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興味の広がりと深まりが、自分の輪郭を明確にしてくれる│大人の習いごと図鑑vol.1「茶道」村田舞さん

自信をつけたり、新たな居場所を見つけたりと、自分を愛する気持ちを高めるためにおすすめなのが、”習いごと”。

習いごとは、今まで触れたことのない世界に触れ、新しいことを知り、「できた!」の成功体験を積み重ねる、とても前向きな行いです。

私(ソラミド編集部・笹沼)自身、なんだか自己肯定感が上がらず成長も停滞気味でモヤモヤとしていたときに、その状況を打破したくて習いごとを始めた経験があります。その結果、新しく世界が開け、前向きになることができました。

同じように日々モヤモヤを抱えて過ごす人や、前向きになりたい人に、習いごとの良さを知ってほしい。そんな思いで生まれたのが、ソラミドmadoの連載企画『大人の習いごと図鑑』です。実際に習いごとを楽しむ人にお話を聞き、それぞれの習いごとの魅力を紹介するとともに、その人の内面やライフスタイル、お仕事などにどんな影響があったかについて探ります。

第一回のテーマは「茶道」。普段はキャリアコンサルタントとして活躍しながら茶道を習う、村田舞さんにお話を聞かせてもらいました。

「正解」がある安心感と、世界を広げ、深める楽しさ

──いつ、どんなきっかけで茶道を習い始めましたか?

3年ほど前なので、2021年ごろ。ちょうどコロナ禍のときに始めました。なかなか人と会えないし、時間があるし、旅行もできないのでその分のお金が浮いていたし……ということで、何か習ってみようと思い立ったのがきっかけです。

──なぜ、茶道だったんでしょう?

私、もともと日本の文化や歴史に興味があって、着物を着るのも好きなんです。お茶菓子がおいしそうだなぁ……というのも、魅力的に映りました(笑)。

それに以前、母が茶道を習っていたことがあって。家にある茶道具を使って、母にお茶を点ててもらうこともありました。あとは、私が通っていた中学校と高校にもお茶室があったり。そんな感じで茶道は、幼いころからずっと身近な存在だったんです。だから、いつか学んでみたいと思っていました。

──実際に習い始めてみて、どうでしたか?

とにかく覚えることが多くて、難しいですね。今、お教室に通っているのは月に2回と決して頻度は高くないですし、限られた時間でたくさんのお作法を身につけるには、なかなか根気が必要です。季節によってお作法が変わるというのもあって、覚えることが次から次へとやってくるんです。

でも言い方を変えれば、茶道の場合は、決まったお作法を「とにかく覚えればいい」んです。生きていると、絶対的な正解があることってあんまりないと思うんですよ。でも茶道では、決まった手順に従っていれば、とてもきれいで理想的な所作を、誰でも身につけることができます。

私は今、キャリアコンサルタントとして主に20代、30代の方向けにキャリアのサポートをしています。一人ひとりの生き方や働き方に、絶対の正解なんてもちろんありません。そんな不確かさと日々向き合っていることもあってか、「全部決まっていること」に、どこか安心感をおぼえるんですよね。

──確かに、「決められたことにとことん従う」経験って、大人になるとなかなかありません。

ちょっと前の時代では、仕事でも何でも、とにかく言われたことを正しくこなすことが評価される場面が多かったし、今でも学校教育などではそういう色が残っていたりしますよね。それなのに最近では、社会に出た途端「自分で考えて、自分の道を歩みなさい」みたいなことを言われるようになって、戸惑う人も多いと思います。

茶道では余計なことを考えずに、とにかくお作法を決まりどおりに覚えることに集中できる。それが、リフレッシュになるんです。だから、自分のやりたいことがイマイチ分からない人だったり、「自由に考える」ことに疲れちゃった人に、茶道は特におすすめですね。

──茶道に、そんな面白さがあったとは。新たな発見です。

それに茶道って、すごく深掘りのしがいがあるんですよ。

細かく決められたお作法には、すべてに奥深い理由があります。たとえば、お茶を飲み切るときに最後に音をたててすするのは、客のほうを向かずに座っている亭主に「飲み切りました」と知らせるため。茶道では、こうやって音が合図になることが多々あるんです。

私は物事のルーツを知るのが好きなので、お作法が確立した背景や歴史を学ぶのも楽しくて。ほかにも、器やお茶菓子、お花など、深掘りできる要素がものすごくたくさんあるのもいいんですよね。実際にこれまで、有名なお茶菓子を見にお店を訪ねたり、器の展示会に行ったりしたこともあります。私は今京都に住んでいるのですが、茶道をきっかけに京都の文化や街に興味を持ったというのも、移住を決めた理由のひとつでした。

最近は茶箱に興味があって、マイ茶箱をゲットしたいと思っているところ。お気に入りの茶箱が手に入ったら、鴨川で野点(のだて:野外でお茶を点てること)をしてみたいですね。そのためには、使いこなすための技術もきちんと習得しなきゃです(笑)。

──ぐんぐん興味が広がっていきますね。茶道をすごく楽しまれているのが伝わってきます。

こうやって、いろんな方向に興味が広がっていくことで、自分の輪郭が明確になっていくところも、茶道の面白さなんですよね。

──自分の輪郭が明確になっていく?

