休みたい――。仕事や育児をしているとき、ふと湧き上がるこの感情。でも、次の瞬間には必ず「休んだらダメだ」「他の人だって怠けずに頑張っている」と、自分にブレーキをかけてしまう。
近年は、「余白」や「自分に正直に」といった言葉をよく耳にするようになった。けれど、がむしゃらに頑張ることが正解だと教えられてきた人たちは、そう簡単に休むことができないのではないだろうか。
そんななか、「怠惰は悪じゃない」と、怠けることを全肯定しているファッションブランド「TAiDA」に出会った。TAiDAで作られているのは、家でも外でも着られて、迷わずおしゃれにキマる服。「頑張りすぎなくてもいい」と思える心地よさを服から届けることで、怠惰な自分を肯定する生き方を提案している。
開発者は、株式会社RE-MiXの友石正太郎さん。今でこそ怠惰を肯定している友石さんだが、昔は「怠惰は悪」と捉えていたらしい。
そんな彼がなぜ、正反対のコンセプトを掲げているのだろうか。「怠惰は悪じゃない」に込められた想いや、現代人が怠惰な気持ちを許せるようになるためのヒントを伺った。

友石正太郎
1989年生まれ。幼少期よりデジタルプロダクトに親しみ、新卒でスマートフォンアプリ制作会社に入社。ディレクター職を経て、グルメ系サービスの運営会社へ転職し、未経験から広告・マーケティング企画として活躍。その後、コスメ系サービスの運営会社での経験を積み、株式会社RE-MiXに入社した。現在はPRマーケティング部に所属し、グループ全体のブランディングや広報戦略、SNS運用を統括。2025年7月には、同社にてアパレルブランド「TAiDA」を立ち上げた。
TAiDA STORE:https://taida.fashionstore.jp/
TAiDA Instagram:https://www.instagram.com/taida.official/
徹夜が当たり前だった日々を経て。「怠惰は悪じゃない」を新常識に
──すごく斬新なコンセプトですね。TAiDAではどんな服を作っているのでしょうか?
朝起きてからそのまま外に遊びに行けるような、部屋着にも外出着にも使える服を展開しています。ラインナップは、TシャツやロンT、フーディなど。素材は基本的に着心地のよいコットンで、すべてオーバーサイズです。締め付けのない設計にすることで、「おしゃれでいなきゃ」という期待や社会からのプレッシャーから解放されてほしいという思いも込めています。
現在は、裏表関係なく履ける靴下や、コーディネートを考えずに済むセットアップなども企画していて。「おしゃれでいたいけど、服選びが面倒」という悩みを解決できる服を目指しています。
──「怠惰は悪じゃない」というコンセプトは、どのように生まれたのでしょうか?
怠惰って、一般的にネガティブに捉えられがちじゃないですか。でも、本当はもっと肯定していい感情なんだということを伝えていきたいんです。
そもそも僕がこの事業を立ち上げたのは、今の会社の代表との出会いがきっかけでした。「うちの会社で、やりたいことに挑戦してみたら?」と背中を押してもらったんです。
もともと起業願望があった僕は、「何をしたら世の中がよりよくなるか」を軸にコンセプトを練り始めました。そのときにヒントになったのが、自分の過去の経験です。これまでの人生で一番悔しかったことと幸せに感じたことが、コンセプトの種になりました。
──悔しかったこととは何だったのですか?
昔勤めていた会社で、どれだけ頑張っても成果を出しても、「もっと頑張れる」「休まずに仕事をやれ」と圧力をかけられていた時期です。僕は平成元年生まれなので、当時は過重労働やパワハラも見過ごされていた時代。成果を出しているにもかかわらず、社内に響き渡るような声で「給料泥棒!」と怒鳴られたこともありました。
なんでこんなに言われなきゃいけないんだろうと思いながらも、家に帰らず徹夜で資料を作る日々でした。あのころは上司の言うことや評価ばかりを気にして、自分の気持ちをないがしろにしていましたね。

