CATEGORY
POWERED BY
SKYBABIES
SKYBABIES

個人、組織、社会を「本音」がつなぐ。経営者の”鎧”を脱いだ先にみえた自然体-長谷川博章×安井省人

「経営者は孤独だ。」

ふと、一つのツイートが目に止まった。

従業員の”働きやすさ”が議論されるなか、経営者の働き方について語られているものは少ない。立場も、抱える葛藤も違えど、組織に関わる全員がそれぞれの「自然体」を追求しても良いはずだ。

経営者を含めた、組織に関わる全員が自然体であるためには、どうしたら良いのだろうか。

そんなことを考えていた時に思い浮かべたのは、RELATIONS株式会社でCEOを務める長谷川 博章さん。それは、長谷川さんが過去に書かれたnote記事がきっかけでした。

語られていたのは、当時運営していた2つの事業が従業員による企業買収(EBO)に至るまでの、長谷川さんの葛藤。

この1年は私にとってすごく痛みのある時間でした。

「これまでのRELATIONSを続けていきたい」という想いがある一方で、自分の本心としては「違う方向へ進みたい」という考えが芽生えていたからです。

しかしそれは、メンバーからすると迷惑以外のものではないと自分の考えに蓋をして、その本心をいつからかオープンに出せなくなっていたように思います。自分が我慢して今のRELATIONSを受け止めていくべきだと、勝手に思い込んでしまっておりました。

自分の些細な心のズレを放置し、お互いの本音を聴き合わないままRELAITONSの経営を進めてきたことへの、しっぺ返しのようなものだとも感じています。

SELECK、WistantのEBO(従業員への事業譲渡)と、RELATIONSの未来について/前編

創業時から「メンバーのやりたいこと」を優先して、既存事業で生んだ収益をもとに新規事業を立ち上げるという方針を示してきたとのこと。しかし、この葛藤を経て、「長谷川さん自身がやりたいこと」に改めて向き合い、既存事業に注力するという方向転換を行ったといいます。

その転換は、長谷川さんがずっと心にしまっていた「本音」に向き合い、ご自身にとっての自然体を体現するプロセスの一環だったのではないか。そのプロセスには、経営者の人間味を感じることができる。

組織に関わる全員が自然体であるためには、それぞれが「本音」を大切にし、”鎧”を被っていない状態で向き合うことが大切なのかもしれない。

そこで今回は、自然体経営を掲げるスカイベイビーズ代表の安井 省人と共に、RELATIONSの方針転換のプロセスを紐解きながら、「関係者全員が自然体で働く組織づくりのヒント」をお伝えします。

道標を失い、生じた綻び

安井

RELATIONSさんは、2019年からホラクラシー(※)を採用されていますよね。今日のテーマは、「関係者全員が自然体で働く組織づくり」ですが、ホラクラシーはそれを実現する一つの手段と捉えていらっしゃるのでしょうか。

※ホラクラシーとは、社内に役職や階級のないフラットな組織形態のことで、「人」ではなく「役割」に権限が付与される

長谷川

その考えに近いかもしれません。ホラクラシーは「どうしたら社員やクライアントの可能性・パフォーマンスを最大限に引き出すことができるか」を実現する一つの手段だと捉えています。

反対とされるヒエラルキー型の組織はここ100年ほどで生まれた形態ですし、ホラクラシーの方がより人間の自然体に近いのではないかと。

長谷川 博章(はせがわ・ひろあき)

関西学院大学を卒業後、株式会社ベンチャー・リンクに新卒入社。入社2年目でSalesman of the yearで全国2位、3年目では同1位に。その後、2009年に7名のメンバーと共にRELATIONS株式会社を創業。コンサルティングサービス「Less is Plus」を立ち上げ、累計で800社以上のクライアントの組織変革を実行。自社の組織づくりにもフォーカスし、2017年より役職の撤廃など組織のフラット化を実行し、「ホラクラシー」を導入。現在、同社には150の役割があり、全メンバーに権限が分散されている

