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心理的安全性は、ぬるさではない。ゼンテク代表・金さんが語る、成果につながるチームの基盤

「心理的安全性」という言葉を耳にする機会が増えました。

会議で意見を言いやすいこと。困ったときに助けを求められること。失敗や違和感を隠さず、チームの中で共有できること。

働くうえで大切な要素として語られる一方で、「なんでも言っていい職場」「厳しいことを言わない、やさしい組織」といったイメージで受け取られることも少なくありません。

けれど本来の心理的安全性とは、ただ居心地のよい空気をつくるためのものではないはずです。チームとして成果を出すために、言うべきことを言い合い、助け合い、挑戦できる基盤をつくること。そのために必要な考え方なのではないでしょうか。

今回は、心理的安全性を軸に組織づくりやチームづくりを支援している株式会社ZENTech(ゼンテク)代表の金さんに、心理的安全性への向き合い方や、リーダーやメンバーが日々の中でできることについて伺いました。

金 亨哲(きむ ひょんちょる)さん

株式会社ZENTech(ゼンテク)代表取締役社長
Shakr株式会社 代表取締役 CEO。慶應義塾大学法学部政治学科卒。
福澤諭吉記念文明塾3期修了。世界最大の社会起業家ネットワークAshokaより2010年日本初のAshoka Youth Ventureの一人として選出される。TEDxKeio 2013Founder / Director。「世界中を故郷にする」を Missionにコミュニティを経済圏にするサービス TiTi を着想・展開している。

心理的安全性は「当たり前」だからこそ難しい

——まず、ゼンテク立ち上げの経緯から伺えますか?

ゼンテクは、共同創業者でありファウンダーの島津から「一緒に起業しないか」と声をかけてもらったことがきっかけで始まりました。

島津が今まで行ってきた組織づくりに関する話を聞くなかで、「これは最近、少しずつビジネスの世界で語られ始めている“心理的安全性”という概念に近いのではないか」と感じたんです。

良い組織や良いチームをつくるためには、遠慮や忖度なく、言うべきことを言い合える状態が重要です。私自身、小さなチームで動くことは多かったのですが、大きな組織では、さまざまな要因によって「言えない瞬間」が生まれるのだと知りました。だからこそ、「言い合える組織をつくる」ということは、組織づくりにおいて一番の土台なのだと考えるようになりました。

——企業の組織づくりを支援する中で、大切にしていることはありますか?

多くの企業の中には、愛社精神を持っている人がいます。「この会社をより良く変えたい」「会社に何かを返したい」と思っている人にもたくさん出会ってきました。

私たちは、そうした方々の支えになりたいと思っています。背中を押したり、一緒にもがいたりしながら、会社を変えようとする人たちに伴走していく。それは、ひとつ信念として持っているところです。

実際に企業のサポートをしてきた中で印象的だったのは、ある企業での役員の方の変化です。その方は、部下から資料を受け取っても、忙しさから全部を見る前に「こういうこと?」と聞いてしまう癖があったそうです。でも心理的安全性を育むための研修に参加していただいてからは、「最後まで話を聞く」ことを徹底されるようになりました。

パソコンに「最後まで話を聞く」と書いたテープを貼り、部下に対して自らきちんと挨拶をするようになった。すると、周りにも変化が起きました。「役員が最後まで資料を見てくれるようになったので、中途半端な資料は持っていけなくなった」という声があがったんです。以前は「どうせ最後まで見てもらえない」と思っていた社員が、「ちゃんと見てもらえる」と感じるようになったことで、資料の質まで変わっていった。一人が変わることで、周囲の仕事への向き合い方も変わるという、とても印象深い出来事でした。

心理的安全性は、何のためにあるのか

──心理的安全性は、働きやすい職場づくりという文脈で語られることも多いですが、どのような役割を果たすものだと考えていますか?

大前提、「働きやすさ」と「働きがい」を分けて考える必要があると思っています。

働きやすさは、制度や環境など、ハード面に近いものです。報酬、オフィスの環境、リモートワークの可否、使えるツールなどが関わってきます。

一方で、働きがいはもう少しソフト面に近いものです。このチームで結果を出したいと思えるか。このメンバーと一緒にやりたいと思えるか。チームに対して愛着を持てるか。

心理的安全性は、どちらかというと後者の「働きがい」のためにあるものだと私は考えています。制度や環境は、ある程度ロジックで整えられます。でも、「このチームにとっての働きがいとは何か」は、単純にハード面を整えれば生まれるものではありません。

心理的安全性を高めることによって、「このチームで成果を出したい」「この人たちと一緒に挑戦したい」と思える関係性が育まれる。だからこそ「安心して働けること」そのものではなく、「このチームで頑張りたい」と思える状態をつくり、成果につなげるための土台になるのだと考えています。

