「女として、男としてこうすべき」「家族とはこうあるべき」「母としてこうすべき」。
そんな固定観念にしばられずに、自分らしい選択がしたい。そう願う全ての人たちにお届けする、連載『ジェンダーのmado』。
この連載では、日々の”モヤモヤ”を出発点に、ジェンダーの専門家や実践者の”生き方”に耳を傾けながら、自然体な生き方を探究していきます。
***
毎年6月、東京でアジア最大級のLGBTQ+の象徴となるイベント『Tokyo Pride』が開催され、その中でもプライドパレード&フェスティバルでは、レインボーフラッグを手にした多くの人が集まります。
友人同士やカップルで訪れる人、子どもを連れた家族、企業のブースを巡る人。思い思いにその場を楽しむ風景が広がっています。

今回お話を伺ったのは、本イベントを企画・運営するNPO法人東京レインボープライド共同代表理事の佐藤 ユウコさん。
ウェルビーイングは、とても大切な考え方です。でもそれが『自分で頑張って幸せになりましょう』という話だけになってしまうと、少し違うのかなと感じます。自分らしく生きることは、個人だけの問題ではなく、社会全体で支えていくものなんです。
日本ではいまも同性婚は法的に認められていません。愛する人と家族を築き、安心して暮らしたい。そんな当たり前の願いでさえ、制度によって叶えられない人たちがいます。
華やかなプライドパレードの背景には、「LGBTQ+当事者だけではなく、誰もが『らしく、たのしく、ほこらしく』生きられる社会をつくりたい」という願いが託されているのです。
今回のインタビューでは、パレードの先にある想いと、誰もが自然体で生きられる社会のあり方、そして私たち一人ひとりにできることについて伺いました。

佐藤ユウコさん
NPO法人東京レインボープライド 共同代表理事
2024年10月より共同代表を務める。企業におけるDEIB+推進、教育現場での指導経験、市民活動での実践を三本柱に、インターセクショナリティを重視したプライド運営を推進。過去には教育現場での指導や、多様性教育・SDGに関する学術・出版活動にも携わった経験を持つ。
「自分たちを恥じる必要なんてない」プライドパレードが受け継ぐ想い
───毎年6月の「プライド月間」を中心に、世界各地でプライドパレードやフェスティバルが開催されています。「プライド」という言葉には、どのような意味が込められているのでしょうか。
プライドパレードは、最初からお祭りとして始まったわけではありません。その起源は、1969年にアメリカ・ニューヨークで起きた「ストーンウォールの反乱」です。
当時、LGBTQ+の人たちは警察からの暴力や差別、偏見にさらされ、「自分たちは恥ずかしい存在なんだ」という価値観を社会から押し付けられていました。
それに対抗する言葉として掲げられたのが、「Pride(誇り)」です。
「自分たちを恥じる必要なんてない。自分らしく、堂々と生きていこう。」
そんな想いが、この言葉には込められています。
今もなお、LGBTQ+であることを理由に差別や偏見を受け、自分らしく生きることが難しい人たちはいます。だからこそ、この歴史を忘れず、社会に伝え続けるために、世界中で「プライド」という名前が受け継がれているのです。

───そうした歴史を知ると「お祭りだけで終わらせない」という強い気持ちが伝わってきますね。日本社会にも、少しずつ変化は生まれているのでしょうか。
そうですね。10年ほど前は、イベントも代々木公園の一角にブースを出すような規模で、当事者による、当事者のためのものという色合いが強かったと思います。
でも、この10年でLGBTQ+という言葉そのものが広く知られるようになりました。今年も多くの企業や自治体、当事者団体がTokyo Prideに参加してくださり、ニュースでも毎年取り上げられるなど、社会との接点は確実に広がっていると感じています。
その中でも私が特にうれしいのは、家族連れの来場者がとても増えたことです。

Tokyo Prideの中でもプライドパレードやプライドフェスティバルは、代々木公園という誰でも立ち寄れる公共の場所で開催しています。当事者だけでなく、大人も子どもも、「今日は何のイベントなんだろう?」と、たまたま立ち寄った人でも、“誰もが安心して過ごせる場”であってほしいと思いながら続けてきました。
実際に、小さなお子さんを連れた家族が楽しそうに会場を歩いたり、一緒にステージを眺めたりする姿を見ると、この場所が少しずつ開かれた場になってきたことを実感します。
一年ずつ、一つずつの積み重ねが、今のTokyo Prideにつながっているのだと思いますね。
海外では結婚できても、日本では配偶者として認められない

