子育ての悩みや負担をひとりで抱え込んでいて、つらい。
育児が苦しいものでなく、もう少し楽しいものになればいいのに――。
そんな思いを抱える人の肩の力をゆるめ、明日への小さな希望に変えていく連載『ひとりじゃない子育て』。
この連載では、「孤育て」の解消に向けて試行錯誤している人たちの言葉を、皆さまにお届けしていきます。
***
第2回に登場するのは、XTalent(クロスタレント)株式会社代表の上原達也さん。

「子どもの体調不良で会社を休むたびに申し訳なくなる」
「早く帰宅して子どもと過ごしたいのに、長時間労働でそれが叶わない」
「本当はもっとやりがいのある仕事をしたい」
子育てと仕事のはざまで、葛藤や孤独を抱える人は少なくありません。そんな子育て世代に希望を届けてくれるのが、XTalentが運営する転職サービス『withwork』です。「キャリアとライフをトレードオフにしない」というコンセプトのもと、子育てや介護など、家庭の事情を抱えながらもやりがいを持って働ける企業を厳選して紹介しています。
今回は代表の上原達也さんに、withwork誕生の背景、「キャリアとライフをトレードオフにしない」というコンセプトに込めた想い、そして私たち一人ひとりにできることを聞きました。
上原達也
XTalent株式会社・代表取締役
大学卒業後、株式会社Speeeに入社し、Webマーケティング・人事などを経て社長室に所属。新規事業や海外法人の設立に従事する。その後、JapanTaxi株式会社(現:GO株式会社)に入社し、事業開発を担当。2019年7月に「フェアな労働市場をつくる」をミッションにXTalent株式会社を設立し、代表取締役に就任。“キャリアとライフをトレードオフにしない”という想いからwithworkを立ち上げる。共働きで、2児の育児中(料理担当)。
XTalent(クロスタレント)株式会社:https://xtalent.co.jp/
withwork:https://withwork.com/
子どもたちに同じ景色を見せたくない

──withworkを立ち上げた背景には、上原さん自身が仕事と家庭の両立に悩まれた経験があるそうですね。
そうですね。2014年に長女を授かったとき、僕はベンチャー企業に勤めていました。当時は、男性が育休を取るなんてごくまれだった時代。子育てをしながら働くというイメージがまったくできていなかったんです。
経済的な理由から、妻が1年間育休を取ることになったのですが、大変だったのは復職後でした。妻の会社では子育てをしながら働く人の前例がほとんどなく、時短勤務への理解も十分ではなかったので、フルタイムで復職せざるを得なかったんです。
その結果、定時で終わっても保育園へのお迎えは20時ギリギリ。帰宅後も、食事やお風呂、寝かしつけまで、妻がワンオペでしてくれていました。一方僕は、毎日夜中の帰宅。疲れ果てて寝た妻と散らかった部屋を見て罪悪感を抱きながら、残された洗い物を済ませる。そんな日々が続いていました。
──もどかしい気持ちもあったのではないでしょうか?
自分のキャリアに対する後ろめたさと妻に対する罪悪感、その両方を持っていました。
子どもとの時間をもっと大事にしたいけれど、一人だけ早く帰宅したら会社に申し訳ない気がして。それまでキャリアに打ち込んできた自分に対しても、何か悪いことをしているんじゃないかという気持ちがありました。
とはいえ働き方を変えないと、平日の育児はすべて妻に任せきりになってしまう。仕事も家庭も諦めたくないのに、両立できない。そんな葛藤を抱えながら、苦しい日々を過ごしていました。
──それは大変でしたね。
そして、こうも思いました。自分の子どもが社会に出たときに、何も変わっていなかったらゾッとするな、と。このままでは将来、子どもも同じように、家庭か仕事のどちらかを諦めざるを得なくなってしまうと危機感を抱いたんです。
「仕事と家庭の両立」は、個人の努力だけでは限界があり、職場や社会のあり方も大きく関わってくる。そんなことを自分自身の経験を通じて実感し、いつかこの課題を解決したいと思うようになりました。

