死んだらどうなるんだろう。
夜、布団に潜り込んで、途方もない問いをぐるぐると考えていたことがある。死にたいわけじゃない。ただ、考えてみたい。でも、やっぱり怖い。考えたって仕方のないことだし、誰にも相談できるようなことじゃない。
もやもやとした気持ちを自分の中でとどめ、誰かに共有することを諦めていた。
死をカジュアルに語る「デス活」を知ったのはつい最近、死についてぼんやりと考えていたときのことだ。
見つけたときは、こんな場が日本にもあるのか、と驚いた。一体どんな人たちが参加し、どんなことを語り合っているのだろう。死について他者と語り合うことは、どんな意義があるのだろう。
涙を流してストレスを解消する活動「涙活(るいかつ)」の提唱者であり、「デス活」を全国で開いている吉田英史さんにお話を伺った。

吉田英史
デス活主宰者
公認心理師として地域や学校等の公的機関で対話する場をつくる活動に従事。また「なみだ先生」という名称で泣いてストレス解消する活動「涙活(るいかつ)」を提唱し、各地で涙活の場もつくっている。
デス活HP: https://www.deathkatsu.com/
※デス活のイベントレポートを、後日公開します。あわせてご覧いただけたら嬉しいです。
死をカジュアルに語り合う「デス活」
ーー「終活」は聞いたことがありますが、「デス活」は初めて知りました。
「デスカフェ」という名称で世界各地で行われている活動ではあるのですが、日本ではまだ馴染みがないですよね。
終活は、遺言書の作成や財産の整理など、死を迎えるための現実的な準備を行っていく活動ですが、デス活はお茶やコーヒー、お菓子を囲み、死についてカジュアルに語り合う活動です。
10代、20代の若者も参加することが多いという点も、終活と大きく違うところかなと思います。
ーー死をカジュアルに語り合う。
死は誰もが避けられないものですよね。だから避けたり、遠ざけたりせずに向き合うことが、いまをより豊かに過ごす助けになると考えています。
また、死に対してどう考えるかに答えはありません。自分の言葉で考えを共有し、他者の考えも知ることで、これからの生き方のヒントを見つけられると思っています。

ーー死を語り合う活動というと、どうしてもヘビーな場というイメージを抱いてしまいます。
そうですよね。だから、毎回ルールとテーマを設けるようにしています。
ルールは3つあります。1つ目は、一人一人が自由に自分の考えを表現できるようにすること。つまり、相手の考えを否定しないということです。
2つ目は、特定の結論を出そうとしないようにすること。死に関する考え方に正解も不正解もないので、結論を出すことよりも対話をし続けることを意識してもらっています。
3つ目は、自分の信仰や信念を誰かに押し付けないこと。どうしても死を考えると宗教や思想などが絡んでくるので、それを否定したり、誰かに押し付けたりせずにリスペクトする姿勢を大切にしましょうとお伝えしています。
ーーテーマは具体的にどのようなものがあるのでしょうか?
これまで、以下のようなテーマを設けてデス活を行ってきました。
- 亡くなった人と AI で会えるなら使いたいですか?
- 死ぬ前に、誰にどんな言葉を残したいですか?
- 自分の命を、誰の命とでしたら引き替えられますか?
- 今まで死にたいと頭をよぎった経験はありますか?
- あなたは安楽死を認めますか?認めませんか?
- 余命宣告されたら……
毎回ひとつのテーマを掲げていますが、いずれも無理に答える必要はなく、感じたことを話すようにしてもらっています。それに、これらはあくまで話し出すきっかけのようなものなので、テーマからブレても構いません。
死を語り合うといってもなかなか話せない人が多いんですね。だから、このようなテーマを設けることで、カジュアルに話せるようにしています。
死を語り合うことは、生を豊かにする
ーー吉田さんは、「涙活」の提唱者でもありますよね。涙活からデス活へ活動の幅を広げられたのはどうしてだったのでしょうか?
涙活では、講演やワークショップに参加してもらった方々に、気づきや感想をシェアしてもらう時間を設けるようにしています。そこでは自分がそれまでに泣いたときの体験談を話してくださる方が多く、死に関わる話をする方が一定数いたんです。
家族や友だちが亡くなった、と訥々と話し始める。最初は深刻な面持ちなんです。でも、一通り話し終わったときには、スッキリした顔をしている。
そういう場面を目の当たりにして、「もしかしたら、死について語りたい人は多いんじゃないか」という考えが浮かんできました。

