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似合う服より、好きな服を。色を味方に、自分を映し出す|セレクトショップ 『ラムネ』店主・森高紗季さん

ファッションは、自分を表現する一つの手段だ。お気に入りの服を着ると自然と気分が上がる。自分の感性に従って服を選んでいると「らしいよね」なんて褒められることもある。

だけど、いつの間にか服に対してワクワクする気持ちが薄れてしまった。昔は人目も気にせず好きな服を着ていたのに、大人になるにつれて「社会人だから」「親だから」と無難な服を選ぶようになった。素敵な服を見つけても、自分には合わないだろうと諦めてしまったりもする。

何も気にせず、着たい服を着られたらどんなにいいだろう。でも、なかなか一歩が踏み出せない。

そんな時に見つけたのが香川県丸亀市にあるセレクトショップ『ラムネ』だった。店主は、森高紗季さん。「流行りやライフステージにとらわれず、“スキ”を大切に」という思いのもと、海外で買い付けた個性豊かな古着の販売のほか、パーソナルカラー診断に基づいたコーディネート提案も行っている。

森高さんなら、私のように服について悩む人にヒントや勇気をくれるかもしれない。そう思って、取材を打診することに。自分らしい服の見つけ方、そして着たい服を着るための心構えなどを伺った。

自分を後回しにしている人に、「服」で輝く機会を

── 「流行りやライフステージにとらわれず、“スキ”を大切に」というコンセプト、素敵ですね。お店を作ることになったきっかけは何だったんですか?

実は、シングルマザーの母の姿がきっかけなんです。母は私を含め4人の子どもを育てるために、朝から晩まで働きづめでした。小さいころはそんな母が大好きで、かっこいいと思っていたのですが、大学生になったころぐらいから、母みたいに大変な思いはしたくないと思うようになったんです。

もちろん、私たちのために働いてくれていたことには本当に感謝しています。もしかしたら、子どものために働くことは母の生きがいだったかもしれません。だけど、母が趣味や美容など、自分のためにお金や時間をかけているところを一切見たことがなくて。母が本来持っていた、女性としての楽しみや喜びさえも抑え込んでいるように映っていたんです。そんな母を見て、もっと自分の好きなことをしたらいいのに、といつも思っていました。

私だったらお金のためだけじゃなく、好きなことをして働きたい。そんな思いから、就職を考え出した20歳くらいのころ、起業を夢見るようになったんです。

── お母様とは違う道に進もうと、起業を目指されたんですね。

そうなんです。でもその後、起業に向けてスクールに通ったり、いろんな大人の話を聞いたりするうちに母に対する考えが変わりました。

起業スクールには母と同年代の方もいたのですが、すごくいきいきしていたんですよね。それまで私の周りの大人といえば母だけだったので、こんな大人もいるんだと衝撃を受けました。ただ話を聞くと、そんな方でも出産や子育てで自分の好きなことを諦めていた時期があったみたいで。その時初めて、自分を労る時間を持てずにいる人は、母以外にもたくさんいるんだと気づきました。

もしかしたら母も、自分のやりたいことをして輝きたかったんじゃないか。輝く機会は案外近くにあったのではないか、と考えるようになりました。

── 輝く機会とはどういうことでしょう。

例えば、好きなお店に通ったり、何でも話せる友達がそばにいたり。自分に意識を向けられる空間や時間があるだけで、親としてだけでなく、自分の人生も大切にできていたんじゃないかなと思うんです。

そう考えるようになって、「母のようになりたくない」という思いが「母のような人を輝かせたい」という願いに変わりました。これがお店のコンセプトの根っこにある思いです。

── その思いを、服屋として実現しようと思ったのはなぜですか?