──大変でしたね……。当時はそういう会社がたくさんあったでしょうね。
そうだと思います。今もその風潮が残っているところがあるかもしれませんよね。
一方で僕が幸せに感じたのは、別会社で働いていたときの経験です。以前とは打って変わって、「目標さえ達成していれば、自由にしていい」という雰囲気があったんです。
あるとき、3カ月単位の目標を2カ月目で達成したことがありました。僕は当然のように次の目標へ前倒しで取りかかろうとしたのですが、チームのメンバーが止めに入って。「もう達成したんだから、残り1カ月は飲むぞ」って(笑)。実際、次のプロジェクトが始まるまでの2週間、まともに仕事もせず毎日みんなで飲み歩いていました。
──えー! すごいですね!
でも、その息抜きがあったおかげで気づいたんです。結局、めりはりが大事なんだって。傍から見たら仕事もしないで怠けているように見えたかもしれないですが、誰にも迷惑をかけていないし、やることはやり切っていました。実際、その休む期間があったからこそ、次の目標も早々に達成できたんです。
数年経った今でもその経験がすごく楽しかったと思えます。寝る暇も惜しんで働くべきと思い込んでいましたが、むしろ怠惰な時間があるほうがめりはりがつくんですよね。怠惰って悪いものじゃないんだなあ、と初めて実感しました。
──それが「怠惰は悪じゃない」というコンセプト誕生の背景だったのですね。でも、なぜファッションなんでしょう?
このコンセプトを広く受け入れてもらえるにはどの媒体がいいか考えたとき、どんな人にも身近にある衣食住が真っ先に浮かびました。その中で一番しっくり来たのが「衣」だったんです。
「食」だと、「怠惰な食生活をしてもいい」という伝わり方になりかねず、食事制限をしている人や健康意識が高い人には受け入れ難くなってしまう。「住」も、人生に一度といわれる家の購入で怠惰になっていいとは言い切れません。
それに対して「衣」は、老若男女すべての人が着るものだし、季節やターゲットによっていろんなバリエーションがある。
それに、ファッションって自己表現の一つでもあるじゃないですか。TAiDAを着ることが、「怠惰は悪じゃない」という意思表明になると思ったんです。
──「怠惰は悪じゃない」を服で表明する、と。
TAiDAは、「自分の気持ちに正直でいたい人」に向けたファッションブランドです。
部屋着やパジャマでもダラダラできますが、許す気持ちがないと「いつまでダラダラしているんだろう」と罪悪感を抱きかねません。逆に、怠けることを意識していないと、気づいたら仕事をしてしまうこともあるかもしれない。つまりTAiDAは、「怠惰モード」への切り替えスイッチなんです。
物事に一生懸命だったり日々タスクに追われていると、怠惰になるという瞬間が存在しないかのように思われがちです。でも、「今日は動きたくない」「がんばりたくない」という感情は誰にでもありますよね。そんな日々を“ダメな自分”ではなく“素直な自分”として肯定する選択肢を届けたいと考えています。

ONとOFFの「あいだ」にこそ、人間らしさはある
──ところで、友石さんにとって「怠惰」とはどういうことなのでしょうか?
やることはたくさんあるけど本当は別のことがしたい、という状況ってよくありますよね。そのときに、目の前のことを一旦脇に置いて、「休みたい」「好きなことをしたい」という本当の気持ちを表に出すことだと考えています。例えば、明日までに資料作成をしなきゃいけないけど、今日は疲れたから一旦寝よう、みたいな感じです。休息をとる、趣味に没頭する、ただぼーっとするといったことと似ていますね。
ただ、補足しておきたいのは、「やるべきことはやる」という前提があるということです。辞書で怠惰を調べると「すべきことを怠けて、だらしない様子や性質」と書かれていますが、僕の考えるTAiDA(怠惰)は、ずっとすべきことをしないわけではありません。一旦寝たり遊んだりするけれど、ちゃんと後ですべきことはするし人に迷惑をかけるわけではない、ということは強調しておきたいです。

──怠惰になると、どんな良いことがあるのでしょうか?
1つは、しっかり休めているからめりはりがついて仕事のパフォーマンスが上がることです。連続して仕事をするよりも、一旦寝たり好きなことに没頭したほうがリフレッシュできて、効率やパフォーマンスが上がる。きっと多くの人が経験したことがあるんじゃないかなと思います。
2つ目は、自分らしいアイデアや考えが浮かびやすいということです。クリエイティブな仕事って、時間をかければかけるほど良いものが生まれるとは限らないじゃないですか。僕も、散歩中や喫茶店でぼーっとしているときなど、ゆとりがあるときのほうが企画のアイデアが浮かびやすいです。
──余白が大切なんですね。
そうですね。怠惰のような何もしない時間こそ、自分らしさが出ると思っています。
実はそうした考えはロゴにも表れているんです。TAiDAの「i」は小文字になっていますが、それは僕の所属する株式会社RE-MiXから譲り受けたもの。人を表す「i」と、自分を愛(アイ)する「i」をかけています。