───一方で、社会にはいまも偏見や、平等とは言えない法律や制度が残っています。そうした中でも活動を続ける佐藤さんの原動力は、どこにあるのでしょうか。
同性婚をめぐる問題は、私自身の生活と、本当に地続きなんです。
私とパートナーは、戸籍上はどちらも女性なので、日本では同性カップルとして見られています。パートナーは外国籍ですが、学校を卒業してから、ずっと日本で働いてきました。
私たちは同性婚が認められている他の国で結婚の手続きをしていますが、日本では法律上の配偶者として認められていません。
そのため例えば家を買おうと思っても、ペアローンを組むまでに、通常よりも多くの時間や書類が必要になります。書類をそろえるだけでも時間もお金もかかりますし、「家族ではない」と扱われてしまうような場面も、日常の中にあるんです。

また、LGBTQ+の当事者は、LGBTQ+であることを理由に家族と疎遠になっている方も少なくありません。それにもかかわらず、何年も会っていない家族しか病室に入れなかったり、お葬式に参列できなかったりすることもあります。何十年も一緒に暮らしてきたパートナーではなく、別の親族に遺産が渡ってしまうこともある。
現行の法制度のもとでは、当事者が法的に十分に守られず、さまざまな不利益を受ける場面が今もなお少なくありません。
───生活に直結する問題ばかりですね。
それに異性カップルであれば、結婚によって配偶者ビザを取得でき、永住権への道も開かれます。でも、同性婚が認められていない私たちは、それができません。
パートナーはいま就労ビザで日本に滞在しているため、もし病気や事故で働けなくなれば、強制送還の可能性もあります。
もしものことがあったとき、今の生活そのものが続けられなくなるかもしれない……。
そんな不安を抱えながら、細い一本の針の上に立ち続けているような感覚で日々を送っています。
「誰もが安心して暮らせる社会にしたい」という言葉の背景には、私自身の置かれている状況があります。そして、同じような不安を抱えながら暮らしている人たちがいます。
その人たちが安心して暮らせる社会をつくりたい。それが、私の原動力でもあるのです。
ウェルビーイングを、個人の努力だけにしない
───LGBTQ+は目に見えづらいマイノリティ性でもあるので、周りとの人間関係やコミュニケーションにおける差別や偏見も残っていそうですね。
そうですね。例えば、職場で「週末は何していたの?」と聞かれたとき。
「パートナーと過ごしていました」と自然に話していいのか、その場で一瞬考えてしまう当事者は少なくありません。日常会話の中で差別的な発言を耳にすると、「やっぱり話せないな」と思ってしまう。「この人には話しても大丈夫かな」と、その都度判断しながら生活している人がたくさんいます。
勤続年数が長くなり、周囲と距離が近くなるほど、自分のことを隠さなければならなくなって、結果として孤立してしまう人もいる。
実際にLGBTQ+当事者は、職場でのハラスメント、カミングアウトに関する悩み、福利厚生の不足により、一般平均よりも転職回数が多くなる傾向もあるんですよ。
───そうなのですね。最近は、「自分らしく生きよう」「ウェルビーイングを大切に」と言われるようになりましたが、個人の努力や自己責任として語るには限界を感じますね。
ウェルビーイングという考え方自体は、本当に大切だと思っています。
でもいくら本人が「前向きに生きよう」「自分のメンタルは自分で整えよう」「自分らしく」と思っても、法律や制度の不平等、社会的構造の問題で、個人の心持ちではどうにもならないことがあるんですよね。
私たちが求めているのは、特別な権利ではありません。普通に生きていく権利。それを、性別やセクシュアルティ、国籍、障がいなどを問わず、誰もが平等に持てるようにすることなんです。

───そう考えると、一人ひとりが社会に関心を向けることが、法律や制度、企業の風土や福利厚生を変えるきっかけにもなりそうですね。
そうですね。最近は、LGBTQ+だけではなく、外国にルーツのある人など、自分とは違う属性の人への差別的な言葉が、SNSなどで広がっていることにも危機感を覚えています。
SNSでは、そうした声がエコーチェンバーによって増幅されて、まるでそれが社会全体の意見であるかのように見えてしまうことがあります。
※エコーチェンバー:自分と似た意見ばかりに触れ、自身の考えが絶対的な正解であると錯覚・増幅してしまう現象
だからこそ、「差別はしてはいけない」というメッセージを、社会としてもっとはっきり伝えていかなければいけない。誰かを傷つけたり、自分とは違う人を排除したりすることは、あってはならないことなんだと示していく。
そして、それを法律や制度としても明文化していくことが、今必要とされている変化なんじゃないかなと思っています。
そういう意味でも、「自分らしい生き方」や「ウェルビーイング」は、個人だけの問題ではなくて、社会全体で支えていくものなんじゃないかなと考えています。
「完璧に理解してから」じゃなくていい。今日からできること

