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夢を掲げられなくても大丈夫!“加算型”で、自分らしくキャリアを築くコツ(高部大問さんインタビュー)

自分には、“夢”がない。

だから、ここまで流れに身を任せながら生きてきた。

周りには素敵な夢を掲げて頑張っている人がいるのに、どうして自分は夢を持てないんだろう?

夢を持てないと、「向上心のないやつ」と思われそうな気がして、なんだか劣等感を抱いてしまう……。

そうやって、“夢”が持てない自分自身や、夢を強要してくるような世間の風潮に対して漠然としたモヤモヤを感じていたところ、「ドリーム・ハラスメント」という言葉があることを知りました。

「ドリーム・ハラスメント」とは、「夢を強要すること」。

このような言葉が生まれているということは、同じように、“夢“に関してモヤモヤを抱えたり、夢を持てないまま人生を歩むことに不安を抱えたりしている人が多いのではないでしょうか。

そこで今回は、著書で「ドリーム・ハラスメント」を世に広め、若い世代の夢の捉え方について数々語ってきた高部大問(たかべ だいもん)さんにインタビュー。

夢がなくても前向きに、自分らしくキャリアを築いていくためのコツを教えてもらいました。

高部大問(たかべ・だいもん)さん

1986年淡路島生まれ。慶応義塾大学卒業後、中国留学を経て2010年にリクルートに就職。2014年に大学事務職員へ転職し、学生のキャリア支援に携わる傍ら、執筆活動や講演活動などを行う。2024年に大学を退職し、独立。著書に『ドリーム・ハラスメント』(イースト・プレス)など。

「夢を持って当たり前」という風潮に苦しむ若者がたくさんいる

──高部さんは著書『ドリーム・ハラスメント』で、夢を強要される風潮や、それに苦しむ若者の声について述べられています。そういった若者の“夢”を取り巻く状況について、いつ、どのように問題意識を抱くようになったのですか?

世間でのドリーム・ハラスメントの存在を明確に認識するようになったのは、大学職員時代、高校生向けに講演活動をしたのがきっかけでした。その講演は、就職やキャリアをメインテーマにしたもので、決して“夢”の話は主題ではなかったのですが、講演後のアンケートには「今まで夢を強制される風潮が嫌だったけれど、無理に夢を持たなくてもいいんだと思えて救われました」など、夢に関するコメントが多く寄せられたんです。いくつかの学校で講演を行い、当時集まったアンケートは全部で約1万人分ほど。そのうち、2500人ほどの生徒さんが夢についてのコメントを書いてくれ、その多くがネガティブ寄りのコメントでした。若者が、こんなにも“夢”に苦しんでいるんだと気付かされましたね。それで、加害者が誰かは別として、この状況は“ハラスメント”と言っても過言ではないのかもしれないと思うようになりました。

──どうして、夢を持たねばならないという風潮が生まれたのだと思いますか?

僕としては、「キャリア教育」の広がりがひとつのきっかけになっていると思います。誤解を生まないように先に言っておくと、キャリア教育自体は悪いものではありません。ただ、キャリア教育が推し進められるようになった背景や意図の部分に、「夢を持つべき」という風潮へとつながる種があったと考えられます。

まず、国がキャリア教育に力を入れるようになった背景には、定職に就かない人や、超早期退職する若者が増えていることに対しての問題意識がありました。高齢社会で労働人口が減少していくなか、若者の仕事が長続きしないことに、国は危機感を抱いたわけです。

そこで、「若者たちが自発的に頑張り、キャリアを築ける社会を作ろう」と考えた結果、「誰もが夢を持てる社会に」とか「夢に向かって努力すれば素敵な未来が待っている」といったメッセージが、教育現場の至るところに散りばめられるようになったのでは……と、私は考えています。実際に、自治体や教育機関向けに文科省などから発されたキャリア教育に関する指針についての通知書類にも、“夢”というワードが散見されます。

夢という存在自体は本当にすばらしいもので、特に批判の対象になるものではありませんから、教育現場の先生たちや保護者も含め、みんなで青写真を描き、「子どもたちに夢を持たせよう」といった風潮が加速したのではないでしょうか。

──その結果、「夢を持って当たり前」という空気が生まれ、若者たちは強制されているような息苦しさを感じるようになってしまったのですね。

そこはある意味、大人の目論見が外れたのでしょうね。キャリア教育を推進し始めた人たちは、「夢は本人たちが決めることだから」と、決して強制しているつもりはありませんでした。でも実際には、夢という抽象的なものを強制していたわけです。それで一定数の子どもたちや若者が苦しむことになったものの、その対策はあまり取られてきませんでした。

また、インターネットの普及も、若者たちが“夢”を描きにくくなるひとつの要因になっていると感じます。ネットを活用すれば、興味のあることや自分の進みたい道、目指したいキャリアについてさまざまな情報収集ができ、夢を叶えるための非常に心強いツールにもなり得ますが……なんでも情報が手に入るからこそ、今の若者は“健全な勘違い”ができなくなっているんです。

──健全な勘違い……? どういうことでしょう?

