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会社のためじゃなく、自分のために働こう。自然体で働くための組織の役割とは──岡山史興×安井省人

毎日いそがしく働くなかで、つい目の前のことでいっぱいいっぱいになってしまう。
何のために仕事をしているんだろう。お金を稼ぐため? 自己実現のため?

希望を持って始めた仕事も、気づけば必死にタスクをこなす日々……なんてことになっている人、結構いるのではないでしょうか。

働くって、なんだろう。働きやすい会社って、なんだろう。
そのヒントを模索するなかで見つけたのが、

「会社のために働くな」

という言葉。

ウェブメディア『70seeds』編集長である岡山史興(おかやま・ふみおき)さんのnoteで見つけた言葉です。

働くことの価値観を問い直すようなメッセージに、ハッとさせられました。

自分のために働くことは、どんな自然体へとつながっていくのか。人が自然体に働くための、組織の役割とは。組織と、そこで働く個人のあり方のヒントを、ソラミドを運営するスカイベイビーズの代表・安井省人が探ります。

会社は、理想の生き方を実現するための道具

安井

岡山さんの発信を拝見して、僕たちと考え方がすごく似ているなと感じていました。とくに、「会社のために働くな」という考え。

スカイベイビーズのメンバーにも、生き生きと、楽しく意味のある形で仕事に励んでほしいですし、自分もそうしたいと思っています。岡山さんが、「会社のためじゃなく、自分のために働く」という考えに至ったのはどうしてだったのでしょうか?

岡山

会社って、「箱」でしかないと思っているんです。みんなが、「こういう世の中だったらいいよね」とか「こんなことをやりたいよね」っていうのを、力を合わせて実現するための装置というか。それに加えて、社会保険に入れる、産休・育休を取れるなど、生きていくためのインフラにもなりうる道具だと考えています。

道具を使うのは人間です。反対に、人間が道具に使われてしまうと、本末転倒なんですよね。

安井

世の中には、道具、つまり会社に使われてしまっている人が多い、と。

岡山

はい。残念ながら、今はそういう人が多くなっていると感じます。

道具をどうやって使うか判断ができなくなると、振り回されて、消耗して、不幸せになってしまいます。そんな状態で働くのは、本人にとってよくないだけじゃなく、会社としての魅力やパワーも落ちる。

だから、あくまでもみずから「この会社と一緒に歩む」と選んでいる状態、つまり自分の意思で人生を決めている状態をつくる必要があるのだと思います。

岡山史興(おかやま・ふみおき)

「次の70年に何をのこす?」をコンセプトに、これからの新しいあたりまえづくりに挑むWebメディア『70seeds』の編集長。1984年長崎県生まれ。筑波大学大学院修士卒。高校時代から社会活動に取り組むNPOの立ち上げ、被爆者の記録をデジタルで残す活動などに取り組む。戦略PR会社勤務を経て、2014年に起業。2015年にウェブメディア「70seeds」を立ち上げ。ローカル・ソーシャル・スタートアップを主領域に、ストーリーデザイン活動に取り組む。現在は日本一小さな村として知られる富山県舟橋村と東京の二拠点生活をおくる。

安井

そういう綻びのない状態を、我々は「自然体」という言葉で表現しているんです。自分が持っている価値をきちんと発揮できれば、自分の存在価値を認識できるし、誰かの力にもなれる。それで不幸になんてならないはずですから。

岡山

働くことは、誰かに押し付けられるものではないはずなんですよね。自分で生き方を選べることが重要です。そのためには、逃げることが許されるようにしておくのが大事だと思っていて。何かミスマッチが起きたときに、ほかのやり方もあるよと言ってあげられるようにするとか、合わなかったときに辞めることはマイナスなことじゃなく、次のステップに向けた一歩なんだよ、と。社会に、そういう空気ができるといいですよね。

やりたいことがあれば、自分で仕事を作ればいい

安井

僕の場合、スカイベイビーズの経営者としては、ミスマッチがなるべく起こらないように、つまり、メンバーにマッチする仕事をどう見出すかっていうのをいつも考えていて。そうすると、誰にもマッチしない仕事がやってきたときに、「どうしようか……」と悩むことがあるんですよね。

安井省人(やすい・まさと)

スカイベイビーズ代表取締役・クリエイティブディレクター。クリエイティブや編集、組織支援の仕事を通して、自社だけでなく、さまざまな企業における働き方を見たことをきっかけに自身の「自然体」を意識するように。現在は「自然体で生きられる世の中をつくる」をミッションに、生き方や住まい、働き方の多様性を探求する活動をしている。兼業や二拠点生活の実践者。

岡山

悩んだときは、どうしているんですか?