───LGBTQ+当事者ではない人は、どのように関わっていけばいいのでしょうか。
「アライにならなきゃ」と身構える必要はないと思っています。
※アライ:LGBTQ+などの性的マイノリティを理解し、支援する人やその姿勢のこと。特別な資格は不要で、誰もが今日から「味方」として寄り添い、行動を始めることができる。
もちろん、Tokyo Prideのボランティアとして活動したり、イベントづくりに参加したりする人もいます。そうした関わり方も、とても心強い存在です。
でも、全員がそこまでしなければいけないわけではありません。
まずは、「知ろう」とすること。それだけでも十分、大きな一歩です。
今は、本や記事、SNSなどを通じて、当事者がどんな経験をしているのかを知る機会がたくさんあります。「自分には関係ない」と思うのではなく、「どんな人生を歩んできたんだろう」と興味を持ってもらえるだけでも、とても嬉しいです。
それだけでも、もうアライとしての行動が始まっていると思います。
───「傷つけてしまうかもしれない」と怖くなってしまう人もいると思います。
その気持ちも、とてもよく分かります。
だからこそ、完璧な知識を持とうとするよりも、「分からないから教えてもらえますか」と聞けることの方が大切だと思っています。
例えば、「失礼だったらごめんなさい」「分からないので教えてもらえますか」そんな一言を添えるだけでも、コミュニケーションはずいぶん変わります。
もちろん、相手にも話したくないことはあります。当事者だからといって、全員が同じ考えでもありません。だからこそ、お互いの境界線を尊重することが大切です。
私はよく、「バウンダリー(境界線)」という言葉を使います。
どこまで話したいか。どこまで聞かれたくないか。それは一人ひとり違います。
だから、自分の価値観を押し付けず、相手の価値観も無理に変えようとせず、「この人はどう感じているんだろう」と思いやることが大切なのだと思います。
そして、もし間違えたら、素直に謝ればいいと思うんです。「ごめんなさい。今の言い方は良くなかったですね」と。LGBTQ+に限らず、人とのコミュニケーションはみんなそうですよね。
自分も相手も大切にするために、コミュニケーションのトライアンドエラーを恐れない。その積み重ねが、誰にとっても安心できる社会につながっていくのだと思います。
──最後に、東京レインボープライドとして、これからどのような社会を目指していきたいですか。
これまで東京レインボープライドは、年に一度Tokyo Prideを開催し、多くの人が集まる場所をつくってきました。でも、それだけでは足りないと感じています。
イベントの日だけではなく、365日安心して過ごせる居場所が必要です。
そんな想いから今年、常設スペース『 Queer Space Tokyo』を立ち上げました。

講座や交流会を開きながら、LGBTQ+だけではなく、さまざまなマイノリティの課題について学び合える場所にしていきたいと考えています。
人は誰でも、何かしらの生きづらさや、周りとの違いに悩んでいます。だからこそ、「自分とは違う誰か」のことを知ることは、自分自身の生きやすさにもつながっていくはずです。
東京レインボープライドは、プライドパレードを開催する団体ではなく、多様な人が安心して集い、学び合い、支え合えるコミュニティでありたい。
そんな新しいフェーズへ、これから歩み始めようとしています。
***
取材の中で印象に残ったのは、「『自分らしい生き方』や『ウェルビーイング』は、個人だけの問題ではなくて、社会全体で支えていくもの」という言葉でした。
ジェンダーやLGBTQ+について、「自分には関係ない」「詳しくないから話せない」と感じることもあるかもしれません。
でも、分からないからこそ耳を傾けること。モヤモヤした気持ちをそのままにせず、「どうしてそう感じたんだろう」と考えてみること。誰かと気持ちを共有してみること。
そして自分とは違う意見の人、違う立場に置かれている人の人生を知ろうとすること。想像すること。
その小さな一歩が、法律や制度を変えることにも、つながっていくのではないでしょうか。
プライドパレードの先にあるのは、誰もが自然体で、自分らしく暮らせる日常。その未来へ向けて、東京レインボープライドは今日も歩み続けています。
取材・執筆

ノンフィクション作家・生き方を伝えるライター
1996年生まれ。“人の生き方の選択肢を広げたい”という想いでライターになる。関心テーマは、女性の生き方・フェミニズム・LGBTQ+・クィア。著書『「自分のかたち」のまま、これからも私は」(WAVE出版)
編集

大学在学中より雑誌制作やメディア運営、ブランドPRなどを手がける企業で勤務したのち、2017年からフリーランスとして活動。ウェブや雑誌、書籍、企業オウンドメディアなどでジャンルを問わず執筆。2020年から株式会社スカイベイビーズ(ソラミドmadoの運営元)に所属。2023年には出産し一児の母に。お酒が好き。
ソラミドmadoについて
読者アンケート実施中
感想や印象に残った言葉、取材してほしい人やテーマなど、ぜひみなさんの声をお聞かせください。















