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キャリアの踊り場に立つあなたへ。大人の自己分析で、自分らしさを見つめ直そう(中野崇さんインタビュー)

社会人になりそれなりの年月が経ち、日々忙しく仕事をしているものの、なんとなく毎日が過ぎていくばかり。「このままでいいのかな?」という、漠然とした焦りや不安。生き方や働き方を見直そうとあれこれ考えるうちに、「自分は何のために仕事をしているんだっけ?」「そもそも、本当は何をして生きていきたいんだったかな?」……と、ぐるぐる。そんな経験はありませんか?

今回は、30、40代向けの自己分析サービスの提供や、キャリアデザイン・ライフデザインの支援などを行うZokuZokuConsultingの代表・中野崇さんにインタビュー。

誰もが直面しうる“キャリアの踊り場”を乗り越えるためのヒントをもらいました。

中野崇(なかの・たかし)さん

株式会社Breezy 代表取締役社長/Zoku Zoku Consulting 代表

早稲田大学教育学部教育心理学専修卒。良品計画を経て2005年にマクロミルへ入社。営業・営業企画からキャリアをスタートした後、上海支社の立ち上げ、取締役として韓国支社の経営再建、執行役員としてSaaS型の事業開発・統合マーケティング部門の立ち上げ・グループ全体のMission/Vision/Value策定など、第2創業期の要職を歴任。最終的には電通マクロミルインサイト(社員約200名・年商50億円以上)の代表取締役を務め、経営改革・組織改革を推進。

現在は株式会社Breezyで教育事業、個人事業ZokuZokuConsultingの代表では自立支援型新規事業開発と組織開発の統合コンサルティングを提供。経営・現場・外部支援者それぞれの経験値をもとに、実効性がある伴走型のコンサルティングを得意としている。 

また、一連の情報発信を通して、自分らしい生き方・働き方の実現に有効な考え方やビジネススキルの向上を支援している。

「好き、楽しい、嬉しい」が、価値観の軸になる

──たくさんの人のライフデザインやキャリアデザインをサポートされ、ご自身もさまざまなフィールドでキャリアを積まれてきた中野さんですが、実際にキャリアの踊り場はあると感じますか?

そうですね。キャリアの踊り場は、誰もが直面しうるものだと思います。仕事の内容や企業の規模など、環境によってタイミングは変わりますが。特に踊り場に立ちやすいのが、30歳前後。仕事をひと通り覚えて、先輩のフォローなしで業務を回せるようになったタイミングで、「今の環境では学ぶことが少なくなってきた」と感じる人が多いようです。

また、なかでも今の20代はデジタルネイティブなので、知りたい情報やコンテンツを瞬時に手に入れることが当たり前になっています。そのため、短い期間で成果を求める傾向があり、「このままでいいのか?」と、早くからキャリアに悩む人が増えているようにも思います。

──中野さんご自身も、踊り場に立ち、悩んだ経験があるのでしょうか。

もちろんありますよ。私も何度か転職をしていますが、20代から30代にかけてのキャリアチェンジは、成長の鈍化を感じたことによるものでした。このままの延長で仕上がる自分の姿に、なんとなく焦りや、不満足感を覚えていたんです。

私は現在40代半ばですが、40歳前後になると、悩みの質が変わってきましたね。立場が上がるにつれて責任が重くなり、「本当にやりたいこと」と「やらなければならない仕事」のズレが、どんどん大きくなっていくんですよ。実際に40代以上の方からのキャリア相談では、「給料は増えているけれど、責任ばかりが大きくなって楽しくない」という話をよく聞きます。

──ステージによって悩みの種類は変わっていくものの、キャリアの踊り場は誰にでも訪れるもののようですね。では、いざそういう状況に陥ったとき、状況を打開するには何をすればいいのでしょうか?

まずは自己分析をして、自分の価値観や大切にしていること、好きなこと、楽しいことを見つめ直しましょう。具体的なワークとしてはシンプルです。楽しかった思い出とその理由を、セットで振り返ることを積み重ねていく。たとえば、自分が仕事を通して成長を実感でき、自信を持てた経験が楽しかったのなら、その人にとっては成長感が重要だということになります。チームのメンバーと笑って過ごす時間が楽しかったのなら、仲間との協力だったり、コミュニケーションを大切にしながら仕事をするのが好きということになりますね。

──就職活動時に自己分析をやった人も多いと思いますが、大人になった今だからこそ改めてやるべきということですね。

それもありますが、就職活動のときの自己分析は、会社に入るためのものなんですよね。内定をもらう確率を高めることが目的になっている場合が多く、価値観を見つめ直すというよりは、好き嫌いに関わらず“強み”を自覚するためのものになっている。そうではなく、自分の楽しい、嬉しい、好きというポジティブな感情が高まる要素を発見する目的で、自己分析をしてほしいのです。

就職活動時の自己分析では、「WILL・CAN・MUST(やりたいこと、できること、やるべきこと)」の3軸で考えられることが多いです。このなかでもMUSTは「会社のミッションと重なると働きがいを感じやすい」という理由で軸に据えられ、つまりは他者の価値観に照らし合わせるためのものになっていると私は捉えています。