ーーでも、死について考えたり、話すことはどこかでタブー視されているような感じもします。
そうですね。特に日本ではそういう風潮が強いように思います。ただ、死を取り巻く環境は昨今変化しています。
たとえば、核家族化が進み、自宅で家族の最期を看取る機会は減りましたよね。つまり、死の過程を見ることなく病院で突然、死と向き合うことが増えてきました。
多くの人は死といざ直面すると、やっぱり戸惑ってしまうと思うんですね。だからこそ、日常的に死について語り合う場が必要なのではと思いました。
ーー日常的に死について語り合うことで、死と直面する備えをしよう、と。
備えでもありますし、生をより豊かなものにするという側面もあります。具体的には、デス活の意義は主に4つあると私は考えています。
1つ目は、生の意味を再認識し、前向きに生きる原動力になること。
死は生と切り離せない概念であって、ある種、補い合う関係性のものです。死を意識するから、いま生きていることの価値や尊さを実感できる。生は有限であると気づくことで、いまこの瞬間を大切にする姿勢を養えると考えています。
2つ目は、優先順位を明確にし、後悔のない選択をするための指標になること。
「いつか人生には終わりが来る」と意識することで、自分にとって本当に大切なものが明確になっていく。日常の些細な出来事に振り回されず、自分の価値観に沿った選択をし、やりたいことを実現するためのモチベーションが生まれると考えています。
3つ目は、他者への感謝の気持ちを育み、人間関係を深めるきっかけになること。
死を考えることは、大切な人との別れを考えることでもあります。家族や友人がいることのありがたみを改めて実感し、他者への感謝の気持ちが高まり、強固で豊かな人間関係の構築につながると考えています。
4つ目は、終活とも近いかもしれませんが、終末期への備えを促し、「自分らしい最期」を実現すること。
人間はいつ死ぬかわかりません。自分が望む人生の最期を具体的に思い描くことで、そのための準備を整えていけると考えています。
ーー死について考えることは、結果的に生について考えることになるわけですね。
そうです。ときどき「グリーフケア(喪失による悲しみに寄り添い、支援すること)」と勘違いされることもあるのですが、デス活はあくまでカジュアルに死について語る場です。
事前にきちんと4つの意義について伝え、専門的なケアを求められている方には参加をお断りすることもあります。
また、希死念慮の強い方や死に対するトラウマをお持ちの方にも、状況によっては、専門的な支援につながることを優先しています。決して自死を肯定する場ではないことは、しっかりと理解してもらった上で参加してもらっています。

一人で抱えず語り合い、より身軽に
ーーデス活に参加された方は、どのような感想を持たれることが多いですか?
話せて楽になったという方が多いですね。死について語り合うことで、自分でも気づいていなかった自分自身の感情と出合う瞬間があるんです。
あるテーマについて話し始め、それが予期せぬ方向に進んでいく。忘れてしまっていた記憶や無意識的に溜め込んでいた思いを自然と話せるので、スッキリするのだと思います。
ーー無意識的に抱えていたものを話すことで、身軽になるということですか。
おっしゃる通りです。
たとえば、以前「死ぬ前に、最後に何を食べて死にたいですか?」というテーマでデス活を行ったときに、「最後は、お母さんが作ったおにぎりが食べたい」と話してくださった50代の男性の方がいました。
その方は、お母様を3ヶ月前に亡くされていたんですよ。普段は仕事が忙しくてお母様と話すこともそれほどなかったようなのですが、亡くなる1ヶ月前、看病のために病院へ通っていて、お母様とたくさん話ができたそうです。
「10代のときは素行が悪くて、母にものすごく迷惑をかけていた。でも、母は『あなたは自分が良いと思ったことをやりなさい』とずっと言ってくれていた。現在、会社を経営していて、従業員には『自分の思ったこと、信じたことをやり遂げろ』と伝えている。自分が母にずっと言われてきたことを従業員に伝えて、会社も上手くいっている。その感謝を病床で伝えられて、本当によかった」
こんな話をしてくれました。抱えていた思いを共有して、その方はスッキリされていたように見え、その姿が目に焼きついています。それに自分も、他者への感謝の気持ちを日ごろから伝えていきたいなと思わされました。

