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幸福学の第一人者・前野隆司先生に聞いた。自信を持てず “気にしすぎる”人たちが、自分らしく前向きに生きるためのコツ

良い人だと思われたい、嫌われたくない。このような思想に、ある種の強迫観念のようにとらわれて、考えすぎる、気を遣いすぎる、本音を出せない……といった悩みを抱える人がいます。私(ライター笹沼)もそんな“自意識過剰ネガティブ人間”です。

このような漠然とした生きづらさを抱えていたなかで、『幸せのメカニズム』という本に出会いました。

この本は、幸福学研究の第一人者として活躍される前野隆司先生の著書。人が幸せを感じる心的要因として、たくさんの研究データから解き明かされた「幸せの4つの因子」について書かれています。

<幸せの4つの因子>

  1. 自己実現と成長(やってみよう因子)…主体的に行動して強みを育み、自信を持つ幸せ
  2. つながりと感謝(ありがとう因子)…他者とのつながり、愛情、感謝、親切から得られる幸せ
  3. 前向きと楽観(なんとかなる因子)…チャレンジ精神を持ちポジティブに行動できる幸せ
  4. 独立と自分らしさ(ありのままに因子)…マイペースに、自分らしく在ることの幸せ

著書では、この4つの因子が導き出されるまでの分析の過程や理論、幸せを感じるための行動や考え方のコツなどが記されています。

誰もが共感できる身近なできごとや悩みが例に挙げられ、自分ごとに当てはめて考えられる。救われる気持ちで、ぐんぐん読み進めてしまいました。

そして本には、前野先生ご自身も人の目を気にして窮屈な思いをされていたこと、大学進学を機にご自身を変えることに成功された経験なども書かれていたんです。とても勇気をもらい、自分も変われるのかも、と思うことができました。

けれど、すぐに変われる自信はない……。

そこで、“気にし過ぎてしまう人”が4つの因子を満たし、幸せに生きるためのヒントがもう少しほしいと考え、今回は前野先生にインタビューをさせていただきました。

なかなか自信を持てず、周囲の目を恐れてしまう人が、もっと自分らしく、前向きに生きるために。心持ちや行動のヒントについて、教わりたいと思います。

前野隆司 先生

慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科委員長・教授
東京工業大学卒、同大学院修士課程修了。キヤノン株式会社勤務、カリフォルニア大学バークレー校客員研究員、ハーバード大学客員教授、慶應義塾大学理工学部教授などを経て現職。博士(工学)。ヒューマンインタフェースのデザインから、ロボットのデザイン、教育のデザイン、地域社会のデザイン、ビジネスのデザイン、価値のデザイン、幸福な人生のデザイン、平和な世界のデザインまで、さまざまなシステムデザイン・マネジメント研究を行っている。

ありのままで生きるために

笹沼

ソラミドでは「自然体」で生きるためのヒントを集め、発信しています。

今回は、自分らしく生き生きと、幸福な人生を歩むために、「幸せの4つの因子」を満たすにはどうすればよいか、前野先生にヒントをいただきたくお時間を頂戴しました。

前野先生

幸せの4つの因子というのは、幸せな人が兼ね備えている心の状態を分析した結果、導き出されたものです。4つとも高い人がいちばん幸福で、どれかが低いとちょっと幸福度が低くて、4つとも低ければ不幸せ……と考えられます。 

4つの因子のなかでいうと、「ありのままに因子」は、ソラミドで探求されているという「自然体」と、なんだか近そうですね。ただし、「ありのままに因子」だけが突出して満たされると、わがままになって、人に迷惑をかけてしまう恐れがあります。人に迷惑をかければ他者との関係に亀裂が生じますし、そんな状態を幸せとは言えません。ですから、どれかひとつだけでなく、4つの因子をバランスよく満たすことが大切なのです。

笹沼

私たちも自然体な在り方を考えるなかで、「自分らしさ」と「わがまま」を混同しないよう気をつけねば……と話題に挙がることがあります。

前野先生

他者とのつながりから得られる幸せ、つまり「ありがとう因子」も、幸福な人生を歩むための大切な要素になりますから。人と仲良くして、信頼し、尊敬しあうことができてこそ、自然体が成り立つとも言えるのではないでしょうか。

そして、他者とのつながりから幸せを得るには、自分の強みを活かして認められる体験なども必要になってくる。これは「やってみよう因子」ですね。さらに、自分の強みを伸ばすには、チャレンジ精神を持ってポジティブに行動すること、つまり「なんとかなる因子」も大切。こうやって、4つの因子はお互いに影響しながら満たされていくものなのです。

