。

私が大学生のころは、ジェンダーに関するサークルや学生団体もほとんどなく、仲間を見つけるのでさえひと苦労。自分に何ができるんだろう……と悩むこともありました。

でも、男女共同参画センターや地域のイベントに行くと、年上のお姉さん方が温かく迎えてくれて、気持ちを受け止めてくれたり、人をつないでくれたりしたんです。そこから自然と輪が広がって、知識も視野もどんどん広がっていきました

そうしてどんどんジェンダーの知識を身につけていった櫻井さん。そのおかげで「生きやすくなった部分もある」と、はつらつと語ります。

高校・大学のころに専門家の話を聞いたり本を読んだりして、構造や課題を知った状態で社会に出られたのは大きかったです。そのおかげで家庭や職場、地域で起きることを冷静に捉えられたり、『でもこういう選択肢もあるよね』と自分を守れるようにもなったりして。

進みたい道が見えたとき、もしそれを妨げるものがあるなら、その原因はどこにあるのか。そうした本質をつかむ力が、“自分の生き方”を考えるうえで大きな支えになりました。

大学生といえば、学校やサークル、アルバイトに明け暮れ、ときには“人生の夏休み”と呼ばれるほど、自由な時間を謳歌する時期だと捉えられることも多い。そんな中、櫻井さんはお金と時間を惜しまず、さまざまな人に会いに行き活動を続けてきたと言います。同世代との間に、ギャップや違和感を覚えることはなかったのでしょうか。

当時は“意識高い系”なんて言われることもあって、社会課題に向き合うことが、ダサいと見られるような雰囲気もあった気がします。……今もありますよね。そんな空気のなかで一歩踏み出すのって本当に勇気がいることなんですよね。

でも一歩を踏み出すと、その一歩より、もっと大きなものが返ってくるんですよ。

出会いも、学びも、挑戦の機会も。例えうまくいかなくても全部が経験になるじゃないですか。私が主宰している若者向けのジェンダー平等な未来を拓く次世代のサードプレイス『ジェンカレ』のロゴを、“少し開いたドア”にしたのも、そんな想いからなんです。

世の中には、思っている以上にたくさんの機会がある。でも、そのドアを開けるかどうかは自分次第。飛び込んでみて、初めて見える景色もあるから。私自身も、できるだけ“NO”と言わずに、“やってみます”と挑戦するようにしています。

一歩踏み出した先には、きっと自分が思い描いていた以上の景色が広がっている───。その実感は、今も櫻井さんの中で変わらず息づいているといいます。

国の委員を務めるときは、政策や制度など、自分の専門外のことも扱わなければなりません。毎日学びながら審議会に参加していますが、『本当にみなさんの役に立っているのかな』と不安になる瞬間もあります。

でも、誰かが“若者の声を届ける”という扉を開かなければ、新しい道は拓かれていきません。もし私の背中を見た誰かが、『自分もやってみようかな。私にもできるかもしれない』と、一歩を踏み出すきっかけにしてくれたら、それだけで嬉しいんです。だからこそ私は、できる限り“最初の一歩”を自分から踏み出すようにしているんだと思います。

学生時代から多くの大人に導かれてきた櫻井さん。今度は自らが先頭に立ち、10〜20代の若い世代が進んでいける道をつくろうと、未来を見据えています。その姿は「女の子だって、なんでもできるんだよ」とそっと語りかけているように見えました。

女らしさ・男らしさのモヤモヤ、どこから来ているの?