私が単純に服やおしゃれをすることが好きだからです。小さいころ、母がいつも可愛い服を着せてくれていたのが影響しているかもしれません。

お店としては女性をターゲットにしていますが、服は年齢や性別関係なく楽しめるもの。おしゃれ好きじゃなくても、好きな色やデザインの服を着ることで、気分が弾むと思うんです。

店主とおしゃべりしながら、自分の“スキ”に従って服を選ぶ空間があれば、母みたいな人でも自分を大切にできるのではないかと思い、23歳の時に開業しました。

好きな色は心を癒し、似合う色は自分を魅せる

── 2023年の春にオープンしてから2年が経とうとしていますが、『ラムネ』にはどんなお客さんが多いですか?

30代から50代の女性が多いですね。そして多くの方に共通しているのは、自分の“スキ”が何かわかっていないこと。家族のために自分を後回しにしてきた方だったり、そうじゃなくても、例えば飲食店で注文するとき、まず相手の希望を聞いてから自分の注文を決めるような優しい方だったり。日頃から、他の人を優先して自分のことを考える機会が少ないから、自分の本当の気持ちがわからなくなっているんだと思います。

そんな方は、まずは日頃から自分の心を知ることが大切だと思います。服にこだわらなくても、小物や雑貨、アートでも何でもよくて。日常の中で自分の“スキ”を見つけてほしい。そして、アイスが食べたいと思ったら我慢せずに買う、みたいに小さなwant(~したいという気持ち)を優先してほしいんです。

それでも、自分の“スキ”がわからなければ、いくつかの選択肢から選んでみるのもいいかもしれません。私のお店では、お客様に服を提案するとき「この色とこの色、どっちが好きですか?」と聞くようにしているのですが、選択肢を絞ることで“スキ”が見つけやすくなるんですよね。そうやって日頃から自分の気持ちにフォーカスすることで、だんだんと好きな服もわかってくると思います。

── ただ、好きな服がわかったとしても、人の目を気にしてしまったり、自分には合わないと思ったりして、着るのをためらってしまいそうです。

そうおっしゃるお客様も本当に多いです。好きな服がわかっているのに、年齢や体型を理由に着るのを諦めてしまったり、親だから派手な服は着ちゃいけないと思ってしまったり。そして結局、無難な色や形、柄しか選ばなくなってしまうんです。

── すごく共感します……。そんなときでも、服で気分を上げるためにできることはありますか?

まずは、年齢を重ねることや体型が変わることをネガティブに捉えず、自分がアップデートされていると捉えてほしいんです。例えば、「昔着ていた服が似合わなくなった」ではなく、「今の自分に似合う新しいスタイルを見つけるチャンスだ!」と考えられると、変化が楽しめそうですよね。

そのうえで私がお客様にすすめているのは、ファッションに“色”を取り入れること。いきなりカラフルな服に挑戦するのに抵抗があれば、色味のあるアクセサリーや小物を身に着けることから始めてみるといいと思います。

──色、ですか。

私自身、大学生の時にパーソナルカラー診断を受けたことがあるのですが、それをきっかけに今まで挑戦したことのない色や、カラフルな色の服をどんどん着るようになったんですね。すると、アパレルの会社の社長にアルバイトに誘われたり、大学のミスキャンパスにスカウトされたり、いいことがたくさん続いたんです。

きっと、似合う色を知って自信がついたのと、服に色味が増えたことで嬉しい気持ちが外に溢れ出ていたんだと思います。実際、明るい色やカラフルな色は、幸福ホルモンと呼ばれるセロトニンの分泌を促すともいわれているので、その効果もあったのかもしれません。自分に自信が持てるようになったことで新しいことにも挑戦できるようになったので、ただただ色の持つ力に驚かされましたね。

── でも、似合う色に縛られて、その色しか着られなくなりそうです。

私も最初はそうで、自分に似合うかどうかばかりを気にして、パーソナルカラー診断で言われた色の服やコスメしか選ばない時期がありました。似合う色がわかって嬉しいし、その色の服を着ることで自信が持てるようになるから、そうなるのはある意味当然のことだと思っています。

でも、しだいに自分に似合う色を見分けられるようになると、考え方が柔らかくなったんですよね。色と仲良くなるような感覚が芽生えて、似合う色以外の色も好きになり、取り入れたいと思うようになった。その日の気分に合う色にしたり、単純に自分の好きな色を選ぶようになったりすると、ますますファッションが楽しくなったんです。