価値観を見直すための自己分析では、他者の価値観に照らし合わせる必要はありません。そのため、私がキャリアサポートするときにはMUSTではなく、“KNOW”を軸のひとつとして考えてもらっています。KNOW、つまり知っていることや興味関心のあることが、楽しい、嬉しい、好き、とポジティブな感情が高まる要素につながっている場合が多いからです。「ほかの人より知っていること」「教えることが多いこと」などを振り返ってみるのも、KNOWを洗い出すのに役立ちます。そして、WILL、CAN、KNOWが重なった部分が、自分自身の強みというわけです。

──ちなみに、身近な人に他己分析してもらうのも方法としてはアリでしょうか?

自分をさらけ出せるような親しい相手になら、意見を聞くことも有意義かと思います。ただし、近くにいる人に盲目的に意見を求めても意味がありません。ある程度同じ時間を過ごし、行動をともにし、お互いを理解できている相手でなければ、本当の価値観は見えませんから。

僕の場合は、38歳のときにライフコーチをつけ、コーチングを受けることにしました。僕は、キャリアに悩むとさまざまな本からヒントを探すことが多いのですが、「相性の良いコーチとの時間は、本当の自分を見つめ直すのに良い」と書いていた著者が複数いました。ちょうど信頼していた元同僚がコーチングを始めたと聞き、その人にお願いしてみたところ、僕には合っていたんです。相性の良いコーチに出会えれば、ぐんと自分を見つめ直しやすくなるので、一度試してみる価値はあると思います。

あとは、価値観を見直すという目的からは少し逸れますが、強みや資質を振り返る自己分析ツールとして、ストレングスファインダーやMBTI診断を活用するのもおすすめです。ストレングスファインダーは自分の強みや資質を特定するためのもので、仕事で成果を出しやすいスキルを見つけるのに役立ちます。MBTI診断は、もっとパーソナリティ的な気質を教えてくれるものです。

──自己分析を通じて自分の価値観が見えてきたら、次のステップは何をすればいいですか?

価値観に沿った時間、つまり「楽しい、嬉しい、好き」と感じられる時間を現状でどれだけ過ごせているか、数字で把握することをおすすめします。たとえば、「家族と過ごす時間」が大切なら、1週間のうち、どのくらいの時間を家族と過ごせているか、数字を出してみる。キャリアに悩む人がこの作業をやってみると、驚くほどに少ない時間であることが多いです。心から楽しいと思える時間を今よりも増やしたければ、そのぶん別の時間を減らす必要があります。数字で把握することで、何をどれだけ減らすべきかといった次のアクションプランが立てやすくなるので、幸せを高めるための具体的な行動に移りやすくなります。

僕自身の体験談をお話しすると、自分の時間を数字で整理した結果、不必要だと思う会議やそのための資料作成時間が苦痛だということを再認識しました。そこで、それらの時間を半分にすることを決めて、毎週行われていた会議を隔週にするなどして、苦しい時間をなんとか減らすことができたんです。僕の場合は当時は会社に所属したまま状況を変えることができましたが、それができない環境であれば、転職を考えてもいいと思います。

自分らしいスキルを伸ばし、キャリアを築いていくために

──ここまで、キャリアの踊り場を乗り越えるためのポイントを伺ってきましたが、自己分析を通じて、自分らしさをじっくりと見つめ直すことがやっぱり大事ということですね。

そうですね。自分らしさは、行動・意見・持ち物・住んでいる場所・仕事など自分に関わるすべての要素が混じり合って表現される「色」であり、その色は人の数だけあります。その色を構成している要素や割合を、自己分析によって解像度を高めていくことで、自己理解が進んでいくのです。

もし自己分析をしても、価値観、つまり大切なことや好きなこと、楽しいことがわからない……となってしまう場合は、単純に思考不足や判断材料不足なことが多いです。親に言われたままに勉強する、みんながやっているから就職活動をする、上司に言われた仕事だけをする……といったように漫然と時間を過ごしていると、そもそも自分の価値観で選択をする機会がなく、自分らしさが形成されません。

自分らしさを形成する要素を集めていくためにも、仕事でも、それ以外のことでも、とりあえず自分の心が動きそうなことを、主体的にいろいろとやってみる。それで明らかに合わないもの……たとえば心身に不調が出るほど苦しさを感じるようなもの以外は、その仕事や物事をより「深く理解する」、上手くなるよう「試行錯誤する」、というのを最低でも1、2年は続けてみるといいのではないでしょうか。

──すぐにやめてしまうのではなく、ある程度の期間は掘り下げてみることが大切なのですね。

どんな物事でも、掘り下げれば非常に多くの学びを得られるものです。でも、この掘り下げや試行錯誤をしないまま、漫然と過ごしている人は多いと思います。もったいないですよね。極端な話、日常の掃除だって突き詰めれば、化学反応の知識が必要になったりもするわけです。汚れが落ちるメカニズムを理解し、汚れに応じた適切な洗剤を選ぶことに活かす、という具合に。このように、学びのきっかけはありとあらゆるところに転がっています。

