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誰かを応援すると、世界が少し明るくなる。エンゲート代表・城戸幸一郎さんが語るスポーツ界の“推し活”のいま

誰かを応援することって、私たち自身の心をそっと前に押してくれる力がある。がんばる誰かの姿に自分の想いや夢を重ねたり、ほんの少しの「がんばれ」を届けることで、気持ちがふっと軽くなる。自分も頑張ろう、と思える。

現代では、応援することそのものの形や、“推し”に気持ちを届ける手段が多様化したことで、「推し活」や「応援する」という行為が、以前よりずっと身近になった。

スポーツギフティングプラットフォームを展開するエンゲート株式会社の代表 城戸幸一郎さんは、「応援には人を動かす力がある」と語る。それは選手だけでなく、応援する側にとっても同じ。かつての自分の夢を重ねたり、誰かの挑戦にそっと気持ちを託したり。そんな前向きな力が、推し活の広がりを支えているのだという。

本記事では、城戸さんの視点を通じて、“応援すること”の価値を紐解いていく。

城戸幸一郎さん

エンゲート株式会社 代表取締役。
九州大学卒。ソフトバンクで人事を担当の後、楽天で17年勤務し全国の地方支社や海外事業の統括と、フード&ドリンク事業部の執行役員を務める。ソフトバンク/楽天で企業成長の1→100を経験し、創業の0→1を経験したく40代で起業。

小学生からサッカー少年。現在は多摩川沿いのジョギングと週末は子供のサッカーチームのコーチ業に勤しむ。

エンゲートについて

エンゲートは、スポーツチームや選手をファンがデジタルギフトを通じて応援できるWebサービス。応援したいチームを選び、チームや選手にデジタルギフトを贈ることで、ファンから直接応援の気持ちを届けることがでる。数十種類以上のギフトから、選手の活躍やプレーに応じてギフトを贈ることができ、チームや選手とファンの絆をつなぐ。現在、プロ野球、サッカーJリーグやバスケットボールBリーグをはじめ、学生スポーツなど、多種多様な競技から150チーム以上が参画しており、「ファンとチームの新しい関係性」を築くプラットフォームとして進化を続けている。

https://engate.jp

親友の五輪挑戦が気づかせてくれた、スポーツ界の課題

──まずは、城戸さんがエンゲートを立ち上げ、スポーツギフティングサービスを始めるに至った経緯を教えていただけますか?

もともと、楽天で17年ほど働いていたんです。楽天は「インターネットを通じて中小企業をエンパワーメントしていく(力を与える)プラットフォームになる」というコンセプトを掲げていて、長く在籍した理由も、その考え方に強く共感していたからです。

私はECの事業領域にいたのですが、インターネットが生み出す価値のひとつに「場所に縛られないフェアなチャンスをつくる」という点がありますよね。商品やサービスの魅力を正しく伝えられさえすれば、世界中どこからでもお客さんに買ってもらえる。インターネットは、普段実現しにくいマッチングや、少額からの資金循環を可能にするプラットフォームになり得る。この学びは、今の自分の基盤になっています。

──その基盤が、エンゲートの立ち上げにも繋がっていくのでしょうか。

そうなんです。高校時代からの親友が30代半ばで「本気でオリンピックを目指したい」と一念発起したんですよね。高校時代からセーリングの選手として活躍していた石橋顕(いしばし あきら)さんは、サラリーマンとしての生活をすべて手放して、再びセーリングの世界へ挑戦しました。当時、地元の福岡の企業に頭を下げて資金を集めたり、友人たちはTシャツを買って支援したりと、周囲を巻き込みながら必死で活動していたんです。その後、見事北京オリンピックに日本代表として出場しました。

彼の苦労を間近で見ていて、資金や支援者の不足、家庭や仕事の事情、都心と地方での環境の差など、置かれた環境によっては、夢を追いかけ続けることが難しく、途中で断念せざるを得ないアスリートは本当にたくさんいるだろうと強く感じました。

セーリング競技 49er級にて北京2008五輪に日本代表として出場した石橋顕さん(撮影:MATSUMOTO Kazuhisa)

