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「いつ休んでもいい会社」と考える“働きやすさ”の実現。目指すは、対話を通じて変化し続ける組織――武藤北斗×安井省人

働きやすさ。

働き方改革が謳われはじめて、独り歩きしはじめた単語。どの企業も、従業員の働きやすさを追求しています。けれど、どこか空虚な感じがする。形だけの改革になっている気がする。

『ソラミド』を運営する、スカイベイビーズでも同じ悩みを抱えています。いろんな工夫はしているけれど、もっとできることがあるように思える。

働きやすい組織って、なんだろう――

そう悩むなかで出会ったのは、「好きな日に連絡なしで出勤・欠勤できる」「嫌いな作業はやってはいけない」という変わった会社でした。

大阪にある水産加工会社・パプアニューギニア海産。従業員が働きやすい会社として注目を集めています。

組織に、完成形は存在しないと思うんです。

そう語る代表の武藤北斗さんは、“働きやすさ”をどのように捉えているのか。スカイベイビーズ代表の安井省人が、パプアニューギニア海産ならではの働きやすい組織づくりのイロハを探ります。

死ぬときに後悔しないよう、従業員が働きやすい会社を目指した

安井

当初から、従業員の働き方に意識を向けた経営をしていたんですか?

武藤

いえ、以前は真逆でしたね。従業員のことを縛る経営をしていたと思います。従業員どうしの競争を煽ることもありましたし。争わせることで、作業効率も、会社の業績も上がっていくと本気で思っていました。

縛って、争わせる経営が正しいと考えていたし、その選択への悪気も全くありませんでしたね。振り返ると、いやらしい見方をしていたと思います。

武藤北斗(むとう・ほくと)

大学卒業後、築地市場にて荷受業務に従事。2年半の経験後、父親が経営する株式会社パプアニューギニア海産に入社。2011年、東日本大震災で宮城県石巻市にあった会社が津波により流され、大阪に移転。その後、「働きやすい職場」をつくるべく、フリースケジュールなどのさまざまな制度を導入し、2021年9月に同社代表取締役に就任。著書に『生きる職場 小さなエビ工場の人を縛らない働き方』(イースト・プレス)がある。

安井

いまのパプアニューギニア海産の風土からは想像できませんね。そこから変わるきっかけは?

武藤

ひとつは、東日本大震災ですね。東北で被災して生き残ったことで、「生きるってなんだろう」「死ぬってなんだろう」って考えるようになったんです。たまたま生き残った自分に、生きている意味はあるんだろうかって。

安井

もっと大きな視点で物事を見るようになった。

武藤

良い生き方を考えるようになったんです。僕、生活の基盤は仕事だと思っていて。日中のほとんどの時間働いているということは、従業員とは家族よりも長い時間一緒にいるということ。

決して短くない日々を共にする従業員たちといがみあうのって、絶対に良い生き方じゃない。このままじゃ、死ぬときに後悔するだろうなって。

安井

震災によって死を意識したからこそ、良い生き方を考えるようになったと。

安井省人(やすい・まさと)

スカイベイビーズ代表取締役・クリエイティブディレクター。クリエイティブや編集、組織支援の仕事を通して、自社だけでなく、さまざまな企業における働き方を見たことをきっかけに自身の「自然体」を意識するように。現在は「自然体で生きられる世の中をつくる」をミッションに、生き方や住まい、働き方の多様性を探求する活動をしている。兼業や二拠点生活の実践者。

武藤

でも、すぐには行動に移せなかったんです。実際にどうしたらいいのか分からなくて。そうやって悩んでいるときに、被災前からずっと支えてくれていた大切な社員が辞めることになったことがきっかけでした。

もうこのままじゃいけない、従業員を大切にした経営をしないと、僕が後悔するって。

安井

なるほど。従業員のためじゃなく。

武藤

はい。僕が心地好く生きるために、みんなが働きやすい会社を作っている。「みんなのため」っていう綺麗事じゃないんです。

組織のことを、みんなで考える「プロセス」がなによりも大切

安井

働きやすさを追求しはじめて、上手くいかなかったことはありました?

武藤

たくさんありましたが、失敗はひとつもなかったと思っています。

安井

それはどういう意味ですか?

武藤

一般的には、ある取り組みをした後に結果が出て、その結果次第で、成功か失敗かを判断しますよね。でも、僕の場合は、取り組みを実行した段階で成功だと考えているんです。

安井

結果はどちらでもいいと?