冒頭でも「若い世代は、成果を早く求める傾向がある」と話しましたが、ある程度時間をかけて成長することの楽しさや、それによってできることが増えて選択肢が広がり、自由度が高まるという経験を積んでいない人が増えていると感じます。今の40代以上の世代は“盲目的な成長主義”に染まってきた人が多いと思っていて、僕自身も成長することに大きな喜びを感じてきました。「成長が絶対的な正義」とは思いませんし、望まない人に強要するつもりはありませんが、良さを知らないままつまらないことだと決めつけるのはもったいないな、と。

──それぞれのペースで成長し、スキルを高めていくことができれば、自分らしい生き方を実現するための武器にもなっていきそうです。

そうなんですよね。だから、キャリアに悩んでいる人にも、「焦るな」とは言いたいです。ものにならないまま、半年や1年単位でぴょんぴょん動いたり目移りしたりっていう人は結構多くて、それだと結局何も身につかないんですよね。“キャリアの先食い”なんて言ったりもしますが、今は売り手市場だから、それほどスキルがなくても、それなりにポジションと給料を上げられる場合も多い。でもやっぱりそれでは、将来的に「結局、自分には何もできることがない」と、立ち行かなくなってしまう恐れがあります。結局はスキルがあればなんとかなるので、スキルを身につけることに向き合うべきだと思います。

僕自身、新卒で販売店員、その次に営業をやってきたので、“売る力”はスキルとして高めてくることができました。ビジネスは何事も売上から始まるので、売る力さえあれば、どこかしら雇ってくれる会社はある。そう思えたおかげで、今は独立して仕事ができている部分が大きいです。僕は結構ビビりだし、リスクヘッジしたがるタイプなので、「いざとなったらこれがあれば食っていける」というスキルがあるのは、精神的にもかなり楽ですね。

もし、今いる環境でどんなスキルを伸ばすことができそうか、いまいちイメージが湧かない場合は、社内の同じ職種の人で、パフォーマンスや成果が高い人に話を聞いてみるといいかと思います。「この仕事でどんなスキルが身についていると感じますか」とか「この仕事のどんなところが楽しいですか」とか。優秀な人は、絶対にそのあたりも意識しながら仕事をしているはずなので。

そしてここでも、自己分析をしっかりできているかが鍵になります。自分の価値観の軸をはっきり自覚しないまま周りばかり見ていると、あれがいいかも、これがいいかもと目移りしてしまう。大切にしていることや価値観を自己分析で明らかにしておけば、自分に合ったスキルを見極め、伸ばしやすくなります。今の仕事や環境に疑問を感じるなど、キャリアの踊り場に立たされたと感じたら、まずはじっくりと自分自身を見つめ直してみる。そして、自分に合ったスキルを伸ばしていくことが、自分らしいキャリアを築いていくための礎になっていくのだと思います。

──キャリアの踊り場を抜け出し、自分らしい生き方を実現するには、自己分析の結果を活かしてしっかりとスキルを身につけていくことも大切なのですね。ついつい、転職などによって環境を変えることを第一に考えがちですが、きちんと価値観を再確認し、大切にしたいものを見極めることができれば、今いる環境のままやり方を工夫して状況を良くしたり、意識を変えてスキルを磨くことに力を入れたりと、選択肢がぐんと広がりそうです。これからの生き方、働き方をより良くするためにも、まずはじっくりと自分自身を見つめ直してみたいと思います。今日はありがとうございました!


ソラミドmadoについて

ソラミドmado

ソラミドmadoは、自然体な生き方を考えるメディア。「自然体で、生きよう。」をコンセプトに、さまざまな人の暮らし・考え方を発信しています。Twitterでも最新情報をお届け。みなさんと一緒に、自然体を考えられたら嬉しいです。https://twitter.com/soramido_media

取材

安井省人
株式会社スカイベイビーズ代表取締役/クリエイティブディレクター

クリエイティブや編集の力でさまざまな課題解決と組織のコミュニケーションを支援。「自然体で生きられる世の中をつくる」をミッションに、生き方や住まい、働き方の多様性を探求している。2016年より山梨との二拠点生活をスタート。
note: https://note.com/masatoyasui/

執筆

笹沼杏佳
ライター

大学在学中より雑誌制作やメディア運営、ブランドPRなどを手がける企業で勤務したのち、2017年からフリーランスとして活動。ウェブや雑誌、書籍、企業オウンドメディアなどでジャンルを問わず執筆。2020年からは株式会社スカイベイビーズにも所属。
https://www.sasanuma-kyoka.com/

撮影

飯塚麻美
フォトグラファー / ディレクター

東京と岩手を拠点にフリーランスで活動。1996年生まれ、神奈川県出身。旅・暮らし・人物撮影を得意分野とする。2022年よりスカイベイビーズに参加。ソラミドmado編集部では企画編集メンバー。
https://asamiiizuka.com/

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