私自身、サッカーをずっと続けてきたこともあり、スポーツが持つ無限の可能性を肌で感じていました。でも現場に目を向けると、才能があっても資金の問題で挑戦できなかったり、引退後のセカンドキャリアに不安を抱えたりする選手が多く、「スポーツ界の課題をインターネットの力で何とか解決できないか?」という強い想いを抱くようになりました。

そんな時、フィギュアスケートの羽生結弦さんが優勝した大会で、スケートリンクにぬいぐるみや花束がたくさん投げ込まれるシーンを見て、「これだ!」と思ったんです。氷上にプレゼントが投げ込まれる形だと、誰が何を贈ってくれたのかまではわかりません。それならインターネット上で、“気持ち”をデジタルギフトで少額から届けられる手段があれば、選手とファンの繋がりも見えやすくなるのではないか。そしてもっと多くの人が、選手のサポートをできるんじゃないか。そんな発想が、エンゲートの「ギフティングサービス」の原点です。

“共感経済”の時代に生まれた応援の新しいかたち

──ご自身のスポーツ経験やお仕事での体験が原点としてあり、人を応援することで生まれるポジティブな循環に個人や社会の大きな可能性を感じられたことが、エンゲートの立ち上げに繋がったんですね。

 “エンパワーメント” という考え方は、非常に大きな比重を占めていますね。単なる事業の枠組みを超え、人の可能性を信じてその力を引き出すという行為そのものに、強い意義を感じています。

楽天時代は中小企業のエンパワーメントに携わってきましたが、現在はアスリートへと広げ、活動を形にしています。エンゲートが掲げる「スポーツエンパワーメントプラットフォーム」というコンセプトは、まさにこうした想いからなんです。

これまでの資本主義経済は、「所有しているか否か」という境界線がはっきりしていました。しかし、インターネットの普及によって、その境界がどんどん曖昧になっていますよね。シェアリングエコノミーがその典型で、Uberで車を共有し、Airbnbで家を貸し出す。以前は考えられなかったような “共有” が、新しい経済の形を作っています。

そしてその先には、さらに一歩進んだ “共感経済” が生まれてきていると感じています。資産を自分だけのものとして閉じ込めるのではなく、共感を軸に誰かと分かち合い、共有し合う。そういうマクロな潮流が生まれているのではないでしょうか。

その文脈で考えると、ギフティングのサービスってすごくしっくりくるんですよね。一部の富裕層だけが資産を投じるような話ではなく、「頑張っている誰かを少額から応援する」という、共感をベースにした自然なアクションで成り立っています。夢を追うアスリートを背中からそっと押す。その行為自体に価値がありますし、応援する側のウェルビーイング(幸福感)も高まっていくことにつながっていくんじゃないかと思います。

寄付文化が根付いているアメリカでも、義務感ではなく、根底に “与える喜び” があるからこそ続いているのだと思います。そうした感覚にフィットした存在でありたいですね。

サービス開始時のBリーグの試合にて、横浜ビー・コルセアーズの高木オーナーと
エンゲート起業当初の渋谷のオフィス

──応援する側のウェルビーイングにもつながる。素敵ですね。エンゲートのギフティングでは、日本人が持つ “寄付” のイメージを良い意味で壊し、エンターテインメントとして楽しく応援できる点がとても画期的だと感じました。選手から誕生日に花束が届くなど、これまでにない双方向のコミュニケーションが生まれているところにも、新しい応援の形を感じます。

選手とファンの新しい交流の形を作る、というのは、私たちにとっての大きなテーマです。有名な選手になればなるほどセキュリティの関係もあって、試合会場でもなかなか直接やり取りできないですよね。出待ちをして、サインをもらえるかどうか……そのギリギリのところが、唯一の交流のチャンスだったりします。SNSも、選手にもファンにもリスクがありますし。プライバシー面で慎重にならざるを得ない環境なんですよね。

