揺らいでは取り戻す。そんな繰り返しが、その人の人生になると思うから。daytune.松見咲子が命を燃やす、チューニング習慣とは
試行錯誤って大切だ。なにが自分に合うのか、なにが自分には合わないのか。考えて、やってみて、考える。そんな繰り返しで、ようやく自分の心地良さが手に入るんだと思う。
でも、不安になる。こんな行き当たりばったりのような生き方で、本当に良いんだろうか。失敗ばかり繰り返していて、本当に良いんだろうか。
そう思い、自分の違和感を無視して、道を進もうとしたことがある。数年前の話だ。その道の先は、暗いトンネル。そして、行き止まりだった。
違和感に気づいて、進む道を変えていく。そんな歩みを辿れたら良かったのだけれど、それが難しかった。自分の気持ちに気づけない。そして、見失う。
心身を置いてけぼりにせず、大切にできたら。揺らいでもいいから、その度に自分を取り戻すことができたら。そのためのヒントを探し求めていた。
そこで目にしたのが、株式会社フローミュラの松見咲子さんが運営する、daytune.というブランドのコンセプトだった。
だから毎日ひと息ついて、
自分の心身を点検する時間をつくる。
今の状態と在りたい状態を確認して、
その瞬間からまた始める。
それが、私たちの提案する”チューニング習慣”です。
daytune.は、2022年6月にローンチしたブランド。現在は、主にハーブティーを扱っている。
ここでいうチューニング習慣というのは、心身を大切にしつつ、揺らぎながら自分を取り戻すことなんじゃないか。そう感じ、松見さんにお話を伺いしたくなった。
彼女が思うチューニング習慣とは。なぜ、チューニングが必要なのか。
ゆったりと紐解きつつ、揺らぎながら自分を取り戻すヒントを考えていこう。
「自分の自然のリズム」と「社会の当然のリズム」を調和させる
daytune.は、「自分なりの心地良いリズムで働き、暮らすためのワークライフスタイルブランド」と掲げています。仕事や生活をわけるんじゃなくて、生きる上での考え方をサポートしていきたい。そんな想いで、ワークライフスタイルブランド、と名乗っているんです。
自分なりの心地良いリズム。それは、仕事も生活もひっくるめた、人生における心地良さ。それを見つけるために、daytune.が届けているのが“チューニング習慣”というものだ。
チューニングを説明するときには、“調える(ととのえる)”と言っています。整えるだと、きっちりするとか、片付けるって意味になるんですけど、調えるだと、いい塩梅にするって意味になるんです。
落ち込んだり元気だったりする自分の状態と、社会のなかでやらないといけないことの両者を、いい塩梅にする。そんなイメージで、チューニングという言葉を使っています。
疲れているから癒す、ではない。それは、チューニングではなく、リラックスだと彼女は言う。
リラックスではなく、心身の調子を自覚して、自分の在りたい状態にすり合わせていく。その絶え間ない繰り返しを、チューニング習慣として表現している。
チューニングという概念をより理解するため、彼女は「自分の自然のリズム」と「社会の当然のリズム」というふたつの言葉を示してくれた。
生理的欲求や、こうしたいという想いが、自然のリズム。一方で、当然のリズムは、社会で求められているものです。9時始業など、所属する社会の時間の流れとかがそうですね。
実は、自然のリズムで生きるのが正解だとは思っていないんです。私は、欲望のまま生きてしまうとダメダメになっちゃうから(笑)。でも、素直な感覚や感情を無視していたら、体調を崩してしまう。
だから、自然のリズムと当然のリズムを調和させるんです。「自分はこうしたい!」だけじゃなく、社会の中でどう生きたいかまで考える。そこまで含めて、やっと人生というものになると思うんですよね。
ふたつのリズムを調えることで、在りたい方向に足は進む。我がままでもなく、感情を無視するわけでもない。