安井

「やってもいいよ」と言ってくれる人がやるか、もしくは外注するかのどっちかですね。それでいうと岡山さんは、70seedsで「会社のためじゃなく、自分のために働こう」という指針を掲げてからは、誰もできない仕事は受けないようになった(※)、と発信されていましたね。

(※ウェブメディア『70seeds』を運営する70seeds株式会社ではPRや編集業務の受注も行う)

岡山

はい、受けないようになりました。みんながストレスなく仕事に取り組める状況ができましたね。でもそうすると、仕事が集まる人には集まる一方で、自分のやりたいことやできることをはっきりと自覚できていない人は、仕事が減ってしまうんですよ。

でも、そのあとが面白くて。仕事が減ったことによって、「自分がやりたい仕事ってなんだろう」と考えるようになったり、新しく勉強を始めたり。さらには、自分に合う仕事をつくるためのアクションをとるようになっていったんです。

安井

面白い。自分で仕事をもらいに行くようになったってことですか?

岡山

そうです。つてを辿って仕事を見つけてきたりする。自分から取ってきた仕事なので、もちろん意欲も増して。「ブレスト付き合ってくれませんか?」なんて、積極的に声をかけてくれるようにもなったり。環境が変われば、人もそうやって変化するんだなぁって思いましたね。

自発的な成長は、生存本能のひとつ

安井

僕、岡山さんにちょっと聞いてみたいんですよ。「成長しないと生きていけない」みたいな話ってあるじゃないですか。それって、ある意味真理だし、別に間違っちゃいないと思うんですけど。多少、理不尽な目にあったり、ちょっとストレッチに働いたりしたほうが成長するとかあるじゃないですか。そういうのってどう受け止めていらっしゃいますか?

岡山

クリエイティブな業界だと、徹夜でデザイン仕上げて当たり前みたいな話とか、若い頃はとにかく雑用をしまくって、その経験が後に生きるみたいな話がありますよね。それは確かにその通りかもしれないし、僕個人としても、「あのとき、あの経験をしたから今これができているな」みたいなのは間違いなくあるんです。

でも、それを成長ではなく、単なるストレスに感じてしまう人がいて。ここでも、自分で判断できる仕組みが必要だと思います。

安井

もちろん、無理を強いられることは望ましくないですが、仕事で価値を発揮するためには、ある程度の成長も必要になるじゃないですか。ぼーっとしてるわけにはいかないというか。僕たちは、“ありのまま”と近い意味で自然体という言葉を使っていますけど、その一方で、生きている以上は成長が必要になることもあるんだろうなぁ、なんて。

岡山

それはそれで、自然なことだと思いますけどね。

例えば、ご飯が食べたいと思ったら、お金が必要じゃないですか。さらに、牛丼じゃなくて、ちょっと高級な焼き肉を食べたいと思ったら、もうちょっと稼がなきゃいけない。

安井

高級家具でコーディネートされた部屋で暮らしたいと思っているのに、お金に興味がない……みたいなことだと、矛盾しますもんね。それはそれで、自然じゃないぞ、と思います。

岡山

そういう人が家具を手に入れる方法って、借金か強盗になってしまう。これは明らかに自然じゃないし。自分の身を滅ぼすことになりますから。

必要なことが見えていて、自分のやるべきことが明確になって、そのためのアクションをとるっていうのは、ある種の生存本能だと思うんです。だから、それが自然なのかなと思います。逆に、ずっと牛丼がいい、と思うなら、それももちろんアリです。

安井

今のお話とちょっと通ずる部分があるかもしれませんが、成長する場は、社内だけじゃなくていいと思っているんですよね。外で成長してきて、うちで活躍してくれてもありがたいし。本人が軸足を変えたいと思うなら、送り出してあげたいと思う。もちろん、たとえメンバーじゃなくなったとしても、業務委託だったり、機会があればその都度関われたらいいですけど。