武藤

そうですね。僕らの場合は、ある取り組みをするときに「従業員のみんなと意見を交わす」というプロセスが含まれます。そのプロセスこそが、組織として最も大事なんですよ。逆にいうと、そのプロセスがなければ、どんな取り組みでも失敗だと思っています。

安井

一方的にルールや改革を押し付けるだけだと、組織全体として良くなりはしないですもんね。

武藤

従業員と真剣に話してから取り組むことで、結果がどうあろうと従業員には納得してもらえますし。自分たちも意思決定に携わったのだから、という意識が芽生えるんでしょうね。

安井

まさに「考える組織」ですね。上からの命令で動くだけじゃない。

武藤

僕らの働き方ばかりが注目されるんですけど、大切なのはルールそのものじゃないんです。どんなに良いルールだったとしても、それを強制していたら、みんな嫌になりますよ。

安井

大切なのは、自分たちがルールを作っているという意識なんですね。

武藤

みんなで考えて、それを実行して、その結果を踏まえて再び考える。そんな繰り返しができているから、従業員みんなにとって働きやすい会社が成り立っているんだと思います。

あなたはどう思うか、を起点にする

安井

「みんなで考える」って、どのように進めているんですか? 一人ひとりの意見を拾い上げ、納得感を抱かせるのは難しいですよね。

武藤

「みんなで考える」といっても、全員で話し合いをするわけではないんですよ。

安井

ミーティングで決めるんじゃないんですか?

武藤

以前は、全員が集まる場を作って、意思決定をしていたんです。みんなに意見を求めて、出してもらう形。

でも、それだと手を挙げて意見を言える、声の強い人にとっての働きやすい会社にしかならないと気付いたんです。平等に見えて、平等じゃない。

安井

なるほど。たしかに、みんなの前で意見を言うのが苦手な人もいますしね。

武藤

「意見があるなら言ってください」と、ちょっと威圧的だったこともあったんですけど、無理やり言わせても意味がないですし。そう気付いてから、僕と従業員のふたりだけで話す時間を設けるようにしました。

安井

全員が、武藤さんを通す形ですね。

武藤

そうです。僕が全員の意見を把握している。そのうえで、みんなの意見をもとにルールを決めていくんです。僕がハブのような形になることで、平等が実現できるかな、と。

安井

一対一で従業員と話すとき、なにか決まりごとのようなものはあるんですか?

武藤

自分のことだけを話す、という決まりはありますね。「誰々さんが大変そうだから」という代弁はしないように、と伝えています。

安井

それ良いですね。代弁を良しとすると、見当違いのおせっかいが生まれてしまいますし。

武藤

そもそも、人が考えていることや感じていることは、その人にしか分からないじゃないですか。なのに、気を抜くと代弁したがる。それって、自分の意見の責任を、人に押し付けようとしているからだと思うんです。

そうなると、一対一で話す時間を設けている意味がなくなってしまう。せっかく、ふたりで話しているのに。

安井

あくまでも、あなたがどう思っているのか、あなたがなにを考えているのかを話して欲しい、ってことなんですね。

忖度がないよう、細かなルールを決める

武藤

僕たち、自由な働き方ができる会社として注目されてますけど、実際はめちゃくちゃルールが細かいんですよ。

安井

そうなんですか?

武藤

作業上のルールなんて、ものすごい作り込まれてますよ。作業に関しては、自由は殆どないと思います。ルールは絶対です。

でも、それは忖度を生まないためなんですよね。

安井

忖度、ですか。

武藤

例えば、「好きな日に来ていいよ」というルールを作ったとしても、その決まりが緩ければ「とは言ってもさ……」とか「常識的には……」って言う人が絶対出てくるんです。

ルールが緩かったら、なんとなく空気を読んで行動しないといけなくなってしまう。でも、ルールが厳しければ、それに従っているだけで文句は言われない。

んな忖度をなくしたくて、細かいところまでルールを作り込んでいるんです。

安井

細かくルールを作り込むからこそ、自分の意志で行動できるんですね。面白い。

武藤

そのためにも、このルールは自分たちで作ったもの、という意識が必要になる。みんなで考えることが大切なんでしょうね。

この間も、ひとりの従業員の意見から「工場に入る際のあいさつはしなくてもいい」っていうルールが決まったんです。

安井

あいさつもルールで決めているんですか。

武藤

その従業員は、とある事情から、あいさつが辛かったらしくて。僕にそれを伝えてくれたんです。

僕は、あいさつって職場の雰囲気を作るために大切なものだと思っていたから、「あいさつしなくてもいい」というルールを作ることはためらっていたんです。でも、他の人からも同じような意見があって。

安井

それって、一対一で話す機会を設けていたから気付けたことですよね。あいさつはすべきもの、って教えられた人が多いと思いますし。

武藤

さらに面白いのは、「全ての場面であいさつをしなくてもいい」というルールには、疑問を持つ人も多かったんです。やはり、あいさつは大切だと思っている人も多くて。

だから、「工場に入る際のあいさつはしなくてもいい」けれど「事務所に入る際のあいさつはする」というルールになっているんです。

安井

あいさつひとつでも、ルールが細かい……! でも、それがあるから気持ちよく働けるんでしょうね。

武藤

みんなの意見をもとに、バランスをとって、ルールを作る。「あいさつはすべきか否か」っていう白か黒か、で考えていないから上手く回っているんだと思いますね。

「働きやすい会社」に正解はない。だから、対話する。

安井

従業員には、パートさんと社員さんがいるんですよね。別々で採用しているんですか?