安井

たしかに。

長谷川

ただ、弊社のホラクラシーの導入経緯が特殊で。というのも、元々はヒエラルキー型の組織で途中から自律分散型を目指したため、明確なルールを設けないまま、ただ権限を分散させていってしまったんです。

その結果、組織に秩序がなくなってしまって。そこで、組織の方向性と個人の権限を明文化し、組織に規律をもたらすためにホラクラシーを導入したんですが、本来はその目的で導入するのは危険なんですよ。

安井

そうですよね。順応するのに時間がかかるからか、途中からホラクラシーに移行した組織の成功事例はあまり見かけない気がします。

安井省人(やすい・まさと)

スカイベイビーズ代表取締役・クリエイティブディレクター。クリエイティブや編集、組織支援の仕事を通して、自社だけでなく、さまざまな企業における働き方を見たことをきっかけに自身の「自然体」を意識するように。現在は「自然体で生きられる世の中をつくる」をミッションに、生き方や住まい、働き方の多様性を探求する活動をしている。兼業や二拠点生活の実践者。

長谷川

おっしゃる通りですね。当時は、パーパスさえ握っておけばメンバーが各々やりたいように働けて、自ずと組織も回ると思っていたんです。ただ、ホラクラシーを頭では理解しつつも、気持ちが追いつかないといった声も多くありました。当時8名いた創業メンバーからも不満が止まらない状況が続いてしまいましたね。

“経営者の鎧”を被ってしまっていた

安井

「各々がやりたいように」って耳触りはいいものの、マネジメント側は大変ですよね。

長谷川

そうですね。当時は創業から10年ほど経っていたので、創業メンバーの間でさえ想いにズレが生じ、意思決定の際に衝突を引き起こすようになっていました。

安井

noteでも、長谷川さん自身「『これまでのRELATIONSを続けていきたい』という想いがある一方で、自分の本心としては『違う方向へ進みたい』という考えが芽生えていた」とおっしゃっていましたよね。

長谷川

はい。それまでは、主力事業の利益が安定していたため、メンバーの思いや意志を尊重して、積極的に新規事業への投資を行っていたんです。

ただ私自身、組織の混乱を目の当たりにしながら、新規事業へ投資したい気持ちもありつつ「長年ともに過ごしてきた、創業メンバーとの繋がりを維持したい」という、個人的な想いが強くなってもいた。

その本音を奥底に隠して”経営者”という鎧を被っていたことで、本来あるべき新陳代謝が行われず、様々な綻びが生じてしまったんだと思います。

安井

”経営者の鎧”を脱ぐ、というのは難しいですよね。「こうあってほしい」という社内外の期待をいくつも背負わなければならないですし。そこに、1人の人間としての「自然体」である難しさがあるなと。長谷川さんは、どのようにしてその鎧を脱ぐことができたのでしょうか。

長谷川

自己認識の積み重ねですかね。創業メンバー間でシステムコーチング(※)も行い、自分がどんな鎧を被ってしまっているのかについて、周囲の人からのフィードバックや内省を通じて受け止めるようにしました。

※2人以上のチーム、組織の「関係性」に対して行われるコーチングのこと

正直、対話を通じて本音を出すことの”痛み”はありましたが、結果として各人がより良い意思決定を行い、あるべき姿に落ち着いたのではないかと感じています。

安井

結構色々ありましたね。すべて、ここ1、2年の話ですもんね。

長谷川

そうですね(笑)。ただ、悩みながらも進んでこれたのは「1人でも多くの人が、充実した人生を送ってほしい」という願いだけは、ずっとブレずに手放さなかったからだと思います。

「ありのまま」の追求から対立は生まれる

安井

システムコーチングの効果、実際どうでしたか? ヒエラルキーであれば1:1のコミュニケーションが基本ですが、ホラクラシーやティールではn:nになって、より対話の難易度が上がる気がしていて。

