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人間も植物も、まずは相手を知ることから。植物との暮らしから見つける、それぞれの心地よい在り方

普段、都市部の喧騒のなかで生活していると、植物などの自然に触れる機会がなかなかありません。

それでも休日のお出かけや、少しゆったり過ごせる時間のなかで、街路樹の装いから季節の移ろいを感じたり、ふと目にした足元の花に心を奪われたり……。

自然は、私たちに安らぎや癒しを与えてくれます。

できることなら、日ごろから自然を身近に感じられる生活がしたい。でも、頻繁に緑豊かな場所へ出かけたり、移住をしたりするのは、ちょっとハードルが高いですよね。

そんななかで、ささやかな緑からでも癒やしをもらえるようにと、部屋に観葉植物を置いて、「植物との暮らし」を始める人もいるのではないでしょうか。

……とはいえ、「賃貸マンション暮らしでスペースがない」「日当たりが心配」、はたまた「これまで何度も枯らしてしまってきた」という悩みを耳にすることも。

筆者も、関東で賃貸マンション暮らし。そしてこれまで何度も植物を枯らしてきました。自分に、植物との暮らしは向いていないのだろうか。でも、身近に緑があると癒やされるし、インテリアとしても素敵だし、あきらめたくない……と、悶々としてきた経験があります。

そこで今回は、植物との暮らし方提案やメンテナンス、イベントの企画などを通して園芸普及活動に取り組む『エンジョイボタニカルライフ推進室』の室長・氏井暁(うじい・さとる)さん、通称ビリさんにお話を伺うことに。

植物と暮らすことの魅力や、都市部でも植物との生活を楽しむコツ、枯らさないための心構えなどを教えてもらいました。

特に心構えの話題では、植物との向き合い方に限らず、人間関係、さらには生き方にまで通ずるようなありがたいお話にも発展。

植物との暮らしのキホンを知れるだけでなく、生き方や他者との関係を考えるきっかけにもなりました。

心の機微を生む植物との暮らし

──植物と暮らすことのよさって、何だと思いますか?

やっぱり、癒やしをもらえるってことかなぁ。都市で暮らしているとなかなか森林浴ってできないけれど、自然に触れることってやっぱり重要みたいなんだよね。気分的なものだけじゃなくて、植物や土から発散される物質(フィトンチッド/セロトニン)には、自律神経を整えたり、リラックスさせてくれたりする効果もあるみたいだよ。

だから、身近で植物を眺めたり、お手入れをしたりすることで、都市生活の中でも緑から癒やしを得られるっていうのが、魅力のひとつかな。

──やっぱり、ふとしたときに緑を目にすると、なんだか安心できる気がします。

植物は、目も心も楽しませてくれるよね。目で見て癒やされるのはもちろんだし、植物と向き合うなかで生じる“心の機微”が、毎日の暮らしを豊かにしてくれる。これも、大きな魅力だね。

──心の機微、ですか?

この植物を見てみて。

フウチソウっていう名前の植物で、“風を知る草”と書くんだよ。そよそよと風になびくしなやかな姿が、その名の通り風を感じさせてくれる。草を眺めて風を感じるなんて、素敵でしょ?

暑い夏に風を受ける姿から”涼”を感じたり、秋の深まりとともに葉の色が少しずつ変化していく姿から冬の足音を感じたり。冬には地表は枯れちゃうんだけど、コツコツお世話を続けると、春にはまた新芽が生えてきてね。何年も育ててるけど、毎年感動しちゃう。

──街の木々から季節の変化を感じられるように、自分の家でも植物と季節を楽しめるんですね。

ときには、「フウチソウみたいに、風の吹くまま、しなやかに生きられたらいいなぁ」なんて感傷に浸っちゃったりもして。

こうやって季節の移ろいを感じたり、植物が生きる姿を通して心を動かされたり。そんな心の機微──つまりささやかな心の変化のある暮らしって、すごく穏やかでいいと思わない?

──普段、慌ただしく生活していると忘れてしまいそうな、でもすごく大切そうな感覚ですね。

お金を払って、自然豊かな場所で過ごす時間を買うこともできるけれど、もっと日常のさりげない瞬間でも自然を感じられたら素敵だよね。

長い時間をかけて岩に苔がむすように、日々の小さなできごとや心の動きを大切にすることで、暮らしって豊かにできるんじゃあないかなあ。

枯らさないコツは、相手に関心を持つこと

──心の機微を生む植物との暮らし、とっても魅力的です。とはいえ、スペースや日当たりの問題もあって、都市で植物と暮らすのって難しそうだなぁと感じてしまいます。

マンション暮らしでスペースがないからとか、日当たりが微妙で……なんて相談をよく受けるんだけど、ぼくもマンションに住んでいるし、同じような条件下で植物と暮らしてるから、大丈夫。

──そうなんですか?