いまの社会では、「ジェンダー」と聞くと少し身構えてしまったり、なんとなく話題にしづらい空気があるように思います。そんな状況を、櫻井さんはどう感じているのでしょうか。

正直、ジェンダーの話って、生理のことと同じくらいデリケートで話しにくいですよね。ずっと怒っている人、攻撃的な人……そんなイメージが先に立ってしまって、ネガティブに受け取られやすいのかなと感じます。だからきっと、『自分が責められるんじゃないか』と心理的安全性が奪われるような気持ちになるのかもしれません。

櫻井さんは、言葉が持つニュアンスや受け取られ方の難しさを、日々強く感じていると言います。

特に海外に行くと、“フェミニスト”という言葉の響きも使われ方も、日本とはまったく違うんですよね。2018年の第62回女性の地位委員会(CSW)では、グテーレス国連事務総長——男性で、社会的地位も高い方がこんなスピーチをしていました。

私は、自分自身を誇りあるフェミニストだと考えます。

女性の能力に限界はなく、女性の大志は無限です。

全ての人にとってのより公正で寛大な世界のために、私も全力を尽くします

(スピーチより一部抜粋)

社会的に力を持つ中年男性が、自分を“フェミニスト”と名乗る。その瞬間、会場には拍手が広がるんです。そんな肯定的な空気の中でジェンダーの話をするのと、“もしかして攻撃されるかも”と不安を抱えながら気持ちを共有するのとでは、やっぱりまったく違いますよね

だからこそ自身が関わるイベントでは、あえて「ジェンダー」という言葉を前面に出さないこともあると言います。

いきなり『ジェンダー平等のために何が必要?』と聞くと身構える人もいるんです。でも、『性別に関係なく、誰もが働いたり家事・育児したり、政治家にもなれる社会にするには何が必要だと思う?』と聞くと、すっと意見が出てくるんです。

なのでもし、ジェンダーという言葉に抵抗があるなら、『今日は家族をテーマに話をしてみよう』とか『身体のことを話してみよう』みたいに、切り口を少し変えてみるといいかもしれません

最近は、ドラマや漫画などのエンターテインメントでも、ジェンダーを扱う作品を目にする機会が増えてきました。そうした“共通言語”が生まれることで、対話もより始めやすくなるのではないかと、櫻井さんは語ります。

そこから『実は自分もモヤモヤしてた』『変えたいと思ってた』と共感しあえる仲間ができると、『じゃあ、なんでモヤモヤするんだろうね』と少しずつ掘り下げられるようになります。そうすると『政策のここ、ちょっとおかしくない?』とか『メディアの扱いってどうなんだろう』『教育でもっとできることがありそうだよね』と、自然と構造に目を向けられるようになってくると思うんです。

自分だけの問題だと思っていたことが、実はほかの人も同じように感じていて、社会の問題なんだと気づいていく。その過程がとても大事だと思いますね。

だからこそ、“モヤモヤ”をもっと気軽に語り合える場所が大切だと、櫻井さんは続けます。

私たちって、そもそもモヤモヤを外に出すのがあまり得意じゃないと思うんです。ジェンダー視点でも、『女性だから家事や育児、介護の負担が重くても仕方ないよね』『子どもがいるから正社員になれなくてもしょうがないか……』と自分に言い聞かせたり、我慢したりしてしまいがちで。

でも、モヤモヤって実は、“自分が何を大事にしたいのか”を教えてくれる大事な種なんですよね。だからまずは、自分の気持ちを知って、言葉にして、誰かと共有してみる。そうやってモヤモヤを育てていくことで、もっと自然に連帯が生まれるんじゃないかなと感じています。

若者の「こんな社会にしたい」“願い”は、言葉にして伝える

情熱と冷静さをバランスよく保ちながら、ジェンダーの課題に向き合う櫻井さん。その根底には、常に“探究”する姿勢がありました。

私は“課題解決って楽しい!”と思えるタイプなので、この活動を続けられているのかもしれません。10年続けてきて感じるのは、社会はすぐには変わらないということ。でも、一歩ずつ『じゃあ、別の伝え方は?』『違う角度からアプローチしてみよう』と試行錯誤するのは嫌いじゃなくて、探究している感覚なんです

