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写真家・中山桜の“あがき”│好きなことを続けるのは楽じゃないけど、私の存在価値はここにあるから

大好きなことがあっても、それを続けることは決して簡単ではない。

一部では、「好き」をそのまま仕事にできる人もいるが、多くの人は仕事をしながら空いた時間で趣味を楽しんだり、夢に向かってコツコツと努力を重ねたりすることになる。

中山桜も、会社員として働きながら写真家としての活動を続ける一人だ。

SNSへの投稿を続けてきた写真がじわじわと注目を集めるようになり、現在では写真展の開催、アーティスト写真やライブの撮影、メディア掲載のポートレート撮影なども行なっている。

このように活躍の場を広げる彼女だが、仕事をしながらここまでのエネルギーを写真にそそぎ続けることは、簡単ではなかったはずだ。

今回のインタビューでは、彼女のこれまでの歩みを振り返り、好きなことを追求し続けることの尊さについて、見つめ直したいと思う。

表現するのは、前向きな感情だけじゃなくていい

中山が写真を撮るようになったのは、大学4年生のころ。

就職活動を終えて自由な時間ができ、何か新しく趣味を見つけたい、と思ったのがきっかけだった。

何をやろうかなって考えていたときに、たまたまおばあちゃんがフィルムカメラをくれたんですよ。それで、いい機会だし写真をやってみようかなって。人が好きなので、人を撮ろうと思いました。みんなに内緒でこっそりInstagramも始めてみたりして。あわよくば、チヤホヤされたらいいなって(笑)

いざ撮り始めると、少しずつ上達することに面白さを感じた。SNSを通じて、写真仲間ができていくのも楽しい。そして何よりも彼女自身が、自分の撮る写真を愛することができたという。

中山は、みるみるうちに写真の世界へと惹き込まれていった。

自分の写真が、めっちゃ好きだなって思えたんですよ。初めて現像したとき、『あれ? もしかしてうまいかも』って。能天気ですよね(笑)。私自身が、自分の写真を通して見る人が好きって思えた。きれいに撮るのは得意じゃないけど、人と仲よくなるのは得意だから。そのおかげで、写真に人柄を出せている、やったぜ! って。

写る人物の、人柄がにじみ出た写真を撮る。
これは、彼女がいまでも大切にしているテーマだ。

表現するのは、決して前向きな感情だけじゃなくていい。
悩み、羨望、反発心など、誰もが何かしらの葛藤を抱え、もがきながら生きている。

そんな、人々の心の “あがき”を、中山はとらえ続ける。
“あがく”とは、「活路を見出すため、じたばたと必死に努力すること」。

普段は元気そうに生きている人も、ふたを開けてみたらいろんなことに葛藤して、悩んで、頑張っている。それがすごく面白いし、きれいだなって。そんな、人の“あがき”を覗くことにハマって、写したいと思うようになりました。きっと、これからもテーマは変わらないかな。

会社員になって経験した、彼女自身のあがき

ひょんな動機と、カメラをもらったという偶然から始まった写真の道は、中山にとってかけがえのない“趣味”となった。

そのまま大学生活は終わりを迎え、社会人としての生活がスタートする。

中山は、メディア制作を行う企業へと新卒入社し、編集者として仕事をするようになった。

高校時代に、学校の授業で文化放送のシナリオコンテストに応募したことがあったんです。そしたら、高校生で初めて賞をもらっちゃって。地元で横断幕も貼られました(笑)。そのとき周りからたくさんほめられて『私、天才じゃん!』と。調子に乗って、そのままメディアや制作の仕事に興味を持つようになったんです。大学も、広報学科があるところに進学しました。

編集の仕事はやりがいも大きく、「憧れの業界で仕事ができている」という喜びもあった。

しかし同時に、彼女自身も“あがき”を経験することになっていく。

いざ社会人になって、私、当たり前のことができないって気づいたんですよ。出勤簿を押すとか、決まった時間に行動するとか、みんなやってることができない。もう、怒られてばっかりでした。でも、最初に配属された部署の先輩がすごくいい人たちだったんです。しばらくすると、私がふざけてるわけじゃないって理解してくれて。以降は、『そのぶん得意なことをやってね』というスタンスで接してくれました。

いまでは部署も変わってしまって、相変わらず会社では浮いてるって感じることもあるけど……私のことを理解してくれる人が少しでもいてくれるおかげで、一応働き続けられています。いろいろうまくいかなくて、メンタルが落ちまくることもあるんですけど、『ここで辞めたら負け!』っていう、負けん気の強さも踏みとどまれている理由です。

会社員の自分も、写真家の自分も。違った面白さがあるから

会社員として悩みも抱えてきた一方で、人の内側にある混沌とした感情がにじみ出たような中山の作品の数々は、着実に人々の心をつかんでいった。

大学を卒業して少し経つころには、SNSを通じて撮影の依頼が来るように。写真で報酬を受け取る機会が増え、会社員の給与と遜色ないほどの収入を得ることもあったという。会社を辞めて独立することも、不可能ではなかったはずだ。

写真を本業にするという考えは浮かばなかったのだろうか。

写真を始めて5年くらい経ちますけど、一時期はずっと悩んでましたよ。やっぱり、何かひとつの道を極めている人は格好いいから、自分も写真一本でやりたいなと思ったことがあります。でも私、マジでひねくれてるんですよ。どんなに大好きな写真でも、仕事として“やらなきゃいけないもの”になった瞬間、やりたくなくなっちゃう気がして。写真はあくまでも趣味としてやっていくのが合ってるんじゃないかなって思ったんです。