そこで、チームの公認で“みんなが見ている場所で交流できる” という設計にしました。ファンはエンゲートでギフティングし、コメントを添えることもできます。選手には通知が届く機能があり、選手からお礼の返信が届くこともあります。選手もファンも安全を守りながら、オープンな空間でつながれるようにしているんです。

ギフティングが生む、新しい関係性と評価軸

──これまでは応援の“度合い”を測るとなると、観客動員数やグッズの売り上げといった数字が中心だったと思うのですが、“応援の気持ち”が可視化されるようになったのは、とても大きな変化ですね。

以前のスポーツビジネスは「チームとファン」の関係が主軸でした。しかし、今はチームという枠を超え、選手個人と直接つながり、力になれる形へと進化しています。

私自身、起業家として資金調達を経験してきたので「応援される側の気持ち」がよく分かるんです。出資は単なる資金提供ではなく、ビジョンへの共感と期待の表明です。「この人たちのために」という思いは、何よりの推進力になります。アスリートも同じです。金額に関わらず自分の活動を肯定し支えてくれる存在が可視化されることは、困難を乗り越えるための「心のガソリン」になるはずです。

一方で、応援する側──“Giver”になること自体にも、喜びがあります。誰かの力になることは、自分自身の幸福度を高め、生きがいにも繋がる。中には見返りも求めずに、移籍した選手の新天地での活躍を願い、多額のギフティングをされるユーザーさんもいます。こうして「損得」ではなく「情熱」で動く方々が全国にいて、私たちのプラットフォームを支えてくださっている。それはとても励みになっています。

また、ギフティングは選手の「新しい評価軸」にもなり得ます。競技成績だけでなく、ファンを大切にする姿勢やコミュニケーションの質が可視化されていくのです。いわゆる“神対応”に象徴される「関係の良質さ」を定量化できる仕組みは、選手には新たな価値証明を、ファンにはより深い充足感をもたらすと確信しています。

──「関係の良質さ」が定量化されることで、具体的にどんな変化が起きていますか?

実際、いい事例がいくつか生まれています。

たとえばコロナ禍、あるバスケットボール選手に多額のギフティングが集まりました。その選手は収益を地域の子どもたちへバスケットゴールを寄贈する資金に充てたんです。Jリーグでも、ギフティングの収益で、子どもたちを試合に招待した選手がいました。

すべて選手本人の意思による自主的な行動で、「受け取った応援を、さらに社会へと還元していく」というポジティブな循環が、プラットフォームを通じて自然発生的に生まれているんです。

今はまだ小さなうねりかもしれませんが、こうした物語をひとつでも多く積み上げていくことこそが、ギフティングというサービスの真の価値だと信じています。

──「応援が社会に還元される」という点で、オークション形式での支援も広がっていると聞きました。

私たちはギフティングに加え、モバオク社との連携によるスポーツオークション『スポオク』も展開しています。選手が実際に使用したユニフォームやスパイクを出品し、その収益をチームの運営や社会貢献活動に充てる仕組みです。

デジタルギフトが「日々の感謝や期待」を届けるものなら、スポオクは「一生ものの思い出」を共有しながら、よりダイレクトに支えとなる場所です。憧れの選手のアイテムがファンの手に渡り、その対価が次世代の育成やチームの環境改善へと繋がっていきます。これもまた、私たちが理想とする「応援の循環」のひとつの形です。

かつて抱いた夢の続きを、誰かの挑戦に重ねられる時代

──今、“推し活”が社会現象になっていますが、なぜこれほどまでに人々を惹きつけるのだとお考えですか?