国の委員会では、ジェンダーに関する文言を盛り込んでもらうまでに3年かかったこともあるとのこと。それでも櫻井さんは、悲観し過ぎず朗らかに言葉を紡ぎます。

安易に誰かを敵視するんじゃなく、『根本の原因はなんだろう?』と一緒に考えながら、『もしかしたら、敵だと思っていたあの人も苦しんでいるのかもしれない』と想像できる社会であれたらいいなと思うんです。

だから私も、怒りで誰かを敵に回すより、共通点を見つけながら仲間を増やして、社会にうねりをつくりたい。『わかる、私もそう思ってた!』という共感を集めて、船に乗る人を増やしていくイメージです。もちろん悔しい思いをする日もあるけれど、『変わらない』と嘆くより、『変えられるかも』と希望を持っていたいんです

変革は一気に起きない。だからこそ“自分を疲れさせない”ことも大切だと語ります。

この分野は、細く長く続けることが何より大事。三歩進んで二歩下がるくらいのペースだと思っています。ゆっくりだけど、でも着実に、世の中を前へ進めたいです。

若い世代の声が社会に届くこと───。その重要性を実感しているからこそ、櫻井さんは最後にこんな言葉を残してくれました。

国の政策に関わる立場になって感じるのは、若者の声が圧倒的に届いていないということ。どんな人間関係でも、“こうしたい、これは嫌だ”という気持ちは言葉にしないと、相手には伝わりませんよね。政治も同じなんです

選挙での投票、署名への参加、議員に会いに行く、行政機関にメールやファックスを送る、パブリックコメントの提出、活動団体のSNSをシェアする、寄付をするなど、どんなに小さな行動でも十分だと櫻井さんは話します。

いきなり自分で声を上げるのが難しかったら、誰かに託すのもひとつの方法です。大事なのは、自分の気持ちを心の中に閉じ込めず、できる範囲でちょっとずつ外に出してみること。“モヤモヤの種”を、どんな形でもいいから咲かせてみてほしいなと思いますね

***

取材中、なにより印象に残ったのは、ジェンダーの話を軽やかで明るいまなざしで語る櫻井さんの姿でした。

「審議会or会議に行くと、若い世代は私だけ、なんてこともよくあります」と笑いながら、めげずに何度でも声を届け続ける。その姿はどこかしなやかで、粘り強く前へ進む、櫻井さんの生き方そのもののように感じられました。

「変わらない」と思い込んでしまえば、本当に変わらない。でも、少しずつ変わりつつある兆しに目を向けることはできる。

ジェンダーを語ることは、決して特別なことではなく、
“この世界で、自分はどう生きたいのか”を考えるための、ひとつの扉なのかもしれません。

櫻井さんの言葉は、その扉の向こうに一歩踏み出してみようという気持ちを、そっと後押ししてくれるようでした。

ソラミドについて

ソラミドmado

ソラミドmadoは、自然体な生き方を考えるメディア。「自然体で、生きよう。」をコンセプトに、さまざまな人の暮らし・考え方を発信しています。Twitterでも最新情報をお届け。みなさんと一緒に、自然体を考えられたら嬉しいです。https://twitter.com/soramido_media

取材・執筆

貝津美里

生き方を伝えるライター・編集者
1996年生まれ。“人の生き方の選択肢を広げたい”という想いでライターになる。女性の生き方・働き方・ジェンダー・フェミニズムを中心に、企業のコンテンツ制作やメディア寄稿、本の執筆を手掛けています。埼玉県と新潟県糸魚川市の二拠点生活をしながら、海外にもよく行きます。柴犬好き。
プロフィール:https://lit.link/misatonoikikata

編集

佐藤純平
ソラミドmado編集部

ああでもない、こうでもないと悩みがちなライター。ライフコーチとしても活動中。猫背を直したい。
Twitter: https://twitter.com/junpeissu

撮影

飯塚 麻美

1996年、神奈川県生まれ。フォトグラファーとして、東京と岩手の二拠点で活動。ソラミドmado編集部所属。ライフワークとして海や港で生きる人たちの写真を撮っている。

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