ーーその方は、ずっと一人で抱えていて、誰かに聞いてほしかったのかもしれないですね。デス活で多くの人の死生観について触れてきたと思いますが、吉田さんご自身に何か変化はありましたか?
明確に1つ変わったのが、死に対する恐怖感が少なくなったことですね。死に対する多様な考え方に触れられるので、死は悪いものじゃないのかもしれないという考えが強くなってきました。
ーーもともとは死に対する恐怖心が強かったんですか?
はい、死は怖いものだと思っていました。
いま思い出したのですが、高校1年生のときに、病気で亡くなった友人がいました。具体的な病名はわからないのですが、最期の1ヶ月、友人の入院している病院へお見舞いによく行っていたんです。
そのときに友人が言っていたのが「死にたくない」という言葉でした。でも、結局亡くなってしまって……。そこから死に対する恐怖心が強くなったのかもしれません。
ーーその恐怖心が、デス活を通じて和らいでいった。
そうですね。デス活でも「もし死がなかったら」というテーマを扱ったことがあるんです。そのときに皆さんのお話を聴いていて思い浮かんだのは、「ずっと生きていたらつらいんじゃないか」という考えでした。
医療技術が発達して、寿命は徐々に伸びていますよね。これからも伸びていく可能性は十分にあります。
でも、それは実はしんどいことでもあるのかもしれない。人生の終わりが見えづらくなっていくと、生の大切さを実感することも少なくなってくるかもしれない。
だからこそ、普段から死について語り合う場は、今後ますます必要になるのかなと思っています。
いまここを生き、感じること
ーーいまの吉田さんは、死をどんなものだと捉えていますか?
「自然なもの」ですかね。私も当然いつかは死ぬわけで、皆さんも同じくいつかは死ぬ。避けられるものではなく、この世に生を授かっているものは皆ひとしく死にます。
多くの人が頭ではわかっているかもしれませんが、なかなか意識することはないですよね。以前の私もそうでした。
でも、デス活を始めてからいつ死んでもいいように、いまここを生きること、感じることが大切だなと強く思うようになりました。
だらだらすることもときには悪くないのですが、惰性で生きるのではなく、一瞬一瞬を一生懸命に生きようという気持ちを持つことができるようになりました。

ーーそれが、生が豊かになるということ。
そうです。デス活を通じて、さまざまな人から勇気をもらうこともできました。
私は公認心理師の資格を持っていて、カウンセリングを行うこともあるのですが、そこで死について語り合うこともあるんですよ。そうすると「話せてよかった。楽になった」と言ってくださる方が多いんです。
そういう姿を見ていると、私自身ももっと一生懸命に生きようと思える。
ーーどうすればいまここを生き、感じることができると思われますか?
五感を発揮することかなと思いますね。死ぬと身体は使えなくなってしまうので、生きているうちにフル活用しないともったいない。
見る、聞く、食べる、嗅ぐ、触る。そういうことを全力でやっていると、生きている実感を得ることができると思います。
病気になってから健康の良さを知るのと同じように、人間は失ってから色々なものに気づくことが多い。だからこそ、自分の身体や大切な人を失う前に、死について考えたり、話したりすることで、生の大切さに気づく人が増えたらなと願っています。

死を忘れるなという意味を持つラテン語の「メメント・モリ」。生と死は本質的に同じであるという意味を持つ仏教の言葉「生死一如(しょうじいちにょ)」。死について考えようというメッセージは、遥か昔から語り継がれてきたのかもしれない。
死んだらどうなるのかなんて、誰にもわからない。だからこそ、死は怖い。
でも、遠ざけてしまうのではなく、ときには誰かと一緒に考え、語り合うことで、生を豊かにできるのだという吉田さんの話には、確かな希望があった。死があるからこそ、いまここを精一杯生きようと、そっと背中を押してもらえた気がする。
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