——心理的安全性という言葉は、ここ数年で一気に社会に浸透したように感じますが、金さんのお話を聞いてより理解が深まりました。

ただし、ある種のバズワードとして広がり始めたからこそ、少し誤解されている部分もあると思っています。たとえば、「どんな発言をしてもいい」「すべてを肯定してただやさしくすればいい」と受け取られてしまうことがあります。でも、それは少し違うんですよね。

心理的安全性は、自分勝手に何でも言っていいという話ではありませんし、“ぬるい空気”を作ればいいというものではありません。あくまで主語はチームです。「チームがより良い成果を出すために必要なことを、安心して伝えられる状態」であることが本質です。

言わなければいけないときは言うことができる。多少ピリッとすることがあってもネガティブな空気にはならず、成果に向かって進んでいける。そのようなチームの信頼関係を育むための土台なのです。

だから私は、企業をご支援する際も、「心理的安全性を高めましょう」とだけ伝えることはほとんどありません。むしろ、「話しやすいチームをつくりませんか」「助け合える組織を目指しませんか」というように、組織としてどんな状態を目指したいのかを言葉にしてもらうことを大切にしています。自分たちにとって良い組織とはどんな組織なのか。それを言語化できたとき、本当の意味で組織は前に進み始めるのだと思っています。

リーダーだけでなく、メンバーもチームをつくっていく

——金さんご自身が、マネジメントをする立場としてチームの心理的安全性を高めるために心がけていることはありますか?

すごく端的に言うと、自己開示を徹底しようと思っています。

リーダーになると、「悩んでいる姿を見せてはいけないのではないか」と考えてしまうこともありますが、自分はいま何に悩んでいるのか。何に時間を使っているのか。なぜその判断をしているのかといったことを、できるだけ平坦な言葉で伝えるようにしています。リーダーが強がらずに悩んでいる姿を見せ、時にはメンバーに意見を求めたりすることで、発言しやすい空気が日ごろから育まれると感じています。

——チームリーダーや係長、課長職のような、マネジメントを担う立場になってきた人が心がけるべきなのは、どんなことだと思いますか?

自分なりの「関係性づくりの種」を持てるといいと思います。

形式的に信頼関係構築の場を設けようとすると、「いきなり1on1が始まる」といったことがよく起こります。でも、関係性ができていない相手との1on1は、お互いに苦痛になりかねません。

だからこそ、雑談でも趣味の話でも、何かしら関係性をつくるための種を持っておくことが大切です。

以前、ある企業の役員の方は、部下一人ひとりの得意なことを教えてもらう時間をつくっていました。例えば、プラモデルが好きな社員がいれば、「プラモデルって何が面白いの? 一から教えて」とお願いするそうです。するとその時間は、部下が先生になります。教える・教わるという関係が生まれることで、上下関係だけではない、人と人とのつながりが育っていくんです。

効率だけを考えれば、雑談は無駄に見えるかもしれません。でも、関係性を飛ばしてマネジメントだけをしようとしても、チームはうまく機能しません。まず人としてつながることの積み重ねが、安心して意見を言い合える関係につながっていくのだと思います。

最近はハラスメントに敏感な時代ですし、プライベートなことを聞いてはいけないのではないかと身構えてしまう方もいると思います。そういった点でも、自己開示が大事です。自分が開示できる領域以上のことは、相手に聞かないほうがいい。まず自分から少し開示したうえで、「話したくなければ話さなくて大丈夫」と伝えながら、少しずつ相手のことも聞いてみるくらいがいいのではないでしょうか。

——確かに、上司がそのようにフラットな姿勢で接してくれると、仕事での発言のハードルもぐんと下がりそうです。反対に、チームメンバーの側が心がけられることはありますか?

今の管理職やリーダーは、本当に多くの役割を担っています。

AI活用やダイバーシティ、人的資本経営など、求められることが年々増えている。だからこそ、メンバーにも「自分の仕事だけを見る」のではなく、「チーム全体を見る」という視点を持ってほしいと思っています。

今、このチームではどんなことが起きているのか、誰かが困っていないか、自分が手を貸せることはないか。そんなふうに周りへ目を向けられる人は、自然とチームから信頼されるようになります。心理的安全性は、リーダーだけがつくるものではありません。一人ひとりがお互いを気にかけ、小さな声を拾い合うことで育っていくものです。

また、困ったときは早めに周囲へ相談することも大切です。「迷惑をかけてしまうかもしれない」と一人で抱え込むのではなく、「助けてください」と伝えることも、チームで働くうえで大切な力です。助けを求めることは弱さではなく、チームを機能させるためのコミュニケーションのひとつなのです。

——心理的安全性の高い組織が増えていくと、社会はどのように変わっていくと思いますか?