──その社会課題を解決したいという想いから、withworkを立ち上げたのですね。なぜ、「転職エージェント」だったのでしょうか?
大きく2つ理由があります。1つ目は、自分の転職の経験から、環境次第で仕事と家庭の両立にまつわる悩みを軽減できると学んだからです。
第1子誕生の3年後、新しいことに挑戦したいという思いで、JapanTaxi株式会社(現GO株式会社)に転職したのですが、たまたま上司がワーキングマザーだったんですよね。その方との出会いで、子育てをしながらでも仕事で成果は出せるんだと希望をもらえたんです。
その上司は小さな子どもがいて、週の半分は16時に仕事を終えるという働き方をしていました。そんな状況でも、企業の役員として100億円規模の資金調達まで果たすような方で。こんな人いるんだ、と自分のなかの「当たり前」が変わりましたね。
何より助かったのは、家庭の事情をわかってもらえたことです。お互い子育てをしているというだけで共通言語ができ、家庭の事情を理解してもらえたり、柔軟な働き方をさせてもらえたりしました。当時、第2子の誕生直後で、ハードなプロジェクトを任されるという大変な時期でしたが、仕事も子育ても諦めずに全うできたのは、その方の理解があったからです。
──周囲の子育てへの理解が深まるだけで、そんなにも働きやすくなったのですね。
そうですね。そして2つ目は、転職市場が社会に与えるインパクトに可能性を感じたからです。
きっかけは2017年、ある急成長中の企業のCEOが育休を取得したことでした。衝撃を受けて調べてみると、その企業は子育てや介護、不妊治療といった従業員の多様なライフイベントに寄り添う制度を整えていたんです。それを知り、従業員のウェルビーイングを大切にするからこそ、優秀な人材が集まり、企業も成長するのだと腑に落ちました。
こうした成功企業が増えれば、他社も追随し、従業員のウェルビーイングの向上は経営戦略として当たり前になります。転職市場を通じて企業の価値観を変えていけば、仕事と家庭の両立という社会課題の解決に近づけると確信し、起業を決意しました。
理想のキャリアとライフの解像度を上げ、自分に合ったバランスを見つける

──上原さんの実体験を伺うと、あらためて「キャリアとライフをトレードオフにしない」というコンセプトが心に響きます。
ありがとうございます。キャリアとライフを0か1かで選ぶのではなく、その時々の自分にとって「ちょうどいいバランス」を探り続けよう、というメッセージなんです。
出産や育児、介護などのさまざまなライフイベントに直面すると、それまで100%、120%と仕事に注いできたエネルギーを同じように維持するのはむずかしくなります。すると、「以前と同じようにできないなら、もう辞めるしかない」と仕方なく退職を選んだり、逆に無理をしてでも今まで通りを貫こうとしたりと、両極端な選択をしてしまいがちです。
でも、仕事に力を注ぎたい気持ちがあるなら、キャリアを諦める必要はないと思うんですよね。大切なのは、そのときの自分に合ったバランスで成果を出す方法を見つけること。仕事のやり方を変えたり、環境を変えたりすることで、たとえば50〜60%のエネルギーでそれまでと同等、あるいはそれ以上の成果を出せることだってあります。
転職は、自分に合ったバランスを見つけるための手段の一つです。求職者一人ひとりに合ったバランスを一緒に探りながら、キャリアもライフも、どちらも叶えるサポートをしていきたいと思っています。
──自分に合ったバランスは、どのように見つけられるのでしょうか?
キャリアとライフのそれぞれにおいて「自分は何を実現したいのか」を細かく言語化することが大切です。withworkの面談でも、そこを一緒に掘り下げることを大事にしています。
仕事と家庭の両立と聞くと、フルリモートやフレックスといった世の中でよくいわれる「働きやすい条件」を満たすことがゴールになりがちなんですよね。でも、条件だけを重視して自分のやりたいことをないがしろにしていたら、結果的にキャリアを犠牲にしていると言えてしまいます。
だからこそ、「これを満たしていたらライフを大切にできている」という基準を、自分なりに細かく言語化してほしいんです。フレックスやフルリモートという言葉でくくるのではなく、たとえば「平日のうち2日は早く帰宅して家族と過ごしたい」とか、「保育園の送り迎えさえできれば、多少の残業は構わない」といった具合です。
そこまで掘り下げたうえで、「もしこの条件がすべて満たされるとしたら、どんな仕事をしたい?」と問いかけてみてほしいんです。すると多くの人が、ここではじめて自分のやりたいことに意識を向けられるようになる。ライフの部分で満たすべき基準が定まり、自分のキャリアを諦めない道が広がっていくんです。