日々、仕事を忙しくこなし、ときには葛藤を抱えながら歩んできた会社員生活。いくら大好きなこととはいえ、写真と仕事の両立にはかなりのエネルギーがいるはずだ。

その原動力を聞いてみた。

うーん……写真は、誰と比べるものでもないし、競うものでもない。純粋に、『私の写真最高! あなたの写真も素敵だね!』って思える。褒められたらもちろんうれしいけど、評価を気にする必要はないんですよね。だから、仕事や職場の人間関係でうまくいかないことがあっても、写真さえよければ、私の存在価値はそこにあるって安心できるんです。

悩むことやしんどいことはあっても、会社の仕事も私にとって決して『いやなこと』ではなかったのもありますね。編集や制作の仕事が憧れだったし、好きだから。会社員をやっていると、ただ好き勝手生きていたら出会わないような人たちと接する機会もあります。社会にはいろんな人がいるんだなぁっていう学びは、会社で働いているから得られることだなって。写真と仕事、それぞれに違った価値があるから、うまいことバランスがとれてきたのかも

写真の道に、自分の存在価値を見出したいから

写真はあくまでも“趣味”として楽しみ続けてきた彼女だが、最近になって、向き合い方に少しの変化が生まれたという。

写真を続けてきたことが会社でも認められるようになり、写真展の企画を主導する機会があったのだ。

なんか……人ってすぐ死ぬなって、ふと思ったんですよ。長生きできたとしても、人生はあっという間に過ぎていく。だったら、好きなことにたくさん時間を割いたほうがいいじゃんって。部署が異動になって、仕事内容や人間関係が変わったタイミングも重なったんですよね。ちょっとうまくいかないことが増えて、『会社の仕事でも写真ができたら、もっと幸せかも』って考えるようになりました。それで写真展の企画を考えて、プレゼンをして、駄々をこねて……。

その後結局、紆余曲折あって、会社の企画としてではなく、個人で協賛をいただいて実施できるようになったんですけど。あがいた結果、やりたいことを自由にやらせてもらえる、ベストな道にたどり着けたかなって思います。

ここでも、会社を辞めて独立を目指すのではなく、会社員を続けながら写真の道を追求する選択をしたことに、彼女ならではのバランス感覚があらわれているように感じる。

最近思うのが、好きなことをするのって、嫌いなことをするより難しいってこと。好きなことをしているはずなのに、実現までにはいろんな壁があって、苦しい。いま勤めているのはわりと大きな会社で、説得しなきゃいけない相手も多かったし、反発を受けることもありました。正直、ちょっと苦手なことをやっているときよりも5倍くらいキツイかった。ストレスでご飯も喉を通らないし、食べても吐くし、夜も眠れない。でも、ここを乗り越えたら、自分一人でやるよりも大きなことができる、この先の楽しいことのために前払いしてる期間だと思って、なんとか乗り切れました。

そこまでの思いをしてまで彼女が“好きなこと”を追求し、あがき続けるのはなぜなのか。

やっぱり、自分の存在価値を実感できるからかな。人間、誰だって存在価値を認めてほしいと思うんです。私の場合は、自分の意味をいちばん置きたいところが写真だから。好きだからこそ、頑張りたくて苦しむんだと思うし、仕方ないですよね。やるしかない!

自分の存在価値を見出すことができた、写真の道。

誰もが持つ「認められたい」という欲求が、心から夢中になれる世界と結びつくことで、ここまでのエネルギーが生まれる。

好きなことを続けるのも、楽じゃないなぁ。

苦笑いする彼女は、どこか吹っ切れたような顔をしていた。

大好きな道を追求するからこそ、苦しいことがある。
それでも人は自身の存在価値を見出し、認め、“何者か”でいるために、あがき続けるのだ。

この先、どうやって写真を続けていくことになるか、彼女自身もまだわからないという。
ひょっとすると、ある日突然会社員の肩書を手放すかもしれない。あるいは、転職して新しい世界へ飛び込むこともあるかもしれない。

それでも、「死ぬまで写真を撮り続けることは確か」だと断言してくれた。

最後に、中山にとっての“自然体”とはどんな姿か、聞いてみた。

もう、何も考えないで好きなことに没頭すること! 人間、好きなことしていたほうがいいじゃないですか。昔の人が、ご飯を食べるために狩りをしていたのと同じような感覚で、楽しく生きるために好きなことをする。だから私は、楽しく長生きするために、好きなだけ写真を撮り続けます。

中山桜
写真家。沖縄県の離島久米島育ち。フィルムカメラで人物を中心に撮影。そのほか、写真展の開催、ミュージシャンのアーティスト写真やライブの撮影、雑誌やメディア掲載のポートレート撮影なども行う。お酒が好き。
Instagram: @rarara_camerara


ソラミドについて

ソラミド

ソラミドは、自然体な生き方を考えるメディア。「自然体で、生きよう。」をコンセプトに、さまざまな人の暮らし・考え方を発信しています。Twitterでも最新情報をお届け。みなさんと一緒に、自然体を考えられたら嬉しいです。https://twitter.com/soramido_media

取材・執筆・撮影

笹沼杏佳
ライター

大学在学中より雑誌制作やメディア運営、ブランドPRなどを手がける企業で勤務したのち、2017年からフリーランスとして活動。ウェブや雑誌、書籍、企業オウンドメディアなどでジャンルを問わず執筆。2020年からは株式会社スカイベイビーズにも所属。
https://www.sasanuma-kyoka.com/