何か得意なことや興味のあることを見つけても、SNSなどで自分よりすごい人がいることをすぐに知ってしまうんですよね。そうすると、“夢”を描く前に、どこか諦めの気持ちが生まれてしまう。ネットが普及する前は、もっとまっすぐに夢を描くことができていたと思いますが、子どものころからネットに触れていると、現実主義寄りになってしまうというのはあるでしょうね。

「脱・潔癖症」で、自分らしさのパーツを見つける

──夢を持たない人は、どうやってキャリアを築いていくのがいいんでしょうか?

夢がなくても、目の前のことにコツコツ取り組むことでキャリアを積み上げていく、いわゆる“加算型”でも大丈夫ですよ。そうやって生きる人のなかには「自分は成り行きで生きてしまっているから……」と、自分を卑下してしまう人も多いのですが、加算型も立派なキャリアの築き方です。

加算型の場合、そのときは点でしか見えなかったものが、あとから線になり、星座のように“その人らしさ”が浮かび上がってくるということがあります。まさか活きると思わなかったスキルや経験が、あとあと人生で役に立った……なんてことも少なくありません。だから加算型キャリアでは、自分らしいキャリアの実現へとつながっていく“点”を、どう見つけていくかというところがカギになっていくと思っています。

──なるほど。“点”を見つけるコツや、心がけるべきことはありますか?

僕としては「脱・潔癖症」を意識してほしいですね。

多くの人は、自分が好まない人や物事とはできるだけ接触を避け、自分と波長が合う人や物事と接していたいと思うのではないでしょうか。そうすることで、自分らしくいられると感じるのでしょう。

ですが、それでは本当の自分らしさは見えてこないかもしれません。苦手そうだと思っていた物に触れてみると意外と興味を持てたり、なんとなく合わないかも、と思っていた人と関わってみると、自分の新たな一面に気づくことができたり。自分らしさを色にたとえると、赤に近づけば自分は青だと認識できたり、青だと思っていたけど実は赤だったと知れたりするわけです。実際には、自分の色は最初よく分からないものなので、いろんな色と接近してみることで、自分の色がはっきりしてくるように思います。「あれは好きだ」「これは嫌いだ」と決めつけずにいろいろ試しながら“点”を見つけることで、自分らしいキャリアの形成につながっていくと考えています。

──確かに、自分自身を完璧に理解できている人なんて、きっといませんよね。先入観を捨ててさまざまな物事に触れることで、少しずつ自分らしさを見つけることができるのですね。

僕自身、大学職員を辞めてから、現在は転職活動をしているところなんです(※2024年6月時点)。転職エージェントの方には「軸を決めましょう」と言われるのですが、僕も自分のことを完全に理解できているわけではないので、「急がないでください」と言いたくなります(笑)。僕もリクルートで採用の仕事をしていたことがあるので、軸を聞きたくなる気持ちは理解できるんですけどね。だから現時点ではこちらの職務経歴書をとりあえず見てもらって、業界や職種を問わず全部紹介してください、とお願いしています。すると、本当に思ってもみなかったような企業から連絡がくることもあって。そのひとつひとつの出会いが、自分の心の反応を確かめる良い機会になっています。

──「軸を決めてください」と言われたら、多くの人は「決めなくちゃ……」と素直に従いたくなりそうですが、高部さんはブレずに、自分が正しいと思う道を歩まれていますね。

シンプルに、意固地なだけとも言えるかもしれません(笑)。

でもやっぱり、要所要所で譲ってはいけない部分もあると思います。僕も八方美人的なところがあるし、譲ってきた過去もたくさんあります。でも、人の一生ってあっという間です。日本は平和な国とはいえ、人が明日も変わらず元気に生きているという保証は、誰にもできません。一度きりの人生を悔いなく全うするためにも、自分の心に正直に生きるのがベストじゃないでしょうか。もちろん、法を犯したり、誰かを傷つけたりすることのない範囲で、ということにはなりますが。

動き回ってこそ、定まる軸がある

──ここまでお話を聞いて、夢がなくても前向きにキャリアを築いていくには、潔癖になりすぎず、いろいろな人や物事に触れながら、自分らしさを見つけていくことが大切なのだとわかりました。そして、納得いく道を歩むためには、自分の気持ちに正直に、強い心を持って“譲らぬ姿勢”を貫くことも大切だと。でも、そうやって自分の気持ちに従って生きることは、ときには世間のマジョリティから外れることにもなったりして、なかなか大変なことも多いですよね。