──でも、家庭の事情にも理解があって、自分のやりたいこともできる企業って、本当にあるのでしょうか?
求職者のみなさんも同じことをおっしゃるんですが、けっこうあるんですよ。グラデーションはありますが、家庭と仕事を両立しやすい制度や文化を整えている企業が多いですし、提携企業には必ず、子育てしながら働いている従業員がどれくらいいるかを聞いています。
特に意識して聞いているのが、役職の高い人が子育てをしながら実際に働いているかどうか。「この役員はお子さんが小さいから、18時以降はカレンダーをブロックしている」なんて話が出てくることもあります。
そういうエピソードって、数字や制度の説明よりずっと響くんですよね。上司がそんな働き方をしているなら、困ったときに相談できるし、キャリアも描きやすい。そこまで踏み込んだ情報を求職者に提供しているのは、他にないと自負しています。
──小さい子どもがいるとなかなか採用されないんじゃないかと思っていましたが、理解ある企業があると知っただけで希望になります。
しかも、withworkで転職した人の8割が「理想のキャリアを見つけられた」と答えてくれていて。転職前より働く時間が短くなったにもかかわらず、年収を維持・アップできた人のほうが多いですし、なかには「昇進意欲なんてなかったのに、転職先では昇進したいと思うようになった」という人もいるんです。
ということは、環境や企業次第で、ライフを諦めなくてもその人らしいキャリアを築けるということ。そんな企業が世の中にはちゃんとあります。そのことを一人でも多くの人に知ってほしいし、希望を捨てずにいてほしいですね。
「子どもがいるから」と諦めなくていい社会を目指して

──今の日本社会では、キャリアとライフがトレードオフにならないような企業が増えてきているのでしょうか?
創業して7年経ちますが、だいぶ良い方向に変わってきたと感じています。
変化の一つは、子育てしながら働く経営者が増えてきたこと。それに伴い、従業員が家庭も大事にしながら挑戦できる文化をつくろうという風潮も出てきています。採用サイトに子育てをしながら働く社員の比率を載せる企業が増えてきたのも大きな変化ですね。そうアピールしたほうが良い人材が集まると、企業側も理解し始めているのだと思います。
ただ、そうした動きはまだ東京の企業やITスタートアップなど、比較的価値観が新しいところに偏っているのが現実です。地方や伝統的な産業では、子育てしながら働くことへの理解がまだ十分でなかったり、「男は仕事・女は家庭」という意識が根強く残っていたりと、課題はまだ多いです。
──「男は仕事・女は家庭」という固定観念は、「キャリアとライフをトレードオフにしない」の実現を阻む大きな壁ですよね。求職者の悩みで多いのはどんなことでしょうか?
多くの男性が、「男らしさの呪い」に苦しめられていると感じます。
ジェンダーの観点でいうと、日本ではこれまで女性の生きづらさがフォーカスされてきました。妊娠・出産でキャリアが途絶えたり、「女は家庭を守るべき」という固定観念からパートナーより多くの家事・育児を担ってきたり。その結果、働くママへの配慮は少しずつ広がってきています。
一方で、共働き家庭が増えているにもかかわらず、男性に対しては「働き方はそのままでいい」という見方がされやすい。育休を取る人は増えてきてはいますが、復職後は長時間労働に戻る人がほとんどです。「子どもが生まれたからこそ稼がなければ」という意識が、企業にも本人にも根強く残っていたりもします。
そんななかで我が子を目の前にすると、多くの男性が立ち止まるんですよね。妻に家事や育児を任せきりにしていいのか、もっと子どもとの時間をつくるべきじゃないか、と。でも、経営層に子育て経験のある人が少ないから、そういった思いはなかなか理解されづらい。そのはざまで苦しんでいる人がたくさんいます。
ジェンダーによる固定観念に苦しめられているのは、女性も男性も同じです。一方がキャリアを諦めている裏では、もう一方はライフを諦めているかもしれない。どちらがつらいという話ではなく、表裏一体の問題なんです。
──たしかに、女性と男性で切り分けて考えがちな気もしますね。
withworkも創業当初は「ワーママのための転職支援」と謳っていました。それを「ワーキングペアレンツ」に変えた理由の一つは、「ママ」「パパ」という言葉が持つステレオタイプを払拭したかったからなんです。
たとえば「ママ」と聞くと「子どもがいるから、あまり仕事を任せられないな」と、ネガティブなイメージを持つ人が多い。一方で「パパ」と聞くと「子どもができたからより頑張って働く」というイメージになりがちで、働き方を見直すという発想が生まれにくい。
こうした「ママ」「パパ」という言葉の裏にある固定観念が、自分自身の選択肢を狭めているのかもしれません。