まず間違いなく、働くことに前向きになれる人が増えるのではないかと考えています。加えて、心理的安全性が高まることで、新しい価値も生まれやすくなるでしょう。現場から新しい意見が出て、それがきちんと受け止められる状態があれば、イノベーションが次々と起こるはずです。

もうひとつ大きいのは、企業不正や重大な事故を防ぐことにもつながるということです。

企業不正が起きるとき、現場のメンバーがスピークアップできていないことがあります。なんとなく「これはまずいのではないか」と気づいていたけれど、言えなかったという状況が、重大なアクシデントにつながる。もし早い段階で違和感を伝えられる状態の組織であれば、大きな問題に発展する前に解決へと進むことができるようになるでしょう。

AI時代だからこそ、人と人がきちんと関わる力が問われる

──AIの進化など、働く環境も大きく変わっています。こうした時代だからこそ、心理的安全性はどのような意味を持っていくと考えますか?

ここ数年だけを見ても、働き方は大きく変わりました。コロナ禍を経てリモートワークが広がり、ここ1、2年ではAIの進化によって、一人ひとりの仕事の進め方も急速に変わっています。今後もAIによって、個人の生産性は確実に上がっていくでしょう。

その一方で、「チームとしてどう成果を出すか」という問いは、これまで以上に重要になると思っています。AIは一人で使うことはできますが、組織としてどう活用するか、どう意思決定につなげるかは、人と人とのコミュニケーションなしには成り立ちません。

だから私はこれから10年先を考えたとき、「人ときちんとコミュニケーションが取れること」そのものが、大きな価値になるのではないかと考えています。

最近は「タイパ」という言葉も広まり、効率が重視される場面が増えています。だからこそ、人と向き合い、信頼関係を築き、安心して意見を交わせる力は、むしろ希少なものになっていくのではないでしょうか。心理的安全性は、そうしたコミュニケーションの土台として、これからますます重要になっていくと思っています。

——ゼンテクとして、これからチャレンジしていきたいことはありますか?

心理的安全性というテーマ自体が、次のフェーズに入ってきていると感じています。

今はもう、多くのビジネスパーソンが「心理的安全性」という言葉自体は聞いたことがあるのではないでしょうか。そうなったときに次に必要なのは、チームとしてどう成果につなげていくのかを考えることです。

スポーツでも、優秀な選手を集めるだけでは勝てないことがあります。一人ひとりの能力だけではなく、「チームとしてどう機能するか」が成果を左右するのです。そもそも「チームになる」とは何なのか、チームの構成要素とは何なのか、といった本質について研究を続け、組織課題を解決するための考え方を発信していきたいと思っています。

——最後に、金さんご自身が考える「自然体」について伺いたいです。金さんにとって、自然体とはどのような状態でしょうか?

あまり深く計算したり、考えすぎたりしなくても、ただ普通に生きているだけで、周りに何か貢献できている状態。それが、私にとっての自然体だと思っています。

出会った人を大事にしながら、自分が自分らしくあるだけで関係性をつくれていく。あるいは、無理をしなくても貢献できている。そういう状態が、自然体であると言えるのではないでしょうか。

私自身、20代のころはイベントをたくさんつくっていました。一方で、アプリケーションをつくって、人に何か体験を届けたいという思いもありました。でも、視点を少し上げてみると、自分は「体験をつくること」が好きなのだと気づいたんです。

アプリをつくることも、イベントをつくることも、相手に届けたい体験を考えて形にするという意味では同じだった。自分が自分らしくできることに気づき、それを周りとの関係性の中で活かしていく。その先に、自分の自然な行動が誰かへの貢献につながっていく状態があるのかもしれません。

・ ・ ・

心理的安全性と聞くと、つい「安心して働ける職場」や「意見を言いやすい空気」を思い浮かべます。

もちろん、それも大切な要素です。けれど今回、金さんのお話を伺って印象的だったのは、心理的安全性は単なるやさしさではなく、チームで成果を出すための土台なのだということでした。

言うべきことを言えること。困ったときに助けを求められること。違和感を隠さず、チームのために声を上げられること。

当たり前に見えることほど、日々の関係性の中で丁寧につくっていく必要がある。そんな小さな行動の積み重ねが、働くことを少し前向きにし、チームを少しずつ良くしていくのだと感じました。

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ソラミドmadoは、自然体な生き方を考えるメディア。「自然体で、生きよう。」をコンセプトに、さまざまな人の考えを発信しています。各種SNSでも情報を発信中。みなさんと一緒に、自然体を考えられたら嬉しいです。

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取材・執筆

笹沼杏佳
ソラミドmado編集部

大学在学中より雑誌制作やメディア運営、ブランドPRなどを手がける企業で勤務したのち、2017年からフリーランスとして活動。ウェブや雑誌、書籍、企業オウンドメディアなどでジャンルを問わず執筆。2020年から株式会社スカイベイビーズ(ソラミドmadoの運営元)に所属。2023年には出産し一児の母に。お酒が好き。

撮影

飯塚 麻美

1996年、神奈川県生まれ。フォトグラファーとして、東京と岩手の二拠点で活動。ソラミドmado編集部所属。ライフワークとして海や港で生きる人たちの写真を撮っている。

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