そうなんですよ。やっぱり、ある程度サバイバルのスキルが必要なんですよね。群れの中で目立たずに生きるという選択は、遺伝子を残すという意味では賢明なことなんです。今も昔も、自由に生きようとすると、群れから外れることになる場合が多い。そして、群れから外れて生き延びるためには、スキルが必要だと思います。

──自分の正直な気持ちに従い、自由に生きるには、社会というジャングルのなかで生きるためのスキルを身に付ける必要があるということですね。

そう思います。

スキルは人それぞれ、何でもいいとは思いますが、「人たらし」のスキルは育てておいて損はないでしょうね。

職能的なスキルがどんなに高くても、一緒にいたいと思われなければ関係は続きません。逆に、職能的なスキルが未熟でも、一緒にいたい、助けたい、と思わせる人は、仕事も人間関係も途切れることがないですよね。

──確かにそうですね。「人たらし」のスキルは、どうすれば身につけることができそうでしょうか……?

人たらしのスキルを育てることはつまり、人間としての魅力を高めること、そしてコミュニケーション能力を磨くことだとも言えます。そのためには、人と本音でぶつかりあう経験が必要なんじゃないでしょうか。今の時代、子どものころから野性的な遊びをしたり、喧嘩をしたりということはほとんどなくなっていて、大人が定めたルールの中で遊び、育ってきた若者がほとんどだと思います。そうすると、人生において人とぶつかりあう機会がかなり少ないんです。だから、仕事でもプライベートでも、人間関係にどこか距離感を感じる場合が多い。常に距離感を感じさせる状態では「人たらし」になるのは難しいですよね。

「本音でぶつかりあう経験が必要」と言っても、どうやって? と思われるかもしれませんが……ここでも、「脱・潔癖症」がキーワードになってきます。先入観を捨ててさまざまな人と交流していると、ときには意見がぶつかり合うこともあると思います。そのなかで適切な距離感を学ぶことが、「人たらし」のスキルへと役立つのではないでしょうか。

──「脱・潔癖症」でさまざまな人や物事に関わり続けることが、自分らしさを発見するためにも、自分に正直に生きるためにも、大切な心構えになるということですね。

そうですね。

それと、「動きを止めない」というのも重要だと思います。

大学職員時代、いつも独楽(コマ)を持ち歩いていたんですよ。学生とのキャリア面談のときに、それを回して見せるんです。独楽が、激しく回ることで軸を示すように、人間も回り回れば、どこかで軸が見つかるものなんです。

生き方を探ろうとするとき、動きを止めてじっくり考え込みたくなる人も多いと思うのですが、立ち止まらずにふらふらと動き続けてこそ、良い出会いや気付きを得られる可能性が高まるんじゃないかと。

自分自身を先入観で縛り付けず、動き回りながらさまざまな人、物事に触れることを積み重ねていくことで、きっと自分らしさの軸が定まっていくのだと思います。

──独楽と同じように、回り回ってこそ軸が定まってくる……とても納得です。これまで、夢を持っていないがために「夢に向かって頑張る」ことができず、どうすれば自分らしく生きていけるのかな……とモヤモヤしていましたが、今回のインタビューを通して、加算型でキャリアを築くためのコツや心構えについてたくさん学ばせてもらいました。私も動きを止めずに、そして潔癖になりすぎずに、さまざまな人や物事に触れて、自分に正直に生きていきたいと思います。ありがとうございました!


ソラミドmadoについて

ソラミドmado

ソラミドmadoは、自然体な生き方を考えるメディア。「自然体で、生きよう。」をコンセプトに、さまざまな人の暮らし・考え方を発信しています。Twitterでも最新情報をお届け。みなさんと一緒に、自然体を考えられたら嬉しいです。https://twitter.com/soramido_media

取材

安井省人
株式会社スカイベイビーズ代表取締役/クリエイティブディレクター

クリエイティブや編集の力でさまざまな課題解決と組織のコミュニケーションを支援。「自然体で生きられる世の中をつくる」をミッションに、生き方や住まい、働き方の多様性を探求している。2016年より山梨との二拠点生活をスタート。
note: https://note.com/masatoyasui/

執筆

笹沼杏佳
ライター

大学在学中より雑誌制作やメディア運営、ブランドPRなどを手がける企業で勤務したのち、2017年からフリーランスとして活動。ウェブや雑誌、書籍、企業オウンドメディアなどでジャンルを問わず執筆。2020年からは株式会社スカイベイビーズにも所属。
https://www.sasanuma-kyoka.com/

撮影

飯塚麻美
フォトグラファー / ディレクター

東京と岩手を拠点にフリーランスで活動。1996年生まれ、神奈川県出身。旅・暮らし・人物撮影を得意分野とする。2022年よりスカイベイビーズに参加。ソラミドmado編集部では企画編集メンバー。
https://asamiiizuka.com/

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