「推し活」が広がる背景には、“自分の叶えられなかった夢を、誰かを応援することで追体験している” という側面が大きいと感じています。

子どもの頃は、プロ野球選手やサッカー選手、総理大臣になりたいとか、誰もが自由に夢を描けますよね。でも大人になるにつれて、環境や現実と向き合い、多くの人が夢を諦めたり、別のキャリアを選んでいくわけです。

ひたむきに挑戦を続けるアスリートの姿は、そんな私たちがかつて置いたままにしてきた「夢の続き」を見せてくれる存在なんです。選手に託して共に走る。推し活には、人生の類似体験のような本質的な喜びがあるのだと思います。

そこにテクノロジーの進化が重なり、応援の手法やコミュニケーションが多様化したことで、誰もが自分らしい距離感で夢を共有できるようになったことが、ムーブメントの背景にあると考えています。

──たしかに、「推し活」の原動力は、憧れや夢を重ねるという一面がある気がします。

「推しは推せるときに推せ」という言葉がありますけど、本当にその通りだと思います。もし“推せる存在”に出会えたなら、迷わず応援してほしいです。

なぜなら、「誰かを応援する人」こそが、結果として「誰かに応援される人」になれるからです。惜しみなく与える人の周りには、必ずポジティブな循環が生まれます。それは、自分自身が誰かに支えられる存在へと変わっていくプロセスでもあるのです。

誰かを応援し、自分もまた応援される。今の時代における一つの「幸せな生き方」なのではないでしょうか。

世界中の誰もがアスリートを目指せる世界を作る

──最後に、エンゲートが描く未来のビジョンをお聞かせください。

私たちは今、日本発のこのモデルを、2兆円規模の市場であるアメリカの大学スポーツへ展開する試みを昨年からスタートしています。目指すのは、「国境を超えて、世界中の選手とファンが直接つながれる世界」遠く離れた国で戦う日本人選手を日本から支え、逆に国内で活躍する外国人選手を母国のファンが応援するなど住んでいる場所に関係なく、世界中で活躍する選手に「がんばれ!」を届けられるプラットフォームへと成長させていきたいです。

さらにその先には、「現役時代のギフティングデータ」を用いたセカンドキャリア支援も構想しています。引退後も、現役時代に築いたファンとの絆を活かして「新たにこういう活動を始めます」と、これまで応援してくれたファンに次の挑戦を告知できるような仕組みなど、人生に寄り添う長期的な関係性を作ることは大きな価値があると思うんですよね。

スポーツの推し活が“夢の追体験”であるなら、エンゲートはその物語をより深く、より長く共有できる場所でありたい、と願っています。

───推し活を楽しむ人が増えれば、社会全体にもポジティブな循環が生まれそうですね。

私たちは「世界中の誰もがアスリートを目指せる世界を作る」というビジョンを掲げています。そのビジョンを言葉で具現化しているのが『Engate Media』(エンゲート メディア)という自社メディアです。

ここでは選手の挑戦だけでなく、スポーツビジネスを牽引する経営者や指導者の情熱、大会運営の舞台裏の葛藤、さらにはスポーツによる社会課題の解決や社会貢献活動まで多角的に掘り下げて発信をしています。華やかな結果の裏にある「ストーリー」を可視化することで、ファンや企業、地域社会へと共感の話を広げていきたいと考えているんです。目指すのは、経済面と精神面の両方からアスリートを支えるエコシステムの構築です。スポーツの真の価値に触れたいすべての方にぜひ読んでいただきたいと思います。

このような取り組みの数々を通じて、世界中の人々が、自分の可能性を信じて挑戦し続けられる、そんな土台づくりを全力で担っていけたらと考えています。


取材を通して、「応援」という言葉の意味が少し広がりました。

誰かの挑戦に気持ちを託すこと。

その気持ちが可視化され、選手の背中を押し、さらに地域や次の世代へと還元されていく。そこには、単なるお金やモノのやり取りを超えた、確かな循環があります。

そしてもうひとつ印象に残ったのは、「応援する人こそが、応援される人になる」という言葉でした。誰かを信じて行動する人のまわりには、自然と人が集まる。応援は、一方通行では終わらないのだと思います。

あなたには、いま本気で応援したい誰かがいますか。

その存在がいるなら、その気持ちを、少しだけでも行動に移してみませんか。

誰かを応援すると、世界が少し明るくなる。

そしてその光は、きっと自分の足元も、静かに照らしてくれるはずです。

もし今、自分自身を見つめてみたい気持ちがあるなら、まずは何かをじっくりと観てみるところから始めてもいいのではないでしょうか。

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