笹沼

たしかに、「ありがとう因子」や「やってみよう因子」は、「仕事や得意なことで認められたり、誰かに喜んでもらえたら幸せを感じるなぁ」と、具体的な行動や幸福の実感がイメージできます。

一方で、「なんとかなる因子」「ありのままに因子」は、満たすことが難しいかも……と思ってしまいました。ついつい人の目を気にしすぎてしまったり、物事をネガティブに捉えて一歩を踏み出せなくなってしまったりすることがあって……。

前野先生

私も昔は、人の目を気にしすぎてしまっていた時期があったんですよ。人前で話すのが本当に恥ずかしくて。あまりにも引っ込み思案で目立たなかったもので、大人になってから、中学時代の同級生に会うと「前野って、あのころ何してたっけ?」なんて言われます。

笹沼

でも、今では数々の著書を出されたり、こうやってメディアにも出演されたり。人前で話すことが苦手だったなんて驚きです。

前野先生は、周囲の目を気にしすぎてしまっていたご自身を、どうやって変えることができたのですか?

前野先生

大学生になって上京し、それまでの友人がまったくいない環境で新しい生活を始めたことが大きなきっかけになりましたね。私なりに、このまま殻に閉じこもっていては、社会で置いてけぼりになるんじゃないかという危機感があったんです。そこで大学進学を機に、自分を変える決意をしました。サークルや部活で積極的に活動したり、部長を務めたり。

まあでも、私の場合はたまたまうまくいきましたが、これが全員におすすめの方法かどうかは分かりません。苦しかったら、無理をして変えようとしなくても大丈夫です。

ちいさな行動が、未来の自分を大きく変える

笹沼

では、無理のない範囲でポジティブに、自分らしくなるためにはどうしたらいいでしょうか……?

前野先生

人生は長いので、楽しみながらひとつずつ、自分らしさを磨いていくことが大切です。そのためにも、まずは行動すること。ちいさなチャレンジを積み重ねれば、人から褒められたり、自分の強みを伸ばせたりして、自信がつく。自信がつけば、周囲の目に怯えることなく、ありのままの自分でいられるようになります。

若いうちは、自信が持てなくて当たり前です。まだまだ発展途上ですからね。自分が何者になれるのか分からないという不安感を、誰もが持っている。私も、20代、30代、40代……と、コツコツ原石を磨き続けた結果、50歳近くなってようやく「幸せの研究が向いている」と気づけましたから。

20代、30代で「自分はダメだ」と思うのは、まだ早いですよ。60歳になった私に言わせれば、諦めずに、地道に歩んでいればかならずいいことがあるよ、と。ぜひこれを信じてほしいですね。

笹沼

私もいつかは、もっと自分に自信を持てるようになるのかなぁ。

前野先生

今、「60になったら報われるなんて言われても、先が長い」って思ったでしょう? その気持ち、わかりますよ。私だってそうでした。

私の印象だと、30代くらいまでは進歩のスピードもゆっくりなんです。でも、歳を重ねるごとにどんどん加速していく。だから自信が持てなくて悩んでいる若いみなさんは、今のうちにちいさな一歩を踏み出すことが大事です。1日3分の頑張りでも、40年間積み重ねれば非常に大きなものになっていきますから。

いつもと違う髪型にしてみるとか、メガネを変えてみるとか、それくらいのちいさなことでいいんです。電車を途中下車して寄り道してみるとか、いつもは読まないような本を買ってみるとか。コーヒーに砂糖を少し多く入れるとかでもいい。

笹沼

ちいさなことでも、普段と違った行動をしてみることで新しい気付きや視点を得られそうですね。

前野先生

そうなんですよ。よく、若い人たちから「やりたいことが見つからない」「得意なことがわからない」といった声を聞きます。それは調べても見つかることじゃなくて、いろいろな経験を重ねるなかで、わかることなんですよね。

だから発見のチャンスを増やすためにも、一日ひとつのちいさな行動が大事。そしていつか、のめり込めるほど興味を持てる対象に出会えたら、あとは邁進して、自信を掴むだけです。

笹沼

ちなみに、ちいさなチャレンジの選び方のコツ、みたいなものはあるのでしょうか?