植物といえば「太陽の光が大好き!」というイメージを持たれがちだけど、植物もいろいろでね。むしろ直射日光を避けてあげた方がいい植物も少なくないんだよ。じつは直射日光が苦手な植物や、日陰が好きな植物だっている。

人間だって、真夏の太陽が大好きって人もいれば、日射しにストレスを感じる人もいるでしょ? 環境に合った植物を探したり、ある程度お世話でカバーできたりするから安心して。

──そっかぁ。植物も個性豊かなんですね。

スペースの問題も、やり方次第できっとうまくいくよ。さっき見てもらったフウチソウくらいのサイズで楽しめる植物もいっぱいあるし、もっと小さいサイズで育てることだって、ぜんぜん不可能じゃない。

手のひらサイズなら持ち運びも楽ちんだから、日中出かけている間は植物にとってなるべく過ごしやすいところ……たとえば明るく風通しの良いところなんかに置いてあげて、眺めて癒されたいときには近くに来てもらうことだってできる。

ぼくも、飾り棚に手のひらサイズの植物を日替わりでレイアウトして、デスクワークの合間に癒やしてもらったり、鑑賞しながら晩酌を楽しんだりしてるよ。

──植物との晩酌タイム、いいですね。見せてもらった植物たちは、みんな器も素敵ですね!

洋服をコーディネートするように、植物と器の組み合わせにこだわってみるのも楽しいよ。

ぼくは、食器を活用することも多くてね。欠けちゃったお気に入りの器や、お店で見つけた好みの器に底穴をあけて、鉢にしちゃうんだ。

かみさんからプレゼントしてもらった「そば猪口」や、旅先で一目惚れした「ぐい呑み」で仕立てた一鉢なんかは、器に思い入れがある分ついついお世話にも熱が入っちゃうよね。

──いいなぁ。毎日ニヤニヤしながら眺めちゃいそうです。

やっぱりさ、枯らしちゃうときって、関心の度合いが下がってることが一番多いんじゃないかな。枯れた理由は水切れ(水分不足)かもしれないけど、その要因は関心がなくなって放置してたから……みたいなさ。

だからビニルポットのまま置くんじゃなくて、自分のテンションが上がるような器に植え替えたりするのは、枯らさないためにもすごく有効だと思う。

──心当たりある……。買ってきたままベランダに置いて、放置して枯らしてしまったことがあります。今思えば、買ったときほどの関心はなくなってたのかも。

じっくり選んだお気に入りの器に、自分の手で植物を植え替えてあげれば、もうそれだけで愛着が湧くよね。すると、毎日すすんで目を向けるようになるし、お世話に対する義務感もなくなるんだ。

「植物と暮らしてみよう」と興味を持つのは、すごく素敵なこと。そこまできたらもう少しだけ踏み込んで、植物の種類や、器にもこだわって探してみると、一緒に暮らすパートナーとして愛着もぐんぐん増していくよ。

惹かれるきっかけは、見た目でも、名前でも、生まれ育った環境でも、なんでも大丈夫。惜しみなく愛情を注ぎたくなるような相手を探してみてね。

まずは相手の名前と、育った環境を知る

──植物との暮らしには愛着が大切というビリさんのスタンス、ハッとさせられることばかりです。ほかにも、「ここだけは気をつけて!」というポイントがあれば教えてください。

うーん、「植物が生きものであること」を、忘れないことかな。

植物は人間と見た目が違うから、つい小難しく捉えちゃうこともあるかもしれない。でも、植物も生きものなんだから、人間同士がうまくやっていくために必要なことと、ほとんど同じだと思うんだよね。

──人間と同じように……?

まずは相手の名前を覚えることだったり、毎日の挨拶からはじまるコミュニケーションだったり。生まれ育った環境や、好みがわかれば、さらに距離が縮まったりもする。

たとえば、涼しいところで育った人は暑さが苦手かも、反対に南国生まれの人は寒さに弱いかも……って、なんとなく想像できれば、気遣うこともできるでしょ? 

相手のことを知れば知るほど、コミュニケーションのとり方が見えていくよね。植物も同じ。まずは名前を覚えて、その名前をネットで検索すれば、どんな環境で育ってきたかがわかる。これから一緒に暮らす環境と、植物が生まれ育った環境のギャップを知れば、どんな歩み寄りが必要なのか──つまり“育て方”も見えてくるよ。

──確かに、人間も仲良くなりたいと思ったらお互いのことを知ろうとしますもんね。以前は相手のことを知ろうともせずに「毎日水をあげなきゃ」という義務感だけでお世話をして、面倒になって枯らしてしまっていました。

「毎日お水をあげなきゃ」っていう意気込みは大事にしてほしいけど、一方的な思い込みでお世話をしないっていうのも、もうひとつの大きなポイントだね。

毎日の水やりが植物にとってうれしいことなのか、一度考えたり、調べてみたりするといいよ。植物の特性や季節、育てる環境によって、水を飲む量が変わってくるから、場合によっては、毎日だとあげ過ぎってこともあるかもしれない。

一方的な思い込みでお世話を続けても長続きしないし、相手も困ってしまう。人間同士だって、「せっかくやってあげたのに!」「頼んでないし!」なんてケンカをしてしまったら、もったいないでしょ?