──私の夫も子どもが生まれてからのほうが以前より働いています。「稼がなければ」というプレッシャーも感じさせているなと思いますね。
そういう家庭は多いと思います。だからこそ、夫婦間の対話は重要で。
キャリアとライフがトレードオフになってしまう背景には、「男は仕事・女は家庭」という固定観念のもと、夫婦の役割が固定化されているケースが少なくありません。「本当はもっと子どもと触れ合いたい」「家事・育児の分担を見直して仕事に力を注ぎたい」と思っていても、それをパートナーに伝えられないまま、気づかないうちにライフやキャリアを手放してしまっている人が多いのです。
だからまずは、夫婦それぞれが「こんなキャリアを歩みたい」「このくらい子どもとの時間をつくりたい」という理想を率直に話し合うことが大切です。その理想を共有したうえで、お互いの働き方や家事・育児の分担を一緒に考えていく。そうすることで、夫婦それぞれが「キャリアとライフをトレードオフにしない」働き方に近づいていけると思います。
──キャリアとライフをトレードオフにしないために、個人としても工夫できることはあるんですね。最後に、XTalentのビジョン「フェアな労働市場をつくる」に込めた想いを教えてください。
「フェアな労働市場」というのは、従業員のウェルビーイングと企業の成長を、どちらも諦めない状態のことです。
これまではどちらかというと企業が優位に立ち、たとえ従業員が疲弊していたとしても企業さえ成長していれば良しとされてきました。でも、労働人口が減っていくこれからの時代に、その構造はもう通用しません。かといって、従業員のウェルビーイングだけを重視しても、企業が成長しなければ経済は停滞してしまう。
だからこそ、「個人のウェルビーイングを実現した先に、企業の成長もある」という状態を目指すことが、今の日本社会には求められていると思うんです。コンセプトである「キャリアとライフをトレードオフにしない」が実現した先に、そんな社会があることを願っています。
──そんな社会が実現したら、人々はどのようになっていると思いますか?
キャリアや人生の選択肢が、ライフイベントによって狭まることがなくなっていると思います。子どもがいることを理由に選択肢を狭める必要もなくなるし、採用する側もワーキングペアレンツを特別な配慮が必要な人として見なくなる。今は子育てしながら働くことが美談として語られがちですが、そういった感覚も、良い意味でなくなっていってほしいですね。
どんなライフイベントに直面しても、キャリアもライフも両方叶えることがごく自然にできる。そんな社会になることを願っています。

「子どもが小さいうちは、再就職なんてむずかしいだろう」
取材前、私はそう思っていました。でも上原さんのお話を聞いて、世の中は確実に変わりつつあるのだと希望をもらえました。
SNSや周囲の声を鵜呑みにせず、自分の目で社会を見に行く。最初から諦めず、自分の足で情報を掴みに行く。そうやって自分から動いてこそ、理想とする働き方や生き方が見えてくるのだと気づきました。
キャリアとライフ、どちらかを諦めなくていい。その言葉を信じて、まずは自分自身が行動に移していけば、いつか社会全体も良い方向に変わっていくのかもしれない。そんな希望をもらえた取材でした。
読者アンケート実施中
感想や印象に残った言葉、取材してほしい人やテーマなど、ぜひみなさんの声をお聞かせください。
ソラミドmadoについて
企画・取材・執筆

岡山出身。大学卒業後、SE、ホテルマンを経て、2021年からフリーランスのライターに。ジャンルは、パートナーシップ、生き方、働き方、子育てなど。趣味は、カフェ巡りと散歩。一児の母でもあり、現在働き方を模索中。
編集

ああでもない、こうでもないと悩みがちなライター。ライフコーチとしても活動中。猫背を直したい。
Twitter: https://twitter.com/junpeissu
撮影

1996年、神奈川県生まれ。フォトグラファーとして、東京と岩手の二拠点で活動。ソラミドmado編集部所属。ライフワークとして海や港で生きる人たちの写真を撮っている。