長谷川

おっしゃる通り、いわゆる自律分散型の組織の方が対立は増えると思います。例えば、「遅刻がダメ」ということに対して、何故だめなのかと感じる人もいる。各々の「ありのまま」を追求すると、怠惰な部分の扱い方にも向き合う必要があります。

安井

メンバーが「ありたい姿」を目指すからこそ、生じる問題ですよね。一人ひとりの「ありたい姿」が、全く一致するはずはないので、対立は生まれてしまう。

長谷川

そうですね。面倒だと感じることを話さなければいけなくて、わかりやすく言うと、夫婦喧嘩に近いような感覚です(笑)。

安井

面白いですね(笑)。我々スカイベイビーズも自律分散型の組織を志向していますが、今のところはそんなに対立がない感覚なんです。社員数も17名ほどですし、私1人でマネジメントできる規模だからかなと。今後、メンバーが増えたら課題になりそうな気がしますけど。

長谷川

人数が増えると、価値観が混在していきますからね。メンバーがありのままであればあるほど、あれもこれもと、いろんなものが出てくる。なので、コントロールする役割としてホラクラシーのような規律が必要なのだと思います。

五感を解放して、「本音」をつなぐ

長谷川

システムコーチングを通じて、最近は「本音をつなぐ」がキーワードになると感じています。

しかし、「本音」が大切だとはいえ、職場で本音を出すことに違和感を感じたり、社会でも本音を出すことに恐怖を感じる人も多いですよね。

安井

そうですよね。こちら側からしても、「本音」を引き出すって、なかなか難しいなと。

長谷川

難しいのですが、意外と「焚き火」のような場を活用するのが良いなと思っています(笑)。

安井

焚き火、いいですよね〜。あの空間って、不思議と本音が出る。なんででしょうかね(笑)。

長谷川

今の人間社会では「脳」がリスペクトされていて、目と耳から入る情報がメインになっていますが、嗅覚や触覚などのリアルでしか味わえない情報ってありますよね。焚き火は「五感」を解放する場になるので、深い対話も成立するのではないかと。

安井

「五感」が重視されるようになれば、世の中の会社のビジョンも、RELATIONSさんの「ええ会社をつくる」のように、感情を重視したパーパスを掲げる会社が増えそうです(笑)。

そうして同じようなパーパスを掲げる会社が増えれば、会社という壁がなくなって、より個人の力が強くなりそうな気がしますね。

長谷川

そうですよね。とはいえ、その価値観は東京と地方ではまだまだ距離がありそうな気がします。会社の在り方について、地方では村社会の延長でコミュニティを成している方が心地良いのかもしれませんし、都会では優秀な人が自由に働ける環境を作ってあげるほうが良いのかもしれないな、と。

また、都会と地方では優秀さの測り方が異なる気がします。先ほどの、脳を中心としているのか、五感を中心としているのかの違いだなと。

安井

「優秀の物差し」は確かに違う気がしますね。都会の学校教育でも、五感を解放するカリキュラムが増えていますけど、現場が追いついていない印象です。

長谷川

私自身、偏差値教育はあまり信用していなくて。「個性」は生まれながらに宿っているはずなので、そこを発露させるような教育であって欲しいなと思います。最近では、「メタバース」も話題になっていますが、あれも脳で構成される世界ですよね。ちょっと怖いなと思ったりします(笑)。

安井

意識の世界といったらいいのか……確かにありますね、その怖いという感覚(笑)。

長谷川

キャンプやサウナがブームになっているのも、五感を再び開花させるために求める人が多いからかもしれないですね。

毎日同じであることが「自然体」ではない

安井

改めて、五感を解放した後の「対話」の重要度は上がってくる気がします。

長谷川

そうですね。弊社も普段はリモート体制ですが、リアルで話す意義は必ずあると言い続けていますね。

安井

リモートがメインだからこそ、会って話すなどの「祝祭性」は意識した方がいいのかもしれません。毎日同じであることが自然体ではない。それは自然と一緒ですよね。枯れることもあれば、芽吹くこともある。