植物にも、それぞれ個性があるからね。相手の立場になって考えるって、大事だよね。

植物は、生きることを簡単にあきらめたりしない

──お話を聞けば聞くほど、お互いが心地よく暮らしていくための考え方って、植物も人間も共通することが多いんだなぁと気付かされます。

でしょ? 植物との暮らしって、人との関わり方を模索するのにも、自分を見つめ直すきっかけにもなるなぁって思うんだよね。

うまくいかなかったときには、自分の行動を振り返ってみて、どこかに改善の余地がないか精査してみる。すると、よかれと思ってやっていたことが逆効果だったとか、自分の歩み寄りが足りていなかったとか、要因がわかってくる。

人が自分を見つめ直すには、他者の存在が必要なんだよね。それは同じ人間が相手でもいいし、ワンちゃんや猫ちゃんでもいい。そしてもちろん、植物でもいい。

そうやって失敗と修正を繰り返しながらも、自分のスタンスをうまく調整していくことは、他者との良い関係を築くためにもすごく大切なことだと思うな。

──良い関係を築けるように、自分を見つめ直していく、か……。私もちゃんと、植物が心地よく過ごせるような付き合い方ができるかなぁ。

大丈夫だよ。植物は、生きることを簡単にあきらめたりしないから。植物のほうだって、頑張ってくれるはず。

「あれ、ちょっと様子が変だな」って段階で見直して修正できれば、多少のリカバリーがきくし、トライアンドエラーを繰り返していけばいいと思うんだよね。

自分の価値観を一方的に押しつけたり、先入観にとらわれたりしないで、”もし相手が自分だったらどう感じるか”ってスタンスさえ持てれば、そう大きく外れることはないよ。

ただ、言葉が通じないぶん、よーく観察してあげてね。知識や技術的なことはネットで調べて入手できることもあるし、先駆者たちがきっと手をさしのべてくれるはずだから。もちろん、ぼくへの相談も大歓迎!


“心の機微”を生む、植物との暮らし。

都市で生活していても、工夫次第で植物から癒やしをもらうことができます。

そして、植物との共同生活は、自分を見つめ直すきっかけにもなるという、ビリさんの言葉。人と関わったり、ともに生活したりするのと同じように、価値観をすり合わせ、なるべくお互いが心地よくいられる状態を目指す。

植物と過ごす時間には、人が他者と心地よく共存するためのヒントがたくさん散りばめられているのですね。

あなたも、植物との暮らしを通じて心の機微を感じとり、自分を見つめ直し、心地よい生き方を模索してみませんか。

<撮影協力>
hairmake – CALM


ビリさん流・植物との付き合い方をもっと知りたいと思った方は、ビリさんの著書もチェックしてみてはいかがでしょうか。

心の機微が生じる植物との暮らしの魅力や、実用的な知識・テクニックが盛りだくさんです!

【写真左】 『カジュアルに楽しむ手のひら盆栽(ブティック社)

【写真右】『植物との暮らし方超入門 これで私も枯らさない人(山と渓谷社)

ビリ(氏井暁│うじい・さとる)

植物との暮らし方提案、メンテナンス、イベントの企画などを通して園芸普及活動に取り組む「エンジョイボタニカルライフ推進室」室長。植物と鉢のコーディネートにこだわり抜くモダンな作品や、初心者でも楽しめるワークショップなどが人気を集める。ニックネーム「ビリ」の由来は、大阪・通天閣でもおなじみの“ビリケンさん”に笑顔が似ているから。著書に『カジュアルに楽しむ手のひら盆栽(ブティック社)』『植物との暮らし方超入門 これで私も枯らさない人(山と渓谷社)

Instagram:@billi_enjoybotanicallife


ソラミドについて

ソラミドmado

ソラミドmadoは、自然体な生き方を考えるメディア。「自然体で、生きよう。」をコンセプトに、さまざまな人の暮らし・考え方を発信しています。Twitterでも最新情報をお届け。みなさんと一緒に、自然体を考えられたら嬉しいです。https://twitter.com/soramido_media

取材・執筆

笹沼杏佳
ライター

大学在学中より雑誌制作やメディア運営、ブランドPRなどを手がける企業で勤務したのち、2017年からフリーランスとして活動。ウェブや雑誌、書籍、企業オウンドメディアなどでジャンルを問わず執筆。2020年からは株式会社スカイベイビーズにも所属。
https://www.sasanuma-kyoka.com/

撮影

飯塚麻美
フォトグラファー / ディレクター

東京と岩手を拠点にフリーランスで活動。1996年生まれ、神奈川県出身。旅・暮らし・人物撮影を得意分野とする。2022年よりスカイベイビーズに参加。ソラミドmado編集部では企画編集メンバー。
https://asamiiizuka.com/

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