武藤

いまの社員は、パートさんから社員になった人だけですね。

安井

それは、武藤さんから声をかけるんですか?

武藤

いえ、立候補制なんです。「社員になりたい人いますか」って。

安井

立候補制! 面白いですね。

武藤

うちでは、雇用形態で完全に仕事を分けているんですよ。パートさんは工場での作業、社員は全体の統括、というように。

安井

そうなんですね。スカイベイビーズとは真逆です。うちは、正社員・業務委託・アルバイト、雇用形態はなんでもいいけど、任せる仕事内容に代わりはないって形なので。

武藤

その違いは面白いですね。でも、「自分でその働き方を選んだ」という点は、僕たち共通していませんか?

安井

たしかにそうですね。

武藤

自分で選んでいるから、納得感が違うんでしょうね。「社員になりたい人いますか?」って聞くときも、社員とパートさんの役割や期待していることの違いを、ちゃんと説明して、そのうえで選んでもらうんです。

安井

どちらの働き方が、自分に合っているかを考えてもらう。

武藤

自分で考えて、自分で選択している、ってことは働きやすさの大きな要素だと思うんですよね。

なのに、社会で語られる働き方改革のほとんどって、枠を決めて、そこにあてはめようとしてしまう。だから上手くいかないんですよ。

安井

分かります。制度設計だけでなんとかしようとしても、無理ですしね。本人の意志を無視してしまうと、前に進むものも進まなくなる。

武藤

そもそも「絶対にこれが正しい」って形なんて存在しないと思うんです。例えば、いまは副業自由の流れが来てますけど、うちは副業禁止なんです。

安井

それもウチとは逆ですね。兼業必須なんで。

武藤

それのどちらかが悪いわけではないんですよ。あくまでも、自分たちの組織で働いている人が、一番働きやすい形を模索することが大事であって。副業それ自体が良いわけでも、悪いわけでもない。

安井

大事なのは、なぜそのルールを適用するか、の理由や想いですね。

武藤

その「なぜ」の部分に、その会社が大事にしていることが現れると思うんです。それと、自分の大切にしたいことがマッチすることが、一番の働きやすさに繋がる。

安井

こうすれば働きやすい会社になる、という答えはない。

武藤

僕たちの組織だって、いまが完成形じゃないですし、そもそも完成形は存在しないんです。メンバーの生活も日々変わるので、働きやすい会社のあり方も変わるはず。

その都度その都度で、従業員と対話して、いま一番合っている形を模索し、変化し続けることが大事なんだと思います。

安井

「働きやすさ」の答えを求めすぎずに、一人ひとりと対話して、「自分たちに合った組織とは何か?」を問い続ければ良い。従業員と向き合う意義を、改めて実感できた時間でした。今日は、貴重なお話ありがとうございました。

組織には、組織の数だけ答えがある

制度は主体的に使われて、はじめて意味がある

以前、とある経営者さんが仰っていたことを思い出しました。

革新的な働き方を見聞きすると、「自分のチームでも取り入れようか?」と考えることがあります。

けれど、制度だけを取り入れても、働きやすい組織には成り得ない。武藤さんのお話を聞いて痛感しました。

大切なのは、その組織が従業員やメンバーのことをどう考えているか。彼ら、彼女らがなにを望んでいるか。そこを疎かにしたまま制度を拡充しても、確実に形骸化してしまう。

組織の数だけ、働き方の答えがある。そして、その答えは従業員と共に変化し続けるもの。

それは大きな組織であろうが、小さなチームであろうが変わらないはずです。

働きやすさには答えがない。だからこそ、考え続けよう。そう思います。


ソラミドについて

ソラミド

ソラミドは、自然体な生き方を考えるメディア。「自然体で、生きよう。」をコンセプトに、さまざまな人の暮らし・考え方を発信しています。Twitterでも最新情報をお届け。みなさんと一緒に、自然体を考えられたら嬉しいです。https://twitter.com/soramido_media

執筆

安久都智史
ソラミド編集長

聴いて書いたり、読んで編んだり、語り合ったり。「青春」と「できずとも繋がる働く」が探究テーマ。妻がだいすきです。
Twitter: https://twitter.com/as_milanista

撮影

久保秀臣
フォトグラファー

1976年生。B型であることを誇りに思う典型的なB型。
同志社大学卒業後、オーストラリア、アメリカなどを放浪。
現在は、神戸を拠点に水中からドローンまで撮影。

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