長谷川

やはり「自然体」って難しいテーマですね(笑)。悟りに近いものだなと思います。私自身、20代前半は煩悩にまみれていたなと思いますし、「何者かにならなければならない」という強迫観念を抱えていた気がします。そうして周りの期待に応え続けてきたものの、ある到達点に達した瞬間に虚しさを感じてしまって。

安井

歳によって、そのあたりの価値観は変わってくるものですしね。

長谷川

「あれも違う、これも違う」と考えながら、今の自分にとっての「自然体」が存在していて、これは今後も変化していくだろうなと思います。

なので、「自分の心を動かす”衝動”は何か」という道標を見失わないことが大切だと思いますね。不要なものを手放しながら、新しい出会いを五感で感じる。その先に、自然体があるのではないかと思います。

安井

煩悩にまみれた時代を経たからこそ、気づくことがある。いま「悟り世代」といわれる子たちが、20年ほど働いたのちに何を思うのかが、私たちの世代とは違う気がします。好きなことで生きていける人が増える一方で、「成功」や「成果」といったものにどう真剣に向き合ったら良いのかを、いち経営者として伝える必要があるなと。

とはいえ、「やりたいことはなんですか?」と聞くことでさえハラスメントだと言われかねない時代なので、マネジメントの課題は山積みですね。

長谷川

こちらが対話を求めても、「そこまで追求したくない」と思われる可能性もありますからね。

安井

個人と組織にとっての自然体がそれぞれ存在している前提で、対話を通じてパーパスさえ擦り合わせられれば適度な距離を保てる気がします。

長谷川

やはり、「焚き火」が有効なのかもしれませんね(笑)。

安井

五感を解放し、本音で話すことが組織の自然体を実現する一歩になる。改めて、本日は貴重なお話をありがとうございました。

「本音」を出すのは、怖い

「人からどう思われているのか、気になってしまう。」

それは人間である以上、社会に所属する以上、仕方のないことだと思います。けれども、その不安や恐怖を乗り越えた先にこそ、築ける人間関係もあるはずです。

個人がより「個人」として生きる時代。会社も一つの拠り所に、つまりコミュニティとしての役割を果たすようになっていると感じます。

五感を解放し、お互いに泣き、感動し、怒り、笑い合う。そうすることで、不要な”鎧”からいつの間にか解放され、「自分らしく」在れるのではないか。

人間関係は面倒くさい、だからこそ面白い。改めてそう感じさせられた対談でした。

どのようなスキルを身につけるべきか、どれくらいの収入が欲しいのか、そういったことよりも「自分が自分らしく在れる場所」を求めて仕事を探す人が増えますように。その受け皿となる企業が増えたらいいなと思います。


ソラミドについて

ソラミド

ソラミドは、自然体な生き方を考えるメディア。「自然体で、生きよう。」をコンセプトに、さまざまな人の暮らし・考え方を発信しています。Twitterでも最新情報をお届け。みなさんと一緒に、自然体を考えられたら嬉しいです。https://twitter.com/soramido_media

執筆

吉井萌里
ソラミド編集部

96年生まれ。福井県出身。フリーランスでライター、マーケティングの仕事をしています。日本の「生きづらさ」の原因、を模索中。精神的に豊かで居られる社会づくりに貢献したい。義理と人情で生きてます。
Twitter: https://twitter.com/xlxlxler_mel

撮影

飯塚麻美
フォトグラファー

東京と岩手を拠点にフリーランスで活動。1996年生まれ、神奈川県出身・明治大学国際日本学部卒業。旅・暮らし・ローカル系のテーマ、人物・モデル撮影を得意分野とする。大学時代より岩手県陸前高田市に通い、おばあちゃんや漁師を撮っている。2022年よりスカイベイビーズに参加。
https://asamiiizuka.com/