岡山

わかります。僕たちも、会社を離れたメンバーとその後も関係が続くことが多いですね。

結局、人と人である以上、いつか別れがくるじゃないですか。僕は、そういうときに変に喪失感に襲われてしまわないように、「いつでも出て行っていいよ」っていう言い方をすることがあるんですけど……なんかそれって、受け取る側は寂しいみたいですよ(笑)。

安井

なるほど、確かに。「いていいよ」って言われる方がうれしいかもしれないですね、気をつけよう(笑)。

岡山

でも経営者としても、出て行かれると傷つくところがあるじゃないですか。だから予防線張ってしまうところがあるんですよね……。

安井

めちゃくちゃわかります(笑)。

自分の人生に責任を持てるように

安井

ここまでいろいろ伺ってきましたが。岡山さんは、どんな組織のあり方が理想だと考えていますか?

岡山

そうですね。これまでのお話にも通ずるのですが、自分たちのことを自分たちで決められるっていうのが一番大事だなと思っていて。

決めてもらうのが楽な人って、大多数だと思うんですよ。でも、決めてもらっていたら、「自分の人生誰が責任とるの?」みたいな話にどんどんなっていく。人生の責任って自分しか取れないじゃないですか。やっぱり、後悔して死んでほしくないなというのは、誰に対しても思うことなので。自分の意思で決めていける組織が必要かなと思いますね。そして、それが当たり前に受け入れられる社会構造を作っていけるといいんじゃないかなと。

安井

うちはもともとフリーランスとしてやっていた人が8割、9割なんです。だから、自分で選択をして責任持つことがベースになっている人ばかりで。自分で決められないっていうパターンにはなかなか出くわさないのですが、人に決めてもらうのが楽な人って、どうすればいいんでしょうね。

岡山

決められるのが楽なタイプだっていうことを自分で理解して、それで幸せになれる組織に所属しておくっていうのは自分の意思だから、それでいいと思うんです。

でも、本当は自分で決めたいんだけど、その勇気が出ないなあとか。まあいいかなって感じでいると、その人はどんどん不幸になってしまう。スッキリしないまま人生を終えることになってしまうんじゃないかと。

なので、自分で決められるようにちょっと一歩踏み出してみればいいし、その踏み出した先にちゃんと受け皿がある状態が社会に必要で。僕らがそういう受け皿の一つになればいいなと思いますし、こういうアクションでちゃんとビジネスとしても成果を出しているっていうことが、同じような受け皿を作る人が増えることに繋がればいいなと思ってます。

安井

なるほど。決めてもらいたい人でも、誰について行くか、誰と仕事をするか、どんな場を選ぶかっていうことは最低限自分で多分責任を持たないといけないってことでしょうね。そういう選択をしたこと自体に、愛情を持って欲しいですし。

岡山

そうですね。そういう意味で言うと、自分で決めるための一つの足かせになるのって、お金の話だと思うんです。自分にできることで、何かしらの副収入を得るとか、少しずつ株を始めるとかでもいいと思うんですけど。経済的にも、何かひとつに依存しない生き方ができるといいかもしれないですね。

安井

常に選択肢を持てるといいってことですよね。スカイベイビーズでは、基本的に会社の仕事はみんなにとってのベーシックインカムでいいと考えていて。やりたいことをうちで実現できたらもちろんそれはいいけれど、そうじゃなくてもうちの仕事で土台を支えて、ほかにやりたいことを頑張ればいい。そういう、お金に関する心理的安全性を担保するという役割も、組織にあっていいのかなと思います。

「やるべきこと」を見失わない

安井

岡山さんが、既成概念みたいなものに疑いを抱くようになったのはいつ頃からだったんですか?