前野先生

できれば受動的になるばかりではなく、能動的な行動をするといいと思います。何かを受け取って消費して終わらずに、自分で発信してみてください。映画が好きなら、感想を書いてみたり、友人に話してみたり。

インプットで得られたことを活かしてアウトプットしてこそ、自分の強みを伸ばすことにつながりますよ。

先が見えない時代だからこそ、自然体でいよう

笹沼

ここまでのお話で、自信を持って前向きに、自分らしく生きていくためのヒントをたくさんいただきました。

最後に、前野先生が考える「自然体」についてもお聞かせいただけたら嬉しいです。自然体で幸せに生きる人が増えたら、これからの社会はどのように変わっていくと思いますか?

前野先生

日本っていうのは、集団主義の社会だったんですよね。言われたことやルールをきちんと守りましょう、といった意識が根付いています。これはなぜかというと、稲作をするには団結が必要だったから。みんなで力を合わせて田んぼに水を張って、田植えをして、収穫をして……と、地道に協力することが、生きるために必要でした。集団主義のなかでは、当然、協調性が求められます。そんな背景もあり、日本には人の目を気にする人が多くなったと考えられるのです。

集団主義の価値観は、現代の組織の在り方にも根強く影響を与えています。部活動で監督や先輩の言うことを聞いたり、企業で上司の考えが絶対だったり。最近では自由な風土の組織もだいぶ増えてきましたが、まだどちらかというと、ピラミッド的な組織のほうがメジャーですよね。

集団主義では、力を合わせて大きな何かを成し遂げることが可能です。その経験によって、幸せを感じることができるかもしれない。でも、一人ひとりの「自然体」を実現するのは、ちょっと難しいんじゃないかと思うんです。

笹沼

幸せを感じられることがあっても、自然体でいられない? どういうことでしょうか。

前野先生

集団主義の社会のなかでは、どうしても「ありのままに因子」が弱くなってしまう。これは先ほどまでの話にも通じますね。人の目を気にすると、行動が制限され、自分をさらけ出すことが難しくなります。その状態では、自然体と言えないんじゃないでしょうか。

これまで日本では、世界に誇れる技術や製品がたくさん生まれてきました。集団主義の社会構造によって、協力して、几帳面に何かを作り上げる力が培われていたからです。そこでさらに、これからは個人の「ありのまま」、つまり自然体を活かして自由に活躍できる人が増えていけば、新たなイノベーションの芽が次々と育つと思うのです。

百人いたら、それぞれがアイディアを持ち寄って、百通りのチャレンジをする。個々の多様な力が発揮されることで、幸せな社会を実現するための新たな糸口もつかめるかもしれない。いろいろな不安があり、先が見えないと言われる時代で幸せに生き延びるためにも、「自然体」は大切な在り方なのだと思います。

私は先日還暦を迎えて、赤い“ちゃんちゃんこ”を着たんです。あれって、「赤ちゃんに戻る」っていう意味らしいんですよ。人生の区切りを迎えて、生まれ変わって、赤ちゃんのように自由に生きていい、と。60年間結構真面目に生きてきたので、なんだかすごく嬉しくて。

これまでは、ある程度決められた社会構造のなかで自分らしく生きて来られたとは感じていますが、私もこれからまた本当の意味でありのままに、自然体で生きていきたいですね。


前野先生にお話を伺って、自分らしく前向きに生きるためのヒントと勇気をいただきました。

とくに、「若いうちは、自信が持てなくて当たり前」「30代くらいまでは進歩のスピードもゆっくり」といった言葉をかけていただいときは、背中を押された気分でした。いつまでも自信が持てない私も、ちいさな頑張りの積み重ね次第で、まだまだ素敵な未来が待っているかもしれない。

自分なりのチャレンジの一歩として、さっそくこの春から習い事を始めてみる予定です。まだ、どう芽吹くかわかりませんが、これから私も少しずつ、「やってみよう!」をコツコツ積み重ねていきたいと思います!


ソラミドについて

ソラミド

ソラミドは、自然体な生き方を考えるメディア。「自然体で、生きよう。」をコンセプトに、さまざまな人の暮らし・考え方を発信しています。Twitterでも最新情報をお届け。みなさんと一緒に、自然体を考えられたら嬉しいです。https://twitter.com/soramido_media

取材・執筆

笹沼杏佳
ライター

大学在学中より雑誌制作やメディア運営、ブランドPRなどを手がける企業で勤務したのち、2017年からフリーランスとして活動。ウェブや雑誌、書籍、企業オウンドメディアなどでジャンルを問わず執筆。2020年からは株式会社スカイベイビーズにも所属。
https://www.sasanuma-kyoka.com/