彼女はなぜ、そんなバランスの大切さを考えるようになったのだろう。
自分の状態を把握するって、とても難しいんです。それを実感したのは大きかったですね。
話は、彼女の幼少期まで遡る。
ちゃんとした人間になりたかった
2,3歳のころは、誰にでも話しかけるような子どもだったんですけど、幼稚園に入ったら途端にシャイな子になっちゃって。お友達の家に遊びに行っても、ひとりで絵本を読んでいるような。そんな子どもだったみたいです。
周りの子と、上手くコミュニケーションがとれない。友達の顔色をうかがって、言いたいことが言えない。気がつくと、優柔不断でお人好し、と認識されるようになっていた。
それでも、好きなものはあって。ハーブや石や星、自然にあるものが好きだったんです。親が持っていたガーデニングの図鑑を読み漁っていましたね。
友達のお家に行っては、友達のお母さんとハーブの話で盛り上がるとか。「このハーブ、挿し木して持って帰っていいですか?」って聞いていたことを覚えています(笑)。
そんな“好き”を持ちつつも、なかなか自己主張ができない日々。自分を出せていない感覚は拭えず、自分のことが好きじゃなくなっていった。
自信なんて全くなかったですね。あ、いまもないんですけど……。自分には取り柄なんてないんだって。
少し笑いながら、そう語る。
そんな彼女が中学校・高校に上がって、頑張り始めたのが受験勉強だった。勉強は、分かりやすく点数がつく。そこで結果を出せれば、自分の価値を出せれば、私は私を好きになれるはずだ、と。
いま思えば、負の感情でしか動いていなかったんですよね。「これをやりたい!」って想いではなくて、ダメになりたくないとか、自分を嫌いたくない、とか。
自己表現ができていなかったからか、テストで良い点をとって周りを見返したいって思ってもいましたし。ちゃんとした人間になりたかったんです。
良い大学に行けば、きっと自分を好きになれる。だから、私は勉強を頑張るんだ。
頑張った。いや、もはや頑張り続けるしかなかった。
大切にしたい「こうあるべき」が伝わらない
無事に、第一志望の大学に合格。これで、自信がつくはずだ。そう思っていた彼女の景色は、なにも変わらなかった。
ショックでしたね。優秀な人はいっぱいいるし、もちろん大学に入って終わりでもないし。なにかができると、また違うできないことが見えてくるから。これは終わりがないのかもしれないな……って。
就職活動でも、負の感情が顔を出す。
もちろん、自分が入りたいと思った会社に入社を決めました。私の意志がなかったわけではありません。でも、社会的な判断軸は絶対に入っていたと思うんです。
自分の根底に湧き上がるものというよりは、社会的にどう見られるかの前提の上で選んでしまっていたのかも。
「これをやりたい!」ではなく「ここで価値を出せる人間にならなくちゃ」という焦り。大手コンサルティング会社に入社したものの、どことなく感じる人生への居心地の悪さは、変わらなかった。
入社した後も、自分の意見をなかなか出せなかったんです。出せなかったというよりは、私が思う「こうあるべき」があるのに、上手く伝わらないというか。
日々の業務の中で違和感を抱いて、それを周りに伝えても「この子はなにを言っているんだ?」ってキョトンとされるばかりで。
「それって、本当にお客さんのためになるんですか?」
「このプロジェクトって意味があるんですか?」
そんな疑問が脳内に浮かぶのに、誰も理解してくれない。怒られるならまだよかった。伝えても、「は?」と一蹴されてしまう。
自分の気持ちを押し殺すようになるまで、時間は長くはかからなかった。
なんだか、自分の人生を自分の手で舵取りしている感覚がなくて。他人の人生を生きている感じでしたね。
もしかしたらクライアントワークが向いていないんじゃないか。そう思い、事業会社であるベンチャー企業に転職してもみた。
けれど、またもや景色は変わらなかった。
私は、「こうあるべき」が強いと思うんです。「こうあって欲しい」にも近いかな。それはマイナスなものじゃなくて、こだわりとか、通したい筋とか、大切にしたいもの。