これは、料理と似ているなと思っていて。料理が得意じゃない場合、きっと最初はレシピ通り作りますよね。でも、何度も作っていくうちに慣れてきて、コツやポイントがわかってくる。そこでやっと「私は濃口が好きだから、少し多めに調味料を入れよう」とか「今日はいつものレシピに新しい食材を加えてみよう」とアレンジする日もでてきたりするんです。ファッションもそれとなんだか似ている感じがしますね。

──色と仲良くなる感覚で、似合う色以外も取り入れていくと、ファッションがより楽しくなる。

まさにその通りです。私は、ファッションは似合うかどうかではなく、自分の気持ちを表現するものだと思っていて。「こう見られるべき」ではなく、「こうありたい」という気持ちを重視するべきだと思うんですよね。実際、店頭に立っていると、自分の気持ちを基準に服や色を選ぶ人は、内面の輝きが滲み出ているような感じがするんです。

色の組み合わせに迷ったら、自分の好きなものの配色を参考にしてみるのもおすすめです。私がよく参考にするのはアートの配色。目を惹く絵って、何色使っていても全体がうまく調和しているので、その絵に使われている色を真似て服を選ぶとうまくいくことが多いんですよ。

── 似合うかどうかより、自分の感情や“スキ”の気持ちを優先していいんですね。

もちろんです。最近はパーソナルカラー診断や骨格診断が流行っているので、似合うということにとらわれすぎる人が多い気がします。この色しか似合わないとか、このタイプに沿っておしゃれをするべきだ、みたいに。似合う色を知ることは武器になりますが、それだけにとらわれすぎると窮屈になってしまう。

私がお客様に伝えているのは、「好きな色は心を癒し、似合う色は自分を魅せる」という考え方。好きな色、似合う色、どちらも内面の明るさや魅力を引き出してくれるんです。似合う色に縛られず、気分によって好きな色を交えられると、もっと自由にファッションを楽しめると思いますよ。

服は魅力を映し出し、人の心を動かす

── 自分の気持ちを大切に服や色を選ぶことの大切さがわかりました。実際にお客さんを見ていて、着る服によって変化が表れた方はいましたか?

たくさんいますよ。私が色や柄物の服を提案すると、最初は自信なさそうだったお客様が、鏡の前で「なんか素敵かも!」と笑顔になってくれたり、「毎日服を選ぶのが楽しくなった」「印象が変わったと褒められて、自己肯定感が上がった」と言ってくれたりすることも多いんですよ。

また、昨年主催したファッションショーでも、服の力を感じました。

── ファッションショー?

はい。一般的なファッションショーは服を見せることを目的に行われますが、今回私が主催したのは“モデル”にフォーカスしたもの。モデルといってもプロの方ではなく、お店のお客様や地域の方々など、一般の方に募集をかけ、その中から採用しました。

応募条件は、新しい自分に挑戦したい、可能性を広げたいという想いを持っていること。見た目や性別、年齢については問いませんでした。

すると、予想以上にたくさんの人が手を挙げてくれて。選考を経て、最終的に最年少は16歳、最年長は50歳までの9人の方にモデルになってもらいました。

ショーでは、一人ひとりの魅力を引き出す服をコーディネートしてランウェイを歩いてもらうだけでなく、自分の“スキ”を表現してもらいました。例えば、お花が好きな人には花を生けてもらったり、フィギュアスケートをしている人には踊ってもらったり。まるで人生の一部を見ているようで、まさにファッションショーならぬ「ヒューマンショー」でした。

── 面白いファッションショーですね。どんなバックグラウンドを持つ人がモデルとして参加したんですか?