知らなかったものを新しく知って、そのいくつかにさらに興味を持って、深掘りして、そこからもっと世界が広がって……と繰り返していくなかで、「こんなことに興味を持つ自分もいるんだな」と、自分の新しい側面に次々と気づけるんです。

輪郭が明確になっていくひとつひとつの過程は、ありのままの自分を知り、受け入れることの繰り返しでもあります。こうして自己理解を重ねていくことは、キャリアコンサルタントの仕事にもかなり良い影響があると感じています。

キャリアコンサルタントの仕事は、カウンセリングやコーチングを通じて、日々相手の生き方や価値観に触れます。そのためには深く対話を重ねるので、こちらも自分を取り繕うことができません。だから、私自身がきちんと自分自身を理解し受け入れ、いきいきと楽しく生きることが大切なんです。毎日つまらなさそうに生きている人からキャリアのアドバイスをもらっても、相手は不安になってしまいますから。

私は今、茶道のおかげで自分を知ることができているし、興味の赴くままに世界を広げられて、毎日がすごく楽しい。私にキャリアサポートを依頼してくださる方は、「村田さんは楽しそうでいいな」って言ってくれることが多いんです。そうやって、私自身が実際にいきいきと過ごせていることが、信頼につながっているのかもって。

──とても素敵です。習いごと、そして茶道の存在が、村田さんの人生を豊かにしているのですね。

自分を知り、いきいきと楽しく生きるためには、心惹かれることに夢中になることが大切なんだろうなと思います。私にとっては、そのひとつが習いごとであり、茶道なんです。

私自身が楽しく生きている姿を見て、「なんだか楽しそう」「そんな生き方もあるんだな」と思ってもらえたらいいなって。それで、生き方の選択肢のヒントを届けられたら、キャリアコンサルタントとしてもうれしいです。これからも茶道を習うことで、いろいろなことに興味を持ち、世界を広げ続けていきたいと思います。

裏千家茶道教室 樹庵

ここからは、村田さんが通う茶道教室をご紹介。

東京・目白にある「裏千家茶道教室 樹庵(じゅあん)」が始まったのは、2017年10月。現在は45名の生徒さんが茶道を学びます。主な年代は30代から50代。性別も職業もさまざまです。

「裏千家」の流派は、千利休を祖とし、その精神を継承する茶道流派のひとつ。伝統を守りながら、現代社会にも適応する茶の湯文化を実践し、次世代へと受け継ぎます。数ある流派のなかでも裏千家は最大規模で、海外でも茶道の普及に力を入れているそうです。

樹庵の飛田早苗先生いわく、教室で大切にされているのは、茶道のみならず生活のなかで忘れられがちなマナーも含め、丁寧な指導を行うこと。

「お稽古を重ねると、心のこもった一碗のお茶で、お客さまと穏やかな時間を共有できるようになります。お稽古を通して所作の美しさを身につけるとともに、和の文化・日本語の美しさへと理解を深め、四季の移ろいを敏感に受け取る感性を磨いていただけたら。お茶の心構えでもある『和敬静寂(わけいせいじゃく:主人と客人が互いの心を和らげてつつしみ敬い合い、落ち着いた心を保つこと。また、茶室の品々や雰囲気を清浄な状態に保つこと)』を理解するためには、四季の風物詩に興味を持ち、小さなこと、弱き人にも目を向け、さまざまな人と公平に、柔和に接することが大切です」と、飛田先生。

とても人気な教室で、なかなか空きが出ないこともあるそうですが、教室見学などのお知らせはホームページで随時更新されるとのこと。東京で茶道を習うことを検討中の人は、チェックしてみてはいかがでしょうか。

裏千家茶道教室 樹庵
http://juan-tokyo-urasenke.com/

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日本の伝統文化のひとつでもある「茶道」。

なんとなく格調高いイメージがあり、ちょっぴりハードルの高さを感じていました。でも「正解がある安心感」「とにかく覚えることに集中できる」といった村田さんの言葉や、村田さんご自身が心から興味を持ち、世界を広げていくことを楽しむエピソードを聞かせてもらったことで、その存在が少し身近になったような気がします。

『大人の習いごと図鑑』では、今後もさまざまなジャンルの習いごとにフォーカスし、ライフスタイルやキャリアにどんな良い影響があるかお話を聞いていきたいと思います。次回もお楽しみに。

ソラミドmadoについて

ソラミドmado

ソラミドmadoは、自然体な生き方を考えるメディア。「自然体で、生きよう。」をコンセプトに、さまざまな人の暮らし・考え方を発信しています。Twitterでも最新情報をお届け。みなさんと一緒に、自然体を考えられたら嬉しいです。https://twitter.com/soramido_media

取材

佐藤純平
ソラミド編集部

ああでもない、こうでもないと悩みがちなライター。ライフコーチとしても活動中。猫背を直したい。
Twitter: https://twitter.com/junpeissu

執筆

笹沼杏佳
ライター

大学在学中より雑誌制作やメディア運営、ブランドPRなどを手がける企業で勤務したのち、2017年からフリーランスとして活動。ウェブや雑誌、書籍、企業オウンドメディアなどでジャンルを問わず執筆。2020年からは株式会社スカイベイビーズにも所属。
https://www.sasanuma-kyoka.com/

撮影

飯塚麻美
フォトグラファー / ディレクター

東京と岩手を拠点にフリーランスで活動。1996年生まれ、神奈川県出身・明治大学国際日本学部卒業。旅・暮らし・ローカル系のテーマ、人物・モデル撮影を得意分野とする。大学時代より岩手県陸前高田市に通い、おばあちゃんや漁師を撮っている。2022年よりスカイベイビーズに参加。
https://asamiiizuka.com/

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