会社って、やっぱり綺麗事だけじゃ動かないから。私の大切にしたい「こうあるべき」との折り合いがつけられなかったんだと思います。
自分の命をなにに燃やすか
会社って、綺麗事を貫けないんだろうか。自分の思う「こうあるべき」を大切にできる道ってなんなのだろうか。
働きながら、そんな問いばかり考えていた。考え出すと止まらなくなった。限界は、ほどなくしてやってきた。
もう無理だなって。自分の心と行動が一致していないのが、辛くなったんです。いったん、白紙に戻して考えたい。そう思って、次になにをやるかも決めずに退職を決意しました。
無職になるという選択。会社からも「次が決まるまで居ていいから」と言われたし、周りからも「なんで決めないまま辞めちゃうの」と言われた。
けれど、彼女は退職を選択した。
それどころじゃなかったんです。自分の人生をなにに使うのかって、私にとっては大問題だから。心が死んでしまう方が深刻なことで。
だったら、会社に居続けても、適当に転職しても意味がない。ちゃんと考えないといけない。自分の命をなにに燃やすのか、考えないといけないって。
辞めてからは、いろいろな人に会いに行ったり、海外を旅したり。自分はなにをしたいのか。ひたすらに向き合う時間を過ごしていた。
大切にしたいことを貫くには、どうしたら良いんだろう。私の命をなにに燃やそう。
考えるなかで、フッと浮かんだのがハーブだった。
仕事って、しんどい時間が絶対あるから。心から好きなもの、心から意義を感じるものじゃないと、私は続けられないなって思ったんです。
その点でいうと、ハーブは深い理由がなくずっと好きなもの。そんなハーブでなにかをするって、面白いんじゃないかなって。
そこから、なんとなくハーブティーを買ってみたり、自分でブレンドしてみたり。ハーブに触れる時間が増えていく。
でも、意義が見出だせない。自分がやる意味が見出だせない。いろんな人に触れたり、いろんな空気を吸ったりしながら考えていると、自分を見失っていたあの頃を思い出した。
自分の状態を把握するって、なんであんなに難しいんだろうって思ったんです。私もそうだし、周りでも、行き過ぎて倒れてしまったり、会社に行けなくなったりする人が多かった。
どう考えても、そうまるまでに気づきたいじゃないですか。事が大きくなる前に、自分の状態に気づくことって、とても大事なんじゃないか。そう考えるうちに、その気づきをサポートできたら良いな、サポートしたいなって思うようになったんです。
ハーブを使って、なにかをしたい。自分の状態に気づくサポートをしたい。
それは、彼女にとっての「自然のリズム」と「当然のリズム」だったのかもしれない。彼女のチューニングが始まった。
事業をするか、死ぬか。
そこからは、個人事業主としてお金を稼ぎつつ、ハーブの事業を準備する日々。
1年半後、個人事業主の仕事を受けるのをパッタリと止め、自分の事業に集中するようになった。
なんででしょうね。不安はあるし、悩みもするんですけど、変に大胆なところがあるというか。自分のやりたいことに専念しようと、素直に思えたんです。
そこからは、小さくテスト品を作ってみては、自分のこだわりが表現されていないことに愕然としたり。もっとお金や時間を使って、事業を考えたいと強く思ったり。
試行錯誤の末、株式会社フローミュラが生まれた。
心をなにに燃やすのか。そんな問いを掲げ続けて、ようやく見つけた道。その道を進む彼女は、いまどんなことを感じているんだろう。
「めちゃくちゃ悩んでばかりですね……」と少し下を向いた後、「でも」と、言葉を紡いでくれた。
辞めたくなるくらい辛いこともたくさんあります。でも、辞めたくなるだけで、辞めることはないんだろうなって。
私のなかでは、事業をするか死ぬか、それくらいなんです。いまやっていることは、自分の人生をかけての表現、問いかけだから