例えば、教師をしている40歳の女性は、いつも仕事や家事に追われていて、このまま何も変わらず年だけとっていくのが怖いと感じていたそうです。服装も、仕事着か動きやすい服のどちらかしかなかったみたいで。今までファッションに興味はなかったけど、服や見た目から自分を変えていきたいと応募してくれました。

ほかに印象的だったのは、最年少の16歳の女性。ふだん学校に行けておらず自分を卑下していたけど、可愛い服を着ているときだけは自然と自信が湧いてくると言ってくれました。ファッションの力を信じているからこそ、同じように悩んでいる人に勇気を与えたいと応募してくれたんです。

応募理由はさまざまですが、何かしら悩みを抱え、自信を持てないでいるという点で共通していました。そして皆、服をきっかけに変わろうとしていた。改めて、服の力ってすごいなと感じました。

── 服をきっかけに自分を変える。

実際、モデルの多くは本番前まで不安そうにしていたのですが、服を着てメイクをした途端、自信に満ち溢れた表情に変わったんです。ランウェイでも堂々と歩き、いきいきと自分の“スキ”を表現していました。

さらに、ショーを終えた後の彼女たちの感想も感動的で。「人生においての記念日になった」「女性であることをマイナスに捉えていたけど、ランウェイを歩き、他の輝く女性たちを見て勇気づけられた」と言ってくれたんです。

ファッションショーという特別な場ではありましたが、彼女たちの姿を見て改めて服の持つ可能性を感じましたね。服はただ身にまとうものじゃない。人の気持ちや魅力を映し出し、着る人、そして周りの人の心を動かす力を持っているんだと確信しました。

──素敵なショーだったんですね。 私も明日から自分の気持ちに問いかけて、少しでも気分が上がる色やアイテムを取り入れたいと思いました。

よかったです!ファッションに正解はないし、完璧である必要もありません。着ることで気分が上がるのが何よりも大切です。

一気に変わろうとしなくてもいいので、まずは自分の“スキ”を大切にして、好きな色やアイテムを少しずつ取り入れてみてください。そうすると、少しずつ自分らしさや魅力が現れて、服をきっかけに輝ける瞬間が増えていくはずです。

着たい服はあるのに、着られない。そんな悩みから始まった今回のインタビュー。森高さんのお話を伺ううちに、その悩みはいつの間にか小さくなっていきました。服は、誰かのためではなく「こうありたい」という自分の気持ちを表現するもの。そのための大切な手段の一つに色があるのだと、気づかせてもらいました。

取材後、私は思わずオンラインショップで、ここ数年買うことのなかった色味のある服を購入していました。袖を通してみるととても嬉しく、その高揚した気分が一日中続きました。これからも、迷ったときには森高さんの言葉を思い出し、少しずつ「ありたい自分」に近づいていきたいと思います。

森高紗季さん

セレクトショップ『ラムネ』店主

1999年生まれ。大学在学中、教育学部に所属するも教師の道に進まず、一年間休学し、進路を模索。休学中はYoutube配信やパーソナルカラー診断の資格取得などに励む。一時はパーソナルカラー診断を行うビジネスを立ち上げるも、これを中止。復学後、進路が決まらないまま卒業を迎えようとしていた時に、一件の空き物件と出会い「服屋」×「パーソナルカラー診断」という特色を活かした現在の『ラムネ』を立ち上げる。

『ラムネ』:https://www.instagram.com/ramune.store?utm_source=ig_web_button_share_sheet&igsh=ZDNlZDc0MzIxNw==

ソラミドmado

ソラミドmadoは、自然体な生き方を考えるメディア。「自然体で、生きよう。」をコンセプトに、さまざまな人の暮らし・考え方を発信しています。Twitterでも最新情報をお届け。みなさんと一緒に、自然体を考えられたら嬉しいです。https://twitter.com/soramido_media

企画・取材・執筆

上野彩希

岡山出身。大学卒業後、SE、ホテルマンを経て、2021年からフリーランスのライターに。ジャンルは、パートナーシップ、生き方、働き方、子育てなど。趣味は、カフェ巡りと散歩。一児の母でもあり、現在働き方を模索中。

X:https://x.com/sakiueno1225

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