岡山

それはたぶん元からそういう気質だと思います。僕は長崎出身で、高校生のときに核兵器をなくそうという声を国連に届ける署名活動の立ち上げに参加したんですよ。そのころから、「平和」の実現を目指すことが、ずっとライフワークというか、僕のテーマですね。70seedsも、「戦後70年の“知らなかった”と出会う。」をコンセプトにスタートしたウェブメディアですし。今も、被爆者の記録を集めてデジタル化して行くNPO団体の理事もやっています。

安井

そのルーツが、働き方や組織のあり方に対する考えにどうつながっていくんでしょう。

岡山

平和というものを捉えたときに、戦争とか原爆って話だけだと、どうしても自分ごとで考えられない人が多いと思うんです。そこで、一人ひとりの日常とか、仕事とか働き方とか、そういうのが積み重なって、その人にとっての平和ができていくっていう考え方にたどりつきました。それなら経営者という立場でやれることもあるし、事業という形でできることもありますから。

安井

平和というテーマが先にあって、それを一人ひとりに落とし込んでいったらどうなるか考えた結果、働き方や生き方の中の理不尽さを改善していくことにつながっていったんですね。

自然体で生きる人が増えれば、みんな心に余裕が生まれて、自分にも人にも優しくできる。それってつまり、最終的には平和に繋がるんじゃないか……みたいな話をすることが、僕たちもあるんです。

岡山

本当にそう思います。ストレスを抱えながら苦しむ人は減った方がいい。不自然とか理不尽といった状態を作らないことが、平和の根本だと思ってますね。

安井

最後に、岡山さんご自身が考える自然体ってどんな状態だと思いますか?

岡山

自然体の一つは、自分が「やるべきこと」をやれている状態なんじゃないかと。「やりたいこと」ではなく「やるべきこと」です。

「やりたい」って、結構危ない感情だと僕は思うんです。やりたいと思ってやっているのか、やりたいと思わされてやっているのか、わからなくなってしまうことがある。そこで、「やるべき」を突き詰める必要があると思っています。

安井

「やりたい」は危険って、面白いですね。

岡山

本当にやるべきことって、少ないんですよ。

僕は今、自分が住んでいる富山で学童保育施設をつくろうとしているんです。それは、僕が「やるべきこと」だと思っています。自分の息子が2022年の4月から小学一年生になって。僕にとっては一番大事な存在であるこの子が通う場所に対して、親として、経営者として何も手を打たないのはなんか違うよね、と。本当に大事な物を大事にできているか見直すと、やるべきことが明確になっていく気がしています。

安井

「べき」を見直し続けることが必要なんですね。それって、自分の価値を発揮できる方法や環境を考えることにも通じそうです。

いやあ、冒頭でもお伝えしたように、岡山さんとは考えていることに共通することが非常に多くて。二拠点生活の話も、またいつか聞かせてください。今日はありがとうございました。

自分で決めることは、人生に責任を持つこと

「会社のために働くな」

この言葉にこめられていたのは、自分で選択し、納得できる人生を歩んでほしいという思い。

岡山さんのお話を通して、組織は個人の価値を発揮するための道具であり、インフラととらえる考えがあっていいのだと再認識できました。

目の前のことでいっぱいいっぱいになり、お金を稼ぐためだけに働くのはもったいない。

それで自分を見失ってしまったり、自然な状態を保てなくなっては本末転倒です。

自分の人生に責任を持ち、「やるべきこと」に力をそそげるように。

従業員が道具として扱われるのではなく、人が会社を道具として有効活用できる未来が実現できれば、自然体で生きられる人が増え、岡山さんの思い描く平和な世界が実現できるかもしれません。

スカイベイビーズも、そんな未来に向けた、受け皿のひとつになっていけたらと思います。


ソラミドについて

ソラミド

ソラミドは、自然体な生き方を考えるメディア。「自然体で、生きよう。」をコンセプトに、さまざまな人の暮らし・考え方を発信しています。Twitterでも最新情報をお届け。みなさんと一緒に、自然体を考えられたら嬉しいです。https://twitter.com/soramido_media

執筆

笹沼杏佳
ライター

大学在学中より雑誌制作やメディア運営、ブランドPRなどを手がける企業で勤務したのち、2017年からフリーランスとして活動。ウェブや雑誌、書籍、企業オウンドメディアなどでジャンルを問わず執筆。2020年からは株式会社スカイベイビーズにも所属。
https://www.sasanuma-kyoka.com/

撮影

飯塚麻美
フォトグラファー

東京と岩手を拠点にフリーランスで活動。1996年生まれ、神奈川県出身・明治大学国際日本学部卒業。旅・暮らし・ローカル系のテーマ、人物・モデル撮影を得意分野とする。大学時代より岩手県陸前高田市に通い、おばあちゃんや漁師を撮っている。2022年よりスカイベイビーズに参加。
https://asamiiizuka.com/