売り上げをどう作っていくか。事業として、どう成り立たせるか。そんな悩みは日々尽きない。けれど、辞めるという選択肢は頭にない。
いまは、思っていることに嘘が全くないんです。daytune.のコンセプトを言葉にしていると、涙が出てくるくらい。
すごい辛いんですけど、その辛さも含めて、自分で選んでやっているんだと思えるのは、幸せだなと思いますね。
人は、揺らぐもの。
事業をするか死ぬか。彼女の柔らかい雰囲気と、力強い言葉のギャップに、なんだか背筋が伸びる。さまざまな試行錯誤を経て、揺らがない自分を見つけたんだろうな。
そんなことを伝えると、彼女は「人って揺らぐのが前提だと思うんです」と返してくれた。
気持ちもだし、身体もだし、生き物って一瞬として同じ状態がないじゃないですか。同じだったら、それはもうロボットだと思いますし。
だから、揺らぐのは当たり前なんです。気分が落ちることもあれば、元気なときもある。でも、揺らがない方が良いと思うと、自分の気分に気付けなくなるんです。そうしたら無理をしてしまう。
短期的になら良いんですけどね。でも、やっぱり無理は長続きしないから。
人は、揺らぐもの。そんな前提は、なんだか楽になる。
人は揺らぐものだから、じゃあどんな風に揺らぐのか。相手の揺らぎに、どう自分の揺らぎを合わせるか。揺らがないようにするのは、不自然なこと。それよりも、穏やかに揺れていた方が心地良いと思うんです。
上に行き過ぎたら、下に戻すし。下に行き過ぎたら、上に戻すし。その繰り返しが、チューニングなのかもしれない。
だから、チューニングは1回で終わるものじゃないんですよ。繰り返して、習慣にするもの。揺らぎを調え続ける。その軌跡が、その人の人生になるんじゃないかな。
調え続ける。そのためには、自分の「いま」に気づくことが大切になる。そんなきっかけを、 daytune.は届けてくれる。
「いま」に気づくには、五感に働きかける機会を作ることが大事なんです。窓を開けて、冷たい風を感じるとか、そよそよと揺れるカーテンを眺めるとか。
「あっ」ってハッとする瞬間。そんな自分に立ち戻る瞬間を作ろうと、daytune.を展開しているんです。そこから、チューニング習慣が始まると思うから。
取材後のある朝、購入していたdaytune.のハーブティーが届いた。パッケージを開けると、鮮やかな色が目を惹く。
その色ひとつひとつに、シーンが書かれている。いま僕は、どんな気分なんだろう。どう在りたいんだろう。そんなことを考える時間は、なんだか少し心が躍る。
今日の1日を元気に過ごしたい。そう思い、Cheer upを選んだ後に、お湯を沸かす。ポットにティーバックを入れ、お湯を注ぐ。すると、綺麗なピンク色とほのかなハーブの香りが五感を刺激した。
彼女が言っていた、自分に立ち戻る瞬間って、こういうことなんだろうか。そう思いながら、茶葉を蒸らすための3分間、香りと色を楽しんでみる。
3分後、カップに注ぎ、フーフーと冷ましながら、口に含む。……美味しい。それだけじゃない。香りが鼻腔全体に広がってくる。
味と香りを味わっていると、いつの間にか、窓の外の空を眺めていた。ゆったりと流れる雲を見ながら、ハーブティーと「いま」を味わっていた。
自分のなかのリズムが調った気がした。
松見咲子
1988年10月生まれ。一橋大学社会学部卒業後、野村総合研究所(NRI)に入社。
経営コンサルタントとして、官公庁の委託調査事業や、民間企業向けのマーケティング調査、新規事業支援などを担当。
スタディストに入社しWEBマーケティング・ディレクションを経た後、独立。
2020年4月に(株)フローミュラを設立。
ソラミドについて
ソラミドmadoは、自然体な生き方を考えるメディア。「自然体で、生きよう。」をコンセプトに、さまざまな人の暮らし・考え方を発信しています。Twitterでも最新情報をお届け。みなさんと一緒に、自然体を考えられたら嬉しいです。https://twitter.com/soramido_media