iが斜めになっているのは、ON(活動状態)でもOFF(非活動状態)でもない、「あいだ」の状態を表したかったから。ONになることも、OFFになることも自分で選択できる。そして、ONでもないOFFでもない、曖昧で未完成で、でもたしかに存在する「あいだ」の感情こそ、自分らしいという意味を込めています。
怠惰な感情は、人間の持つ数ある感情のたった一つにすぎません。ただ存在する感情を悪いことと捉えず、怠惰でいる自分をそのまま認めてほしいと思っています。
──すごい! 友石さんの想いがうまく表現されていますね。
逆に、365日24時間、怠惰な状態にならずにきっちりと生きられる人なんていないと思うんです。憧れの人でも、どんなに成果を上げている人でも、ダラダラしている日やうまくいかなかったと落ち込む日は必ずある。
そんな瞬間こそ人間らしい、と誰もが許せるようになるといいなと思います。
「まあいっか」を口癖に。怠惰な自分を認め、心の余白を育んでゆく
──昔は「怠惰は悪」と捉えていた友石さんですが、今はどのように日常に怠惰を取り入れているのですか?
つらいとき、しんどいときこそ、遠慮せず思いっきり現実逃避をするように心がけています。例えば、仕事に疲れたらジムに行ったり、一人カラオケに行ったり、飲みに行ったり。早めに寝て、その分翌朝は早起きして仕事を済ませることもよくあります。
大したことは特にしていなくて、ただ怠惰な時間を予定として組み込み、自分のペースを大切にしています。
──思いっきり現実逃避! 素敵です。
ありがとうございます。その結果、前よりずいぶん生きやすくなったんですよね。以前は人からの評価や顔色を気にして行動していたのが、自分の気持ちを大切にするようになったんです。
怠惰でいる自分を肯定できるようになると、何かうまくいかないことがあっても「まあいっか」と済ませられるようにもなりました。そして不思議なことに、自分を許せるようになると他人のことも許せるようになって。知人から「怒らなくなったよね」とよく言われるんです。
──それは大きな変化ですね。それでも、怠惰な気持ちを肯定するのはなかなか難しそうで……。そんな気持ちを持つ人たちでもできることは何だと思いますか?
僕のように「まあいっか」を口癖にしたらいいんじゃないかなと思います。同じ出来事でも、「最悪だ」と思うか「まあいっか」と受け止めるかは自分次第。そうやって、感情を選択する瞬間は日常のいろんなところに転がっているんです。
例えば、コーヒーを白い服にこぼしたときに「最悪!」ではなく「まあいっか」で済ませたり、SNSをダラダラ見たあとに「また時間を無駄にした」と思うんじゃなく「まあいっか」と思うようにしたり。
「まあいっか」を口癖にすることで、同じことが起きてもそのあとの気分がぜんぜん違ってきますよね。まずは小さなことからコツコツと。そのうち自然と怠惰な自分を認められるようになり、ゆとりが生まれてくるはずです。

──「まあいっか」を口癖に。いいですね。
あとは、先のことを考えすぎず、「今」を楽しむことですね。現代の人は仕事だけでなく、生活や人生自体にも効率を求めがちだと思うんです。将来不安にならないように今がむしゃらに働こうとか、無駄のないように予定を詰め込もうとか、よく聞きます。でも、そんなに焦らなくてもいいと思っていて。
実は最近、友人とDJイベントに行ったときにそれを実感したんです。そこでDJが「今生きていて楽しいか! 明日のことは明日考えればいい!」と叫んでいたんですね。それに対して若いお客さんは大盛り上がりで。言っていることはとてもシンプルだけど、若者にとっては今を楽しむことが正義なんだって再確認したんです。
「休まずに頑張り続けることが正義」だと思い込んできた人たちにも、その感覚が広がっていってほしいなと思います。
──「まあいっか」と「今を大切に」という言葉を言い聞かせていたら、自然と怠惰を肯定できる気がしてきました。最後に、TAiDAが掲げる展望を教えてください。
まだどうしても怠けることがネガティブに捉えられる世の中ですが、いつかは怠惰が美徳と認識される未来をつくっていきたいなと思っています。さらに言うと、漫画や「わび・さび」が世界で高く評価されているように、「怠惰」も国を超えて共感される文化や価値観になってほしい。それが僕たちの描く未来です。
自分の人生は、自分のものです。TAiDAはこれからも「怠惰な感情にこそ、自分らしさがある」と伝え続け、本当の気持ちに素直でいることを応援するブランドであり続けたいと思っています。

執筆を終えた私は、怠惰な時間を過ごしてみた。何かを買うついででもなく、保存していた音声配信を聴きながらでもなく、ただぼーっと、夕暮れ時の公園を歩いてみた。
すると、パソコンの画面と向き合っているときには思いつかない言葉が浮かんできたり、本当にやりたいことに気づけたり。悩んでいることに対する自分の本音が見えてきて、気持ちがスッキリとした。
周りから見たら、仕事をサボっている人と思われていたかもしれない。それでも、心の底から自然とふっと息をつけるような、生きている心地がする時間だった。「怠惰は悪じゃない」を超えて、まさに怠惰は美徳だと感じた。
心の余白を生み出し、生きている実感を取り戻させてくれる怠惰な時間。これからも、進んで怠惰を生活に散りばめていこうと思う。
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ソラミドmadoについて
企画・取材・執筆

岡山出身。大学卒業後、SE、ホテルマンを経て、2021年からフリーランスのライターに。ジャンルは、パートナーシップ、生き方、働き方、子育てなど。趣味は、カフェ巡りと散歩。一児の母でもあり、現在働き方を模索中。
編集

大学在学中より雑誌制作やメディア運営、ブランドPRなどを手がける企業で勤務したのち、2017年からフリーランスとして活動。ウェブや雑誌、書籍、企業オウンドメディアなどでジャンルを問わず執筆。2020年から株式会社スカイベイビーズ(ソラミドmadoの運営元)に所属。2023年には出産し一児の母に。お酒が好き。
撮影

フォトグラファー / ディレクター。東京と岩手を拠点にフリーランスで活動。1996年生まれ、神奈川県出身。旅・暮らし・人物撮影を得意分野とする。2022年よりスカイベイビーズに参加